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 しかし一向に終わりはやって来ない。

 それどころかいつの間にか浮遊感もなくなっている。


 不思議に思い目を開けると、今まで明るかった世界が、真っ暗になっている。

 いや違う、世界が暗くなったわけじゃないカノンが黒い炎に包まれているのだ。

 そしてゆっくりゆっくりと下降し、とうとうカノンは何事もなく、地面へと着地をした。


「どう……して?」


「さすが<絶対>の、この世界からいなくなってもなお、愛する人を守るのね」

 目の前にはいつの間にか二人の少女が立っている。


「ラブちゃん? シルフィアちゃん?」

 どうして今彼女たちがここに居るのだろう。


「どうしてって顔ね、申し訳ないのだけれどあの日から今日まで、あなたの行動を監視させて貰っていたわ。最後にあの男から頼まれていたのよ、あなたをよろしくと」

 だがそれと今の黒い炎になんの関係があるのだろうか。


「そしてもうひとつの疑問ね、あなたポケットの中身を見てみなさい」

 そう言われカノンは制服のポケットの中を探る。


「ない」

 彼がいなくなった日から、肌身離さず持っていた黒い羽根が消えている。


「あなたは、あれに助けられたのよ」

「YES クロちゃんはこうなることを予想してたんだね」

「まあ正確には何かあった時のためね。まさかこんなことに使われるとは思ってなかったでしょうね」

 シルフィアは鋭い眼差しでカノンに近づいて行く。

 そして腕を大きく振りかぶると、立ち尽くすカノンの頬をめいいっぱい叩いた。


「見損なったわ……あなたは世界最強の男の契約者でしょ!」

 シルフィアの語気は少しずつ荒くなってゆく。

「それなのにこんな――」


「NO! カノンちゃんだって辛いよ」

 そんなシルフィアを必死で止めに入るラブ。


「ラブは黙ってて!」

 しかし彼女は、ラブの手を払い除けさらに続ける。


「あなたが死んでしまったら! 彼は本当に帰ってこない!」

 いつものどこか感情の欠けた声は今や見る影もなく、はぁはぁと肩で息をしている。

 いつの間にかその頬には、涙の雫をつたわしていた。


「シルフィア、ちゃん?」

 初めて見る彼女のそんな姿。

 

「彼は私に、あなたが世界の全てだと言ったわ! ならその世界が失われれば、彼にもう帰る場所はない!」

 彼女の涙は、まだ止まることなく流れ続けている。


「……」

 カノンはたくさんの出来事が一度に訪れ、混乱し、何が何だか全く理解ができなかった。



「ごめんなさい……少し取り乱してしまったわ」

 そしてシルフィアはスーっとゆっくり深く深呼吸をすると、真っ直ぐな目でカノンを見つめる。


「あの男は最後、あなたになんて言ったの」

 そう言われて彼のいなくなったあの日を思い出す。


 彼は、ヤトはあの日確かに迎えに来ると言った。

 約束だと確かに言った。

 指きりまでした。


 ならば彼が戻ってきたとき、自分がいなければそんなのは嘘だ。

 そんなことに今更気づく。


 カノンは自分のことばかりを考えていた、自分が辛いから、自分が悲しいから。

 彼が帰ってくると、まだ死んでいないと思っているくせに、逃げ出そうとして。

 そして屋上から飛び降りた。

 こんなのヤトが帰ってこないと認めてしまったも同然ではないか。


 カノンはヤトを信じている、ならばいつまでも待っているのが当然だろう。

 どんなことがあろうと信じて、いつまでも生きて待っていなければ。


 あの日から精気のなかったカノンの目に光が戻り始める。


 だいたい決意なら幼い頃にしている、あの祭りの日、彼とともに生きて行くと誓ったではないか。

 罪を背負い、絶望を抱きそれでも一緒に歩いてゆくと。


 なのに今更この程度のことで、揺らいでいてどうする。

 簡単なことだ、ただひたすら待てばいい。


 待って、待って、待って、待って……そしてまた待てばいいのだ。

 彼を愛しているのだからそんなことたやすい。 


 カノンは再び心に誓い、それを深く胸に刻み込んだ。


 そして体にぐっと力を込め、はっきりと自分の意志を持ってシルフィアを見つめ返す。


「わかって貰えたのならそれでいいわ。もうあなたの監視はしないから」

 彼女はそう言ってカノンに背を向け歩き出す。

 だがシルフィアは途中で立ち止まり首だけでこちらを振り返る。


「文句なら帰ってきてから存分に言ってやればいいわ」

 その声はいつもの彼女のものに戻っていた。


「……ありがとう」

 そんな言葉じゃ足りないくらいに感謝している。

 もし彼女が本気で怒ってくれていなければ、カノンは間違いに気付かず、過ちを繰り返したことだろう。


「本当にありがとう」


「それじゃあ私たちは行きましょうラブ」

「YES! 何かあったら連絡してね! じゃあまた今度!」

 今のカノンにはその言葉が嬉しかった。

 ”さようなら”じゃなくてまた今度。


「うんまたね」

 ラブとシルフィアに再開を告げ、カノンも強く今度は正しい方に、勇気の一歩を踏み出した。


 もう絶対に迷わない。

「いつまでだって待ってるよ、ヤト」


 どれだけの時が流れようと、彼が戻るその日まで。

 そして再び手を取り合い、ともに歩ける日を夢見て――


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