ふたり
週末。あさみは千暎の家にお茶しに来ていた。
「わ~い、“Peach☆Tree”のケーキだ! わざわざ買って来てくれたの? ありがとう~」
「私も食べたかったから~」
「あさみはハーブティーだったよね?」
「あ、コーヒーでも大丈夫だよ」
「えっ? 飲めるようになったの?」
「うん……。史人くんがコーヒー好きだから、頑張ってアメリカンなら飲めるようになったの」
「おやおや~? 本気で惚れちゃった?」
「好きになる時は、いつでも本気じゃないの?」
「あさみはかわいいなあ~」と、湯を沸かしに行く千暎。
「史人とはどう? 進展した?」
「う、うん……」
「何よ~、その気のない返事は。うまく行ってないの?」
「うううん。違うの。進展は……一応……したんだけど……」
コポ、コポ、コポ……。
千暎は煎れたコーヒーをテーブルに置く。
「はい、アメリカン」
「ありがとう」
千暎がお皿にケーキを乗せながら聞いて来た。
「一応って何よ。あ、もしかして、史人とは仲良し出来たの?」
あさみが頷く。
「やったじゃん! で? どうだった?」
「どう……って。あのね……、実は……私……、初めてだったんだ。史人くんが……」
「へっ? マジで? ……生娘だったんだ……」
「千暎ちゃんは引かない?」
「ん? なんであたしが引くのよ。まさか……、史人に引かれたの?」
「そうじゃないけど……」
「だよね。逆に喜んだんじゃない?」
「うん……。凄く嬉しいって言ってた……」
「ヒュー、史人もいい娘ゲットしたもんだわ」
「千暎ちゃんたらぁ~、そんな言い方しないでよ~」
「ごめん、ごめん」千暎はケーキを口にしながら笑った。
あさみがケーキを食べ干してから聞いてきた。
「あのさ、千暎ちゃん? 千暎ちゃんは……、何回目くらいから感じるようになったの?」
「えっ……。あさみもかわいい顔して、大胆な事聞くね~」
「だってぇ、その日からもうしたくないって思ったんだもん。史人くんは優しくしてくれたけど、私でも感じる日がくるのか心配で……」
「大丈夫だよ~。焦らないで彼に任せなよ。大事なのは行為じゃなくて気持ちなんだからさ!」
「だ、だよね? 史人くんに任せてみるよ」
数週間後、再びあさみが千暎のアパートを訪ねる。
「あれ? なんかあんま元気ないね」
「千暎ちゃん……。私……やっぱダメだった……」
史人は、あさみと経験してから、以前より会う回数が増えたらしい。会う度に身体を求められるが、どうも上手く行かないと言うのだ。
「史人くんが一生懸命してくれるのに、感じてくれない私を見て、自分が下手なのかなって言うから、なんか申し訳なくって……」
「あさみ? 焦っちゃだめって言ったでしょう? しばらく拒否したっていいんじゃない? 史人ならわかってくれるよ」
「でも……。わたし……史人くんを喜ばせてあげたい……」
千暎はあさみが愛しくなった。
「ね!? お酒飲まない? ストレス溜まってんのかもよ」
「でも、私、千暎ちゃん程強くないし……」
「勝負しなくていいから!」千暎は笑いながら冷蔵庫からチューハイを出して来た。
「今、何か作るからちょっと待ってて」
「えっ! 千暎ちゃん、料理出来る人なの?」
「一人暮らしだからねー。一応女の子だし。ちょっとくらいは作れるよ」
それからふたりは、しばらくガールズトーク。
「お酒って、自分を開放的にしてくれるね」あさみが言う。
「でしょ? だから外ではあんま飲めないんだよねー。隙だらけになっちゃうから」千暎が笑う。
「ねぇ、千暎ちゃん? 今日泊まってもいい? なんかもっと飲みたくなっちゃった……」
「おおっ、あさみもお酒の魔力にハマっちゃうぞー」
「ハマってみたーい!」
「……と、その前に。シャワーを浴びるよ!」
「どうして?」
「酔って浴槽入ると危険だからよ。それに化粧落としとけば、そのまま寝れるでしょ?」
「なるほど……。確かに化粧したまま寝ちゃうと、女子力下がるもんね」
ふたりは一緒にバスルームへ入る。
あさみは、会社の旅行でお風呂に入った事はあるが、こんな狭い空間で千暎とふたりだなんて、なんとなく照れてしまった。
千暎は全く気にせず、さっさと服を脱ぎ捨て、バスルームへ向かう。
ゴクリッ……。
きれい……。千暎ちゃんの背中、メッチャきれい。こんなにきれいだったっけ?
あさみは、その白くて華奢な背中に目を奪われ、しばらく動けなかった。
「あさみ? どうかした?」千暎が振り向く。
「あ……。う、うん、今行く」あさみも入る。
あさみはその背中に触れてみたい衝動にかられていた。ドキドキが止まらなかった。触ってもいい? って言えばいいじゃない? 女同士なんだし。でも何故か言えなかった。
バスルームから出ても、あさみは千暎の話が耳に入らなかった。
触れてみたい……。
「あさみ? ちょっと聞いてる? さっきっから頷くばっかでさ〜。あさみが相談持ちかけたんじゃ〜ん」酔い始めた千暎が絡んできた。
あさみは思いきって言ってみた。
「あのね……、千暎ちゃん。お願いがあるんだけど……」
「何〜? あさみのお願いなら、なんでも聞いてあげちゃうよん」千暎が酔った口調で言った。
「千暎ちゃんの背中、触りたいの……」
「へっ? 背中を触りたい? そんな事? いくらでもどうぞー。ほら!」
千暎は着ていたTシャツをスルッと脱いで後ろ向きになる。
「ああ……。きれい……」
あさみは、両手を肩にあて、千暎の背中を確かめるようにそっと顔を寄せた。
千暎はその瞬間、妙な感覚を覚える。
触ってるのはあさみ……。博章さんじゃない。でもなんだか気持ちいい。
あさみは手を前に回し、千暎の背中に顔と身体を押し付け、後ろから抱き締める格好になった。
「千暎ちゃん、少しこのままでいたい…」
千暎もまた、その心地よさに、気の済むまでそうしていたいと思っていた。
「千暎ちゃん? 気持ちいい?」あさみが背中に覆い被さりながら聞く。
「う、うん。なんか不思議で初めての感覚かも」
「千暎ちゃんの背中、とってもきれいでスベスベなんだもの。ずっと触っていたい」
千暎はお酒が入っていた事もあり、あさみに抱きしめられた感触が気分を高揚させてしまったのかも知れない。千暎はあさみにキスをした。
「・・・・・!?」
あさみは一瞬驚くものの、全く抵抗もせず千暎に身を委ねた。
《あ、あー、なんて気持ちいいの》
あさみは、史人ではなく、千暎によって快感を得てしまったのだ。




