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 重厚な鎧を着た戦士が、建物の中に入ってきた。

「もう出てきていいぞ」

 嫌というほど聞こえていた、戦いの音は今はもう聞こえない。

 カノンは、それを聞くとまだ外に出るのを怖がっている生徒を尻目に、一人飛び出した。


 ヤトはここで待てと言った。

 でもそんなことは関係ない、何かとてつもない胸騒ぎがする。

 息せき切ってヤトがいるであろうグラウンドへ向かう。


「はあ、はあ……何、これ」

 しかし少女の目に映ったのは、ただただひたすらに荒れ果てた大地、疲れきり思い思いの場所に座り込む戦士たちの姿。


 そして、膝をつき顔に手を当てうずくまるシルフィア。

 呆然と立ち尽くすゼルベル。

 悔しげに顔を歪めるラブ。

 勝利したにもかかわらず、歓喜の声はここにはない。


「ヤト……どこなの」

 そして彼の姿も。


 でもカノンは認めない、彼は約束と言ったのだ。

 必ず迎えに来ると。

 きっと探せばどこかにいる。


「また無茶して起きあがれないんでしょ」

 カノンはそう思いグランド中を探し回る。


 だがどこを探しても彼の姿は見当たらない。

 嫌な予感がどんどん膨れ上がってくる。


「そんなはずないよね」

 彼は強い、それも世界一。

 そんなんはずない、何度も何度も自分に言い聞かせた。

 鼓動がどんどん早くなる。


 ふと足を止めたカノンの頭上に、何か黒い炎のようなものが見えた。

 それはゆらりゆらりとカノンを目指すように落ちてくる。

 彼女はそれを大事そうにそっと手で包み込んだ。


「ヤ、ト?」

 それは炎で出来た一枚の羽根であった。

 その羽はカノンに語りかけるように、しきりに黒い炎を揺らしながら燃えている。


 それだけで、カノンは嫌な予感が的中してしまったと悟った。

 笑ってと言われた時から少し違和感はあったのだ。

 本当は引き止めたかった、でもできなかった。

 ヤトの目を見てしまったから、絶対に揺るがぬ決意をその目に浮かべていたから。

 そして彼を信じていたから。


 彼はその黒い羽だけを残しこの世界を去った。


 本当は認めたくはない、でも心のどこかで気付いてしまった自分がいる。

 気付いてしまえばもう、後戻りはできない。


 いや、もしかしたら初めから気付いていたのかもしれない、幼い頃からその身にあった、契約によって彼とつながっている感覚、それが失われたということを、そしてそれが何を意味しているのかも。


 でもそのことから必死に目をそらした。

 気付きたくなかったから、認めたくなかったから。

 しかしもう遅い、気付いてしまったのだから。


 全身から力が抜け、膝から崩れ落ちる。

 涙が止まらない、泣くつもりなんてないのに、次から次へと勝手に溢れてくる。

 頭の中は真っ白で、体は宙に浮いているようだ。


「ヤ゛、ト……ヤトォォォォ」

 戦いの果て、戦場に残ったのは勝利の雄叫びでもなく、喜びの歌でもない。

 この場に響き渡るのは、少女の悲痛な叫びだけであった。


 そして突然降り始めた雨が、戦士たちの体を、カノンの頬を濡らす。

 


 ――こうして少年と少女の約束は、ついに果たされることはなかった。

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