初体験
『今夜空いてる?』
まるでナンパのようなあさみからの連絡が来たのは、翌週の金曜の夜だった。
『空いてるわけないじゃん! なんで?』
『空いてないなら、いい……』
『ウソ、ウソ。大丈夫よ。どうしたの?』
『今から千暎ちゃんちに行ってもいい?』
『いいけど?』
それから間もなくあさみが来た。
「ごめんね、急に……」
「平気よ。上がんなよ」
あさみがモジモジしている。
「なに? どうしたの?」
「実は史人くんも一緒なの……」
「へっ?」
後ろからひょっこり顔を出してきた男がひとり……。
「こんばんは。久しぶり」
「あ、どうも……。おひさ。なんでまた二人してウチなわけ? まぁ、いいけどさ……。どうぞ」
千暎は飲みかけのビールを飲み干すと、冷蔵庫から麦茶を出した。
「千暎ちゃん、私もビール飲みたい!」
「ハイハイ。史人は? 車だよね?」
「あ、あぁ……」
「で? どうしたの? ふたり揃ってさー。ケンカでもした?」
あさみが、持って来たたこ焼きを食べながら、勢いよくビールを飲み始める。
「千暎ちゃんも食べて」
あさみが答えようとしないから、史人に聞く。
「史人? 何があったの?」
千暎が食べながら尋ねる。
「実は……。あさみが……、竹元じゃないと感じないって言い出して……」
「はぁ? 感じないって……。あっ! えっ? えっ? まさか……。あさみ? マジ?」
「……うん。……千暎ちゃん……、お願い……。この前みたいにしてくれない?」
「なに言ってんの? あれはさ……、あん時は、酔っぱらった勢いっていうかさ……」
「だったら、また酔っぱらってよ。お願い……」
「それなら、なんで史人まで来たの?」
「それは……、なんつーか、あさみが、ど、どんな風に……感じてるのか見たいと思って……」
「ちょっと待ってよ! あんた達……。何言ってるの? 正気?」
「千暎ちゃん……。お願い! 私達に協力して欲しいの。私、史人くんに喜んでもらいたい……。ね? いいでしょ?」
あさみの懇願する顔に、思わず抱きしめたくなる千暎。たこ焼きを口に入れながら、黙り込む……。
「史人の前であさみと? そんな趣味ないんだけど……」
ふたりがお願いの目で、千暎の顔をじっと見る。
「と、とにかくさ、飲ませてよ。素面じゃ絶対無理だから!」
「千暎ちゃん、さっき飲んでたじゃない?」
「あんなの飲んだうちに入んないよー」
千暎は水割りを作り、3人で飲もうと言い出した。
「俺、車だよ?」
「あら? 帰るつもりでいるの?」
「えっ……」
「あ、でも史人はあんま飲んじゃだめだからね」
千暎は、かなりのハイペースで飲み始めると、気分上々になり、表情が緩んできている。ふたりはあの日の興奮を再び経験したのだった。
史人は、あさみを抱きしめたい衝動を必死に抑えながらその様子を見ているしかなかった。それを察した千暎は、たまらず史人を巻き込んだ。3人での初体験。酔った勢いとは理性を麻痺させるものだ。
「あさみはきっと、お酒飲むとリラックスできるんだと思う。だから、少しずつ飲んでからの方がいいのかもよ……」ぐったりとうつ伏せになりながら千暎が呟く。
その背中を見ながら史人は思った。
あさみがだけじゃない。自分も千暎の魅力に取りつかれてしまいそうだと。
史人は気持ちを逸らすように話した。
「ところでさ、今更聞くのもなんだけど、竹元は彼氏いないのか?」
――ギクッ!
「い、今のところ……いない……」
「ほんとなのか? あさみ~」
「千暎ちゃんがいないって言うなら、いないんじゃない?」
あさみは、常務との事は史人にも話していないようだった。あさみとのそんな友情関係も、千暎は好きだったりする。
「なら良かった。こんな事、彼氏にばれたら変な誤解を招くからな」と苦笑いした。
翌日の早朝、今日はふたりで頑張ってみる、と言って、史人とあさみが帰って行った。
彼氏か~。あたしには彼氏という特定人はいらないわ。もう、束縛されんのはごめんだ。
再びベッドに戻り、爆睡する千暎だった。