11
カノンはしばらく廊下を歩くと、人気のないところで足を止めた。
準備で盛り上がっている生徒たちの喧騒が遠くに聞こえる。
「いきなりどうしたんだ」
「どうしたって、契約のことは言っちゃダメでしょ!」
「どうして」
「法律違反じゃん!」
”契約”それは昔の人々が、つくった魔法だ。
契約時、体に負担がかかり激痛を伴なう。
契約を交わした人間は、互が強力な精神的な支えとなる。
一番の魅力はお互いに魔力の供給をしたりできることだ。
これらのことによって互いが互いを補い合い、魔力のコントロールをより円滑に行うことができる。
そして行使する魔法もより強力なものとなる。
しかし現在では、魔法使い一人一人のレベルや能力自体が上がって、契約を交わすメリットがほとんどなくなった。
なので、契約を交わすものはほとんどいない。
最近では、一種の結婚のようなものとして扱われて始めているいる。
だがこの”契約”一度交わしてしまうと二度と取り消すことはできない。
相手が死ぬか、自分か死ぬかしない限りはお互がお互いに縛られる。
そのためもちろんトラブルが起きることもある、なので日本の法律ではで25歳以下の人間は契約を交わすことを固く禁じられている。
当然バレれば重い罰則があたえられるのだ。
「別に大丈夫だろう」
「バレたら大変だよ?」
「俺は教会の人間だぞ、日本の法律なんかの範疇にはいない」
そうである、教会に所属する人間は、教会が定めた法の中での行動を行う権限を持っている。
そのため教会に属する人間は各国の独自のルールや法に従う必要はない。
「それでもやっぱりよくないよ」
「でも―」
「でもじゃない! 文句があるならメールかファックスで!」
だがいくら従う必要がないとは言っても、その国にいる以上ある程度のルールは守らないと周りの目もある、何より好き勝手をしてしまっては、教会の信用の低下に繋がりかねないのだ。
カノンはその事を気にしているのだろう。
「わかったわかった、今度からは気を付ける」
どーどーと暴れ馬をなだめる。
「よろしい、じゃ教室戻ろうか」
「買い出しは?」
「あんなの嘘に決まってるじゃん、教室を出る口実」
教室に戻るも結局ヤトに仕事はなく、この日は一日何もせずに終わった――
家に帰り、食事を終える。
何をするでもなく二人してボーっとテレビを眺めていたが、そのうちカノンが口を開いた。
「ねぇ、今日友達に聞いたんだけど、後夜祭があるんだって」
「そうらしいな」
さすがに学園に通って2年になる、そういったことに興味がなくても行われる行事くらいは知っていた。
「話を聞いてるとすっごく楽しそうなの! 私もいってみたいな」
「行けばいいじゃないか」
ヤトが聞くところによると、後夜祭は一般の参加を受け付けておらず、生徒だけの行事とされている。
だが生徒であるなら誰でも参加資格があるはずだ。
ならカノンにももちろん参加資格はあるはずで、行きたいなら行けばいい。
「それが、男女のペアじゃないと入れないらしいの……」
「そうなのか?」
その情報は知らなかった。
カノンを見ると顔の前で手を合わせ、上目遣いの甘えているような表情でじっとこちらを向いている。
それで何を言いたいか分からない程ヤトも鈍感ではない。
「一緒に行けばいいんだろ」
「本当に? 一緒に行ってくれるの!?」
「ああ、約束だ」
「わーいやったー!」
そう言ってカノンはいつものように、満面の笑みでヤトに飛びつく。
迎えた魔法祭前日の夜、カノンは初めてのことに緊張しているのか、まだ前日にもかかわらずそわそわして落ち着きがない。
そして口を開けば楽しみだ楽しみだと顔をほころばしている。
そんなこんなで、夕食後二人してたわい無い会話をしている時だった。
ピンポーンという音が聞こえてきた。
「あ、私出るね」
カノンは立ち上がると、素早く玄関へと向かった。
しかし部屋から出て行ったかと思うと、あっという間に戻ってきた。
ヤトが不思議に思いカノンを見ると、何やら訝しげに首をかしげている。
「どうした?」
「出たけど誰もいなかったの、そのかわり玄関の前にこれが」
そう言ってカノンが手渡してきたのは、一通の手紙だった。
その手紙は真っ白な上質の紙に、金のインクで綺麗に装飾が施されている。
そして裏には見覚えのある魔法陣の刻印。
「教会からの手紙だ」
受け取って中身を確認する。
「なんて書いてあったの?」
「明日、緊急の会議を開くらしい」
「えっ……」
カノンはとても残念そうな顔をしている。
「大丈夫、会議は午後からだがそんなに時間はかからないと思う」
「本当に?」
「ああ、だから後夜祭には間に合う」
「よかった」
カノンの顔はいつもの笑みを取り戻していた。
そして翌日、カノンを見送り、午後教会へ向かった――




