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 転移の魔法で教会までやってくる。

 眼前に広がるのは、視界には入りきらないほど大きな建物。

 石造りでところどころ蔦が巻きつく、青い屋根の外観、丁寧に手入れされた庭、一見するとお城にしか見えない。


 そして建物の中心一番高くそびえ立つのが教会のシンボルとも言える時計塔、これが教会の本部兼皇帝の住居である。

 衛兵に挨拶をして大きな石扉をくぐり中に入ると、長い長い廊下が見えてくる。


 石が引き詰められた廊下は冷たくそして薄暗い。

 一直線の廊下の両側には大小様々な客室がある。

 そんな廊下の一番奥、突き当りを左に曲がった先にひときわ大きな扉がある、そこが会議室だ。

 ヤトはいつものように廊下が長すぎて鬱陶しいと思いながら木の扉を開いた。

 



 部屋に入ると中には3つの人影があった、全員が何やら呆れたような顔でこちらを見ている。


「<絶対>のあなた来るのが遅いわよ」

「しっしょ会議サボるとかハンパねえ」

 開口一番彼らはヤトにそう言い放った。


「会議は午後からの予定だろう」

 間違えてはいないはずだ、だが確認のため尋ねる。


「YES! その通りだよクロちゃん!」

 なら何が遅いのか、ヤトはしっかり午後にやってきた。

 遅いと言われる覚えはない。


「あなた今何時だと思ってるの?」

 時計を見ると既に4時を回っている。


「NO! クロちゃん、会議はもう終わっちゃいました」

 話を聞いているとどうやらそういうことらしい。


「午後と聞いて4時にやってくるなんてどうかしてるわ」

 そう辛辣な言葉をヤトに投げかけてくる、目に感情のない、髪の短い銀髪の少女。

 彼女はナンバーズNo.Ⅴ冠する名は<無限>、シルフィアだ。


「なら手紙にしっかりと時間を記載しておけ」

「手紙を出したのは私じゃないもの」

「YES! フィアちゃんは悪くないよ!」

 そんな彼女をフィアと呼ぶ、ダークブラウンの髪をなびかせる背の小さい少女。

 この元気な彼女はナンバーズNo.Ⅲ冠する名は<神速>、ラブである。


「じゃあ誰だ俺に手紙を出したのは」

「ベルよ」

 そして、ベルと呼ばれるひょろ長く、銀髪で目まで隠れるおかっぱの男。

 ヤトのことをしっしょ(師匠)と呼ぶ彼がナンバーズNo.Ⅳ冠する名は<死神>ゼルベルだ。


「ゼルベルお前」

「しっしょごめん、まさか午後と書いて4時に来るとは思わなかった」

 あまり悪気がなさそうにゼルベルは手を合わせている。


「あなたも悪いわベル」

「だから謝ってんじゃん、姉ちゃんは黙とけ」


「まぁいいでしょう、会議の内容は私が<絶対>のに伝えるわ。そのために残っているのだから」

 そう言うと彼女、シルフィアは無言で席に着くよう促す。

 ヤトが席に着くのを確認すると彼女は会議の内容を語り始めた。


 シルフィアの話は一時間にも及んだ。

 内容をまとめると、各地でアンクルが不穏な動きを見せているようで、普段ではありえない場所にいたり、今までにない行動を見せたりととにかく怪しいとか。

 そのことについてナンバーズが集まり意見を交わしたらしい。


 会議であったことを一通り話し終えたシルフィアはふーっとため息を着くと

「で、あなたの管轄に何か異変はない?」と訪ねてきた。

 正直話が長すぎて眠たくなってしまっていたのだが、趣旨はわかっている。


 日本で何かあったかと頭の中を探ってみる。

 しかしここ最近はやけに静かで、アンクル自体襲ってこない。

 それが不思議といえばそうかもしれないが、異変というほどのことでもないだろう。

「いいや特に」

「そう、それならいいわ」


 気付くと、近くにいたゼルベルとラブの姿が見えない。

 どこへ行ってしまったのかと辺りを見渡すと、部屋の奥の方で何か言い争いをしている。


「黙れチビが!」

「NO! ちびじゃない! ベル君だってキノコのくせに」

「きのこだと!?」

 睨み合う二人、しばらくすると二人の体が同時に燃え上がる、喧嘩に魔力を持ち出したのだ。


 ごうっと音を立て魔力が手に集まり始めると、みるみるうちに武器の形に変化してゆく。

 この世界では武器は自分で作るもの、自分の魔力を練り上げ思い思いの形に形成して戦う。

 レベルが上がると武器の生成速度や強度が増してゆく。


 ゼルベルが作り出したのは大きな鎌だ、そしてラブの手には彼女の細腕で振り回せるのかというような剣が握られている。

 互いに作り出した武器を打ち付け合う、身を割くような衝撃と音が室内に広がる。


「まずいわね、止めてくるわ」

 隣にいたシルフィアも立ち上がると魔力を放出し身の丈ほどもあるであろう杖を作り出した。

 そして二人のもとへ駆け出す。


 だがどうだろう、止めに行ったはずのシルフィアも加わり3人でさらにドンパチやり始めたではないか。


「姉ちゃんは引っ込んでろ!」

「そうはいかないわ」

「YES! この際だから二人まとめて相手してあげる!」

 やれやれ、とんだ世界の最高戦力だ……


 No.Ⅲ<神速>のラブ、彼女は剣での戦闘を得意とする、その剣は体の小さな少女が扱うにはかなり大きい、しかし彼女はその剣をなんと片手で軽々と振り回す。

 だが彼女のすごさは剣技にあらず、彼女の本質はスピードにある。

 小さな少女ラブは常人では考えられないほどの速さで剣を振るう。本気を出せば刀身など見えなくなってしまうほどだ。


 No.Ⅳ<死神>のゼルベル、彼は鎌での戦闘を得意とする、鎌などというおよそ戦闘には向いていないであろう武器で世界の4位に付けるほどだ彼のテクニックは計り知れない、こと戦闘センスにおいてはナンバーズ1である。


 No.Ⅴ<無限>のシルフィア、彼女は魔弾による戦闘を得意とする。

 魔弾とは自分の魔力を圧縮し弾をつくり敵にぶつけるのだが、彼女以外にこの方法で前衛的戦闘を行う者ほとんどいない。

 なぜか、他の者たちは武器を形成してしまえばそれ以上魔力は必要としない、しかし魔弾は一発ごと馬鹿にはできない量の魔力を必要とするからだ。

 魔力の量は一人一人決まっている、尽きてしまえば戦闘続行は不可能である。

 それなのになぜ彼女がこの戦闘法を用いるのか、それは彼女の体質に秘密があった。

 彼女は生まれつき、人の数十倍の魔力を保有しているのだ。


 そんなどいつもこいつも他人と一線を画す面子が屋内で戦闘をし始めたのである、当然放って置けばそのうち教会本部は跡形もなくなるだろう。

 そうなる前に彼らを止めなければ、ヤトは近づき彼らに落ち着くよう呼びかける。


「おい、そのへんにしておけ」

 しかし彼らは聞く耳を持たない、それどころか

「NO! クロちゃんには関係ない!」

「しっしょはあっち行っててくれ」

「<絶対>あなたは黙ってて頂戴」

 などと言ってくる。


 さすがにヤトもこれには頭にきた、言葉での説得がダメなら実力行使だ。

 ヤトも魔力を放出する。

 No.Ⅰ<絶対>のヤト、ヤトは体術での戦闘を行う。

 生まれつき強力なその魔力を、全身に循環させ爆発的な身体能力とパワーを得る。

 これは、ヤトの人間離れした強靭な肉体があるからできる芸当だ、普通の人間は魔力の炎で体を覆うことはできても体内で循環させることはできない。

 それを無理矢理行うと、血管や身が裂け最終的には死に至ってしまう。


「じゃあ俺も混ぜてもらおう」

 そう言うと放出した魔力を一気に体内に循環させる。

 そして全身に魔力が行き渡ったのを感じるとそっと体に力を込めた。

 その瞬間、ヤトの周りから爆風がほとばしり、部屋の中はものすごい圧力に満たされる。


 「「「げ……」」」

 3人はそんなヤトにたまらず戦いの手を止め、距離をとると急に肩を組み始めた。


「し、しっしょ冗談だよ冗談、ほら俺たち仲良しだぜ」

「YES! そうだよとっても仲良しだよ、ねフィアちゃん」

「ええ、もちろんよ私とベルなんて一緒にお風呂に入るくらいの仲よしだわ」

「姉ちゃん気持ち悪いこと言うな」


 魔力で作った武器は既に原型を失い始め燃え尽きるように消えていく。

 そして3人とも必死で仲良しアピールをしてくる。

「なんだもうやめるのか」

「や、止めるからそろそろその魔力をどうにかしてくれよ」


 全員が額に冷や汗を浮かべている、こんなところでヤトが暴れれば、それこそこの建物は跡形もなく吹っ飛ぶであろう。

 それだけは避けたいといった風だろうか、必死になだめてくる。


 やめるというなら仕方ない、これ以上長引かせても意味はない。

 ヤトは体への魔力供給を中断した。

 すると部屋に充満していた目に見えない圧力も収まる。

 それでやっと緊張状態が解けたらしい、みんなほっとため息を付いている。


 時間を見ると既に6時を回っていた。

「話はこれだけか?」

「ええ、異常がないならこれ以上何もないわ」


 それを確認すると、ヤトは部屋の出口を目指し歩いて行く。

「しっしょもう帰っちゃうのか」

「ああ今日は学園祭の後夜祭に行く約束をしている」

 振り返らずにそう答え、部屋を後にした。

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