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第一部 きっかけはTV番組

 好きなバラエティー番組を見終わったのが夜の十一時半だったので、そろそろ寝ようかと思っていた。

 特に意味も無く適当にテレビのチャンネルをザッピングしていたら、あるニュース番組のテロップが目に止まった。

 テレビ画面の中央には「夢の装置?記憶が蘇る!」という文字がでかでかと映し出されている。

 深夜の報道番組の「話題の最先端技術を紹介」という一コーナーだった。

 歯を磨く手が止まった。ソファに座りなおして、テレビのボリュームを上げる。

「ついに、こういうことができる時代になったんですね!では、驚きのVTRをどうぞ」  

 フレッシュさ溢れる新人の女性アナウンサーがカメラに向かって手を振ると場面は変わり、どこかの会社の応接室で男性と対面している所から、VTRが流れ始めた。

「こちらの研究所ではなんと!夢の中に潜入して、失くした記憶が蘇ると聞いたのですが、それは本当ですか?」

 女性アナウンサーは白衣を着た男性に対して質問した。

 男性は大きく一つ頷くと、

「はい。私達が開発した潜入システム『パラノイア』を使って夢の中へ潜入(ダイブ)することが可能になりました」と堂々と宣言した。

 いつの間にか、ドキドキと鼓動が早くなっているのを感じる。桜井陽菜(ひな)は画面に釘付けになった。

 まるでマンガの世界のような話じゃないか。

 しかし、昨今の科学技術の発展は目覚しい。

 例えば、どんな細胞にも発展するIPS細胞だって、ほんの数年前にはSF小説の中だけに存在する技術だと思っていたのに、今は現実に存在する。

 夢に潜入する技術が不可能だと言い切ることは今の時代、誰もバカにできない気がする。

「一体どのようにして夢の中に進入するんですか?」

「えー、こちらの特殊なヘッドフォンを装着して、これもまた特殊な音楽を聴いてもらいます」

 画面の中にはこの会社の担当者らしき男が映っている。

 その下には「坂巻 透博士」と表記されていた。

 坂巻博士は一応白衣は着ているが、それでも分かるほど体格がよく、肌もそこそこ日焼けしてあり、世の中がイメージする博士像とはかけ離れてた姿をしていた。研究室で機械いじりをしているよりも、どこかのジムでトレーナとして働いているほうがしっくりくる。

 博士は、とくに抑揚もないしゃべり方で受け答えしていた。

 その手には、なにやら怪しげなヘッドフォンがあった。

「それだけで夢の中へ進入できるんですか?」

 博士は「はい、そうです」と言って、

「このヘッドフォンの中には通信機が内臓されていて、これをこのように装着していただきます」

 目を隠すようにヘッドフォンを装着した。

 ヘッドフォンというより少しごついアイマスクをしているように見える。

「そうしますと、このヘッドフォンから特別な音楽が流れてきて、それを聞きながら眠ることによって、外部から夢へ潜入できる状態になります」

 博士はヘッドフォンを外す。

「そして依頼者が十分に眠りについたら、次に我々がその夢の中へ進入し、記憶を探していくと、簡単に言うと、こういうことです」

 と、締めくくった。

 今の説明、簡単だったか?

「ちょっと待ってください。すると、自分の夢の中に他人が入ってくるということですか?」

 リポーターは少し非難交じりの声で博士の説明の補足をした。

「他人といっても、ちゃんと弊社の研究員です。しっかりと訓練されています」

 リポーターの非難をさらっと受け流し、博士は淡々とした口調で対応する。

「現段階ではまだより多くの臨床データを集めているところですが、それが、認められ、国の認可が下りれば、すぐに皆様もお使いいただけるようになれると思います」

「なんか、ちょっと怖い気もしますね」

 そういうアナウンサーの一言でVTRが終わり、画面はスタジオに戻った。

 五十代くらいの太ったおばさんパネラーが「私は最近物忘れがひどくてこれがあればもう物を忘れなくなるなんて便利ねぇ」と気楽に話す。

「しかし、他人の頭の中の情報を見るなんて、究極のプライバシーの侵害になる恐れもありますよ」

 こうコメントしたのはおじさん評論家。

 母が台所で食器を洗いながら「嘘くさい話ね」とこぼしていた。

 だが、陽菜の反応は全く違っていた。胸が熱くなる。

 これだ!と思った。

 いや、絶対にこれしかない――――――


「陽菜ー。今日カラオケ寄って行かない?」

 放課後、クラスメイトで親友の森下三久が声をかけてきた。

 三久は一曲でも自分のデパートリーが増えると必ず私をカラオケに誘って練習台にする。天然で茶色ががった髪の毛がかわいくて、もちろん顔もかわいくて、歌もうまい。その上、頭までいいとくるからほんと人間不公平だ。

 でも、

「ごめん。今日はパス。帰りに寄るところがあるんだ」

「なんだ。残念。せっかく、ぽんしゃりにゃんにゃんの新曲覚えたのにぃ」

 顔の前で軽く手を合わせて教室を出た。

 放課後、学校からの帰る途中に立ち寄ったのは、ある施設だった。

「おばあちゃん、来たよー」

 老人介護施設「ほほえみ」

 大好きなおばあちゃんがここに入居して今日でちょうど半年。

「もう、ごはんのじかんですか」

 つまり、祖母の痴呆が始まったのもちょうど半年ということになる。

「違うよ。陽菜が来たの。ごはんはまだだよ」

 陽菜は祖母に駆け寄り、ベッドから起き上がるのを介助した。

 痴呆のきっかけは祖母の家が火事になった事だった。

 三人の娘を無事に嫁に出した後は、定年を迎えた祖父とよく旅行に行ったりと、仲良く二人暮らしを満喫しているようだった。

 しかし、その自宅が火事になり、それに巻き込まれるような形で祖父が亡くなった。

 祖母は助かったものの、家と夫を同時に無くしたショックで寝たきりとなり、そこから急速に痴呆が進行していったのだ。

 幼い頃から両親が共働きだった陽菜は学校から帰る先は自宅ではなくもっぱら祖父母の家だった。だからだろうか、自分はおじいちゃん、おばあちゃん子だったことは自覚している。祖父母の家が全焼してしまったときは自分もショックで二三日寝込んでしまうほどだった。

 その後しばらく祖母は陽菜の家で引き取ることになった。しかし、祖母の痴呆は思った以上に急速に加速して行き、引き取ってから一ヵ月後には老人擁護施設への入居がよぎななくなった。

 陽菜は中学校から帰るとまず、祖母のいる養護施設へ行き、三十分から一時間くらい側にいるようにしていた。

 そして、最近になって祖母が頻繁に口にすることがあった。


「おじいさんとの約束をはたさなくちゃ」


 最初のうちは「何の約束?」と聞いても「なんだったけ」と言い返すだけだった。

さして気にもしていなかったが、たびたび病院内を徘徊しては、約束が、約束がと繰り返しているのだという。

母と母の姉妹達は、そんな祖母の言葉をあまり真剣に聞いてなく、いつもの痴呆だと思い、祖母に対して「そうね、でも、もうおじいちゃんはいないから、約束はもう平気なのよ」と繰り返すばかりだった。

 祖母は「そうなの?」と一旦は納得するものの、次の日にもその次の日にも「約束が、約束が」というので、さすがに家族のほとんどが辟易としていた。陽菜を除いては。


 陽菜はポケットの中にあるスマホに手を伸ばした。

 あの番組が放送されたその日にあの会社のホームページを調べた。すぐにブックマークもした。

 会社名はウーバー研究所と言った。場所を調べるとなんと新潟県だった。

 電話番号は載っていなく、メールアドレスだけしか載っていなかった。

 とてもメールだけで伝えることはできない悩みだと思った。

 どうしても行って確かめてみたい。

 思いは日増しに強くなっていった。

 

ついに、いても立ってもいられず、陽菜はとうとう決心した。このまま黙って指をくわえておばあちゃんが悲しんでる姿を見てるだけなんて絶対できない。

 でも、母になんて言おう。言ったらやっぱりバカにされるんだろうか?そんな漫画のような怪しい機械に頼ろうとする事に。でも――――――


 決行の日は、初夏の日差しが厳しくなってきた平日の金曜日だった。

「いってきまーす」

 いつもどおり、学校に行くように家を出た。しかし、行き先は学校ではない。例の会社。

 学校は休む。母には何も伝えていない。初めてのずる休み。

 母は少しも怪しむ様子はない。怪しまれたら、何もかもぱぁだけど。

 家が見えなくなると学校とは反対側にある駅へと向かった。

 一目散に駅のトイレに駆け込み、私服に着替えた。薄手のジャケットを羽織って髪を下ろす。少し大人っぽくした。万が一にも補導されないためだった。

 電車に揺られ、東京駅で新幹線に乗り換えた。

 自由席に座った所で大きく息をはいた。ようやく胸をなで下ろす。

 流れる景色に目を向けながら陽菜は自分がしている行動について思いをめぐらせていた。

 テレビで紹介されたとはいえ、記憶が蘇らせることができるなんて胡散臭いことには変わらない。その点では母と同意見だった。それなのに大した考えもなしに勢いだけで行動した。お母さんに知れたら怒られるに違いない。

 でも、おばあちゃんを助けるためには

「これしかないんだ」一人ポツリとつぶやいた。


 天気はすごぶる快晴。六月の新潟駅は地面から陽炎が見えるような蒸し暑さだった。一気に全身の汗が吹き出る。新潟駅を降りたらそこからは徒歩だ。タクシーなんて贅沢なものは一介の女子高生には手が出せない。片道だけで万単位かかってるのだ。帽子を持ってこなかったことを後悔した。

「この辺なんだけどなー」

 額の汗を素手で拭いながら、スマホの地図画面をたよりに目的地を探す。

 地図によると次の角を曲がればすぐに見えてくるはず、

「あ、あった。まさか、これ?」

陽菜は思わず顔をしかめた。

 いろいろな町工場が立ち並ぶ一角に目的の会社はあった。

 平屋のプレハブ小屋って……。

 もっと近代的な建物を想像していた陽菜にとっては、そこがとても夢の中に潜入するといったような最先端技術を扱っているような場所には見えなかった。

 だが、悲しいことに入り口には「特殊解析機関UVER研究所」という看板が堂々と掲げられている。手書きだけど。

 ドアも一瞬でピッキングできそうだ。

「騙された」

 思わず口に出た。こめかみが引きつるのが分かる。

 引き返そうと踵を返した。

 しかし足が止まる。学校を休んで新幹線にまで乗って片道四時間以上かけてきたのだ。そう簡単には引き返せない。往復二万八千円。とんぼ返りなんがしてたまるか!

 再び振り返り、意を決して入り口の前に立つ。

 インターフォンも無いのか、ここは!

 息を大きく吸い込んで――――――

「もしかしてお客さん?」

「うにゃあ!」

 突然声をかけられて思わす奇声が上がってしまった。

 すぐ後ろから話しかけてきたのは一人の男子高校生だった。学校帰りだろうか、肩から学生カバンを提げている。ぶっちゃけイケメン。

 陽菜は思わず飛びのき、その拍子にドアに頭をぶつけた。

「痛ったあ……」

「大丈夫?」

 イケメン君がさらに近づいてくるのを両手を前にピンと伸ばして制止した。

「だだだ大丈夫です!失礼しました」

 頭を下げてすぐにその場から逃げようと駆け出した。

「あれ?うちに何か用があるんじゃないの?」

 駆け出したポーズのままその場で固まる。

 ああ!そうだった!!

 そのまま回れ右してイケメン男子高校生の前でピタリと直立不動で立ち止まる。

「あのっ!ワタクシっ!東京から来ましたっ!桜井と申しますっ!!こちらでの!えっと、記憶を思い出す装置について、ご、ご相談がございまして……」しどろもどろになってしまう。おまけに頭の後ろもジンジン痛い。

「ぷっ」

 頭の上から聞こえたイケメン高校生の返事が理解できなくて様子を伺うように目だけを上げた。

「あはははは。軍隊じゃないんだから。なにもそんな堅苦しい言い方しなくても」

 イケメン男子が腹を抱えて思いっきり笑っている。

 その姿を見て陽菜は先ほど自分が言った台詞を反芻してみる。

 ……………………………………ぼっ。

 顔から火が出そうだ。うぅ。穴があったら入りたい。

 ようやく落ち着きを取り戻したイケメン男子高校生(いいかげんイケメンイケメンしつこい?)が、笑いでにじんだ涙を拭きながら言った。

「それでわざわざ東京から来たの。とにかく、まあ、入んなよ。ここじゃ暑いし」

 陽菜の脇を通り過ぎ、ドアを開ける。半畳ほどの玄関からすぐに室内が見渡せた。一応部屋の半分はパーティーションで区切られていて、その奥にキッチンや小さめの冷蔵庫などが置かれている。奥にも部屋が二つほどあるようだが、どちらもドアが閉められている。どうやらここが、事務所兼、応接室として使われているようだった。

 誰もいないらしく室内からむわっとした空気が押し出されてきた。

 男子高校生は下駄箱の上にあるリモコンのスイッチを入れた。すぐにエアコンが起動する。

「これ使って」

 靴を脱ぎ、来客用と書かれたスリッパを差し出された。男子高校生はそのまま奥に行き部屋の中心付近にある扇風機のスイッチも入れた。

「失礼します」

 陽菜はそう言って、室内をきょろきょろ見渡す。先日テレビで見た場所と同じだった。

 ということは、やはり場所は間違っていなかったことになる。

「まあ、その辺に座って」

 パーティーションで目隠しされた奥で冷蔵庫を空ける音がする。

 なんだか研究所というよりこの男子高校生の自宅に来ている錯覚に陥る。今のところ最先端の欠片もない。

「それにしてもよくあんなホームページだけで来たね。物好きな人もいたもんだ」

 バタンと冷蔵庫の扉をしめて、二人分の氷入り麦茶を持ってこっちに来た。

 麦茶はお盆ではなく素手で持っている。その片方を陽菜の前に置き、自分は麦茶をその場で一気に飲み干した。空になった麦茶を台所においてから、ようやく陽菜に向かい合うように腰を下ろした。

「で、うちに何の用?って言っても、多分ひとつしかないと思うけど」

 男子高校生が話を切り出した。陽菜はコクンと一つ頷くと、

「テレビで見たんです。とても興味深い内容だったので」

 差し出された麦茶に手を伸ばす。直接持ってきたにも関わらず、コースターは付いている。ちゃんとしてるんだが、してないんだが分からない。年下だと思ってなめられているのか。

「へー。あの番組ちゃんと放送されてたんだー。こっちじゃ流してくれなかったんだよ。地方活性化とか言っといて地元で流さないなんて意味ないよ。全く」

 どうやらその番組に対して不満があるらしく、ぶつぶつ言った後、あ、そうそうと言って、男子高校生は近くの棚の中から名刺を一枚取り出し、机の上に出してきた。

「紹介が申し遅れました。俺は一応、ここの研究員って言うことになってる。坂巻チサキです」

「桜井陽菜です」

 お互い、なんとなくお辞儀をする。

 そのまま目だけを動かし、こっそりとチサキを見る。

 少しチャラい雰囲気だけど、凄く整った顔立ちをしている。この人に笑われたのか。恥ずかしいな。

 陽菜はチサキには見えない位置で口を尖らせた。

「でも、参ったなー。今日、親父出張してるんだよ」

 チサキはすぐにばつの悪そうな顔をして頭を掻いた。

「あんなテレビでも一応反響があってさ。親父、今日は東京に行ってるの。『パラノイア』は親父がいないと使えないし……入れ違いになっちゃったね。連絡くれればよかったのに」

「えっ?」

 すぐには理解できなかった。装置が使えない?入れ違いになった?

 そんな……。ショックだった。ここまで来てやっぱりトンボ帰りなのか。

「そんな泣きそうな顔しないでよ」

 そう言われて顔を上げた。そのとたんに涙が一筋零れた。

 悲しかったのか、自分のバカさ加減に腹が立ったのかは分からないが。

 チサキは一瞬驚いた顔をした。しかしすぐに表情を緩める。

「俺も、ここの研究員っていう肩書きだからさ。一応夢の装置のことについては一通り理解しているつもりな訳」

 身を乗り出し陽菜の零れた涙を指でぬぐった。

「だから泣かないで。せめて話だけでも聞かせてよ。ピナちゃん」

「ピ、ピナぁ?」

 陽菜は思わず顔を上げた。目の前ではチサキはニカッと笑っている。

「な、なんですか?ピナって」

「んー。陽菜(ひな)ちゃんでも十分にかわいい名前だけど、イメージとしてはピナのほうが似合うかなって」

 あっけらかんというチサキに陽菜は口をあんぐりさせる。

 なんなんだよ、ピナのほうが似合うイメージって。

「やめてください。陽菜でお願いします」

「そうなの?ピナちゃんのほうがかわいいのに」

「なっ……」

 かわいい。という言葉に陽菜は激しく動揺した。生まれてこのかた「男みてぇだな」とか「女の子っていうより姐御って感じ?」としか言われたこと無いのに。この人がかわいいというならピナでもフナでもなんでもいいような気がしてきた。そんな事は絶対に言えないけど。

 目の前では、チサキが困ったようにはにかんでいる。くそっ。そのはにかみスマイルは卑怯だ。

「とにかく、こんなことを言いに来たんじゃないんです!私は!」

 陽菜は邪念を吹き飛ばすように首をぶんぶん振った。

「じゃあ聞かせてよ。陽菜ちゃんの話」

 口調は軽いが、チサキの目は真剣だった。その目を見て陽菜も思わず姿勢を正す。

 麦茶で唇を潤し、目を閉じた。

 ここからが本題だ。このためにわざわざ日本を縦断してきたんだ。

 陽菜はまっすぐにチサキを見て、

「実は、取り戻したい記憶って言うのは私のおばあちゃんの事なんです」

 真剣に、力を込めて言った。

「おばあちゃんの記憶を取り戻したいの?見たところまだ若いから記憶を無くすほどには見えないけど」

 チサキは首を傾げた。

「そうじゃなくて、おばあちゃんが失くした記憶を取り戻したいんです!」

 陽菜は一連の経緯を話し始めた。おばあちゃんの家が火事になってしまった事。そのせいで呆けてしまったが、おじいちゃんと交わした絶対守りたい約束がある事。

「その約束を忘れてしまって、おばあちゃん本当に辛そうで、何とかして思い出させてあげたいんです。でも、唯一の手がかりがあった家は全部燃えちゃったし……」

 最後のほうは声が涙ぐんでいた。

「なるほどね。話は大体分かった」

 陽菜の話を最後まで無言で聞いた後、チサキはうんうんと頷いた。

「そういったことなら後日また、おばあちゃんをここにつれてきてもらって」

「それはできないんです。おばあちゃんは今、施設にいるから遠出はちょっと……」

 うーん。チサキが腕組みして考える。陽菜は不安を覚えた。やっぱり無理なのかなぁ。

「親父に相談してみる、ちょっと待ってて」

 そう言ってチサキは携帯電話をポケットから出して、部屋から出て行ってしまった。

 行動力のある人だなぁ。

 しばらくするとチサキが帰ってきた。携帯をパタンと閉じて

「オッケー。これから一緒に東京に行って親父と落ち合おう。ちょうど道具一式持って行ってるし、やってくれるって」

 ウインクして右手の親指を上げた。

「本当ですか!」

 陽菜は思わず飛び跳ねた。

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