シャルロン魔法アカデミーの影
続きが気になる方は、ぜひブックマーク登録と評価(★★★★★)をお願いします!執筆の励みになります!
第一巻:アイリスの灰 - 第二章
【第十回:シャルロンの閾と禁忌の灰】
キョウノは静寂を纏った静かな足取りで事件の現場を後にした。
彼の宇宙的意識の根幹を揺るがしたミリナの謎めいたオーラを、その背後に残したまま。
過去の残響とあの血塗られた記憶の奔流に精神を掻き乱されながら、彼は混雑した街の通りを千鳥足で歩いていた。
行き交う群衆の喧騒の中、彼の耳にいくつかの若者たちの熱気を帯びた会話が飛び込んできた。
彼らは、高名な「シャルロン」の魔術アカデミーへの入学について熱っぽく語り合っていたのだ。
この世界において、「シャルロン」の魔術は五大国が獲得を競い合う正当かつ合法的な遺産とされている。
しかし、その法的な表舞台の裏側には、あらゆる生命を震撼させる絶対的な禁忌――(絶対解放の魔法)が潜んでいる。
それは全存在において最も凶悪で、最も荒々しいエネルギーの器であり、国際的にも宇宙的にも法で禁じられた、いかなる凡夫もその深淵を覗くことすら許されない狂暴な力。
ただその呪文を一言口にしたり、その呪詛の文字を舌でなぞろうとするだけで、術者の口内は焼き尽くされ、灰へと変わる。
なぜならその魔術は、大地の最も猛烈なる元素――不滅の「紅蓮の業火」から直接引き出されたものだからである。
キョウノは自嘲気味に暗い微笑を浮かべた。
その紅蓮の炎は、彼の異形なる身体にとって決して見知らぬものではなかったからだ。
自らの内に渦巻く地獄と好奇心に突き動かされるように、彼はその強大な力を受け止める器を、あるいは何らかの答えを求めて、アカデミーの巨大な鉄の門へと足を進めた。
彼がその重厚な門をくぐり抜けた刹那、自らの魔力感知が異質な波動を捉えて一瞬で収縮した。
彼の視線の先、広場の中に一人の少年が佇んでいた。
夜の闇を溶かしたような漆黒の髪に、静かに燃える炎のような「橙色の瞳」を持つ少年――。
その少年の周囲には、無限の温もりと底知れぬ優しさが満ち溢れていたが、その静寂の奥底には、恐るべき絶対的な力が静かに眠っているのをキョウノは見逃さなかった。
キョウノはいつもの冷徹さで、視線を真っ直ぐ前方に向けたまま少年の横を通り過ぎた。
しかし、突如として目の前で繰り広げられた卑劣な光景が、彼の足を止めさせた。
あの橙色の瞳を持つ少年の周囲を、素行の悪い不良生徒たちが取り囲み、自らの苛立ちと理不尽な悪意をぶつけるように、執拗な嫌がらせと暴行を始めたのだ。
キョウノの心の奥底で驚きを呼び起こしたのは、少年の本質にそれほどの絶大な力を感知したにもかかわらず、少年が何一つ抵抗の素振りも見せず、不気味なほどの諦念を浮かべて彼らの暴力を受け入れていたことだった。
不良生徒たちは自らの内に溜まった悪意を吐き出し終えると、傲慢な足取りで受付の広間へと向かって去っていった。
その刹那、漆黒の髪の少年は静かに、アンドどこか不気味なほどの平穏を保ったまま立ち上がり、破られた衣服の塵を払った。
その表情には憎悪の欠片も浮かんでおらず、先ほどの不良たちと同じ受付広間へと、静かに歩みを進めていった……。
キョウノが広大な受付広間へと足を踏み入れると、そこには退屈な講義の声が響き渡っており、教師たちが合法的な魔術の定義や、許容される「シャルロン」の魔力の限界について淡々と説明していた。
キョウノはその言葉に塵ほどの関心も示さなかった。
ここで教えられているものなど、自らの深淵に潜む宇宙規模の呪いに比べれば、単なる表面の皮皮に過ぎないからだ。
彼が何気なく視線を横に向けると、そこには先ほど広場で橙色の瞳の少年を痛めつけていた不良生徒の一団が、今度は自分の方へと向かってくるのが見えた。
彼らは最初の悪行だけでは満足せず、盲目的な傲慢さに突き動かされてキョウノの前に立ちはだかった。
その中の一人が確実な足取りで歩み寄り、不遜極まる声音で言い放った。
「おい、新入り。お前は一年生か?俺たちは二年生、つまりお前にとっての『先輩』だ。おい、そこの小生意気な『後輩』、喉が渇いたから飲み物を買ってこい。それから、持っている金もここに置いていくんだな」
キョウノは感情の消えた虚ろな眼差しで一瞥をくれただけで、彼を完全に無視してその場を立ち去ろうとした。
しかし、男は激昂してキョウノの肩を荒々しく掴み、脅迫のトーンで怒鳴り散らした。
「おい!聞いてんのか?耳が聞こえねえのか?それとも、自分の命が惜しくねえのか!」
その決定的な刹那、空間の静寂が引き裂かれた。
キョウノの全身から、光すら窒息させるような漆黒の、精神的な圧力が噴出した。
同時に彼の右目が鮮血のような「紅蓮色」へと変貌し、絶対的な地獄の波動を放った。
彼の刃のような眼光が、傲慢な男の魂を直接射貫いた。
男の身体はまるで強固な岩石のようにその場に凍りつき、宇宙規模の威圧感の前に、全身の血の気が完全に引いた。
精神を完全に破壊するほどの恐怖のあまり、男の肉体は麻痺し、その場で失禁して地面へと崩れ落ちた。
そのわずか数秒の間、男の脳裏には自らの人生のすべての記憶が走り抜け、己が最も残虐に、無残に引き裂かれて死んでいくという偽りの死の体験が、精神をズタズタに引き裂きながら強制的に植え付けられた。
男は木の葉のように全身を激しく震わせながら立ち上がると、もはや言葉にならない意味不明な呪詛を呟き、正気を完全に失った狂人のように叫び声を上げた。
アンド、残されたわずかな理性を恐怖に貪られながら、大広間の外へと狂ったように走り去っていった……。
乾燥した薄暗い片隅の陰から、橙色の瞳を持つ少年――「ラオ」は、鋭くも静かな眼差しでキョウノの一連の行動をじっと見つめていた。
ラオの表情には驚きも恐れもなく、まるでその生徒の精神崩壊という凄惨な光景が、一瞥をくれる価値もないただの日常のワンシーンであるかのように淡々としていた。
その時、一人の教師が血相を変えてキョウノの元へと駆け寄ってきた。
教師の魔力感知が、先ほどのほんの一瞬の凄まじい破壊の息吹を捉えたからだ。
教師はキョウノの肩を強く掴み、その瞳の奥を覗き込んだ。
あの忌まわしき紅蓮の輝きを予期していたのだ。
しかし、教師は目を見開いたまま一歩後退し、困惑に満ちた声で呟いた。
「……いや、私の見間違いだったか」
教師が目にしたキョウノの瞳は、すでにいつもの光を失った「死んだような紫色の瞳」に戻おり、魔力の気配は完全に消え失せていたからだ。
教師は不審に思いながらも、再び壇上へと戻り、生徒たちへの講義を再開した。
しかし、その場の誰も知る由がなかった。
キョウノがその瞬間に講義を離れ、アカデミーの廊下を探索しようと決めたことが、この学校にいた数千人の生徒の命を破滅から救う「神の奇跡」となったことを。
なぜなら、地獄の器が広間を去った直後、壇上の教師は歴史の「禁忌」について語り始めたからだ。
教師は声を鋭く尖らせながら講義を続け、もしキョウノがその場に残って聞いていれば、アカデミー全体を一瞬にして灰燼に帰し、跡形もなく消し去っていただろう決定的な部分へと差し掛かった。
教師は全校生徒の前で、抑えきれない嫌悪感と激しい憎悪を露わにしながら吐き捨てた。
「アンド――歴史上最も強欲で邪悪、この世界において最も忌まわしく、誤った存在、それが『アイリス・ローデン』だ。絶対魔術を用いてこの大地を汚した未知なる怪物。アイリスなど、社会のただの薄汚れた『クズ』に過ぎん!」
キョウノはアカデミーの廊下の静かな探索を終え、大広間へと戻ってきた。
そこではすでに講義の余韻は消え去り、生徒たちが散り散りになり始めていた。
一人の教員が彼に歩み寄り、一枚の小さな魔術カードを手渡しながら淡々と言った。
「お前は一年生の『Bクラス』だ。励めよ」
キョウノはいつもの冷徹さでカードを受け取り、静かな足取りで自らの新しい教室へと向かった。
教室に入った彼は、最奥の窓際の席に腰を下ろし、退屈な授業が始まるのを静かに待とうとした。
しかし、その静寂は長くは続かなかった。
隣の席に、あの少年「ラオ」が座っていることに気づいたからだ。
ラオはその橙色の瞳をキョウノへと向け、親しげな笑みを浮かべながら屈託のない声で話しかけてきた。
「やあ!僕はラオ。君の名前は?」
キョウノは抑揚のない低い声で短く応じた。
「キョウノだ。『キ』と呼べ」
ラオはその短い会話を契機として、まるで広場で何事も起きなかったかのように、非常に親しげで無垢な様子でキョウノと話し始めた。
キョウノはその圧倒的な矛盾の前に、少年の言葉を遮るように、刃のように鋭い問いを投げかけた。
「なぜ、あいつらの嫌がらせに無抵抗で従っていた?」
その瞬間、ラオの表情が凍りつき、その瞳の橙色の輝きが一瞬だけ掻き消えた。
彼は動揺を隠すように話題を逸らそうとした。
「えっ……何のこと?それより、君は何を食べるのが好き?授業が終わったら、一緒に寮に行かない?」
キョウノは一切の妥協を見せず、さらに冷徹で厳格なトーンで問い詰めた。
「話を逸らすな」
ラオは重い溜息をついた。
すると、先ほどまでの無垢な雰囲気が一変し、驚くほど鋭いトーンで静かに告げた。
「わかったよ……。僕が『弱い』からさ」
キョウノは即座に言い返した。
「嘘をつくな。お前は、極めて特異で絶大なオーラを秘めている」
その言葉を聞いた瞬間、ラオは身体を完全にキョウノの方へと向け、乾いた瞳で彼を凝視しながら冷ややかに言った。
「――それは、君も同じだろう?」
その刹那、二人の間で極限まで冷徹な視線が交錯し、教室の温度が目に見えて低下した。
周囲には全身の毛が逆立つような圧倒的な静寂が支配した。
それは、互いがその仮面の裏に、決して慈悲なき地獄を隠し持っていることを告げていた。
ラオは重い息を吐き出し、空間の緊張がわずかに和らいだ。
アンド、静かでありながらも重々しいトーンで、ぽつりと呟いた。
「いいよ……。もし、あの時僕が彼らに抵抗していたら、自分自身を止められなくなっていたんだ」
キョウノはその紫色の瞳で彼の核心を射貫くように問いかけた。
「何からだ?」
ラオは一切の感情を排した無表情な顔で、静かに答えた。
「――彼らの『命を終わらせる』ことからさ」
キョウノとラオの間に流れていた重苦しい静寂は、授業の始まりを告げる鐘の音によって破られた。
教室の扉が開き、担当教師である「ミーナ」が教壇へと歩みを進めた。
彼女は息を呑むほどに艶やかな美貌を誇り、圧倒的な気品を湛えた容姿に、流れるような銀髪と空の青さを湛えた美しい青眼を宿していた。
彼女は教壇の後ろに立ち、威厳のある鋭い声で告げた。
「静粛に、生徒諸君。授業を始める」
ミーナ先生は合法的な魔術の構造や魔力の法則について、威厳に満ちた態度で講義を進めていった。
しかし、ある決定的な限界の部分へと差し掛かった瞬間、教室全体の空気が不気味に重くなった。
彼女は一度咳払いをすると、極めて厳粛な声音で語り始めた。
「さて……ここからは、この世界の歴史における『堕ちた魔術師』たちの邪悪なる禁忌について触れておこう。人間の歴史において、自然の理と論理の限界を超越した力を持ち、ただ一人の力で全軍隊を粉砕するほどの絶大な魔力を持った者が『三柱』存在する」
ミーナ先生はその青い瞳で生徒たちの顔を見回しながら続けた。
「まず、第三位に君臨し、諸王国から(破壊の魔術師)と恐れられた『ローズ・モートハリン』。この存在は、単独で最高峰の精鋭である(S級魔術師)二千人を同時に相手にし、圧倒する力を持つ。次に第二位、その絶対的な支配力から(黒闇の王)と称される『ラオ・ライス』。彼の持つ禁忌の力は、一度に三千人もの(S級魔術師)を塵に帰すほどだ」
先生はそこで一度言葉を切り、その声音には隠しきれない無力感と深い憎悪が混じっていた。
アンド、第一位の名を口にした。
「アンド……この大地を踏みにじった最も卑劣なる魂であり、歴史上最も強欲で邪悪な怪物……。第一位、(地獄の化身)の異名を持つ『アイリス・ローデン』だ。この規格外の怪物ただ一人が、――(九千万人)ものS級魔術師を同時に蹂躙する力を持っているのだ!」
その天文学的な数字は、落雷のように教室全体に響き渡り、生徒たちの思考を完全に停止させた。
しかし、キョウノはただ自らの席に静かに座り、魂の境界線で怪しく揺らめく紅蓮の残り火の気配を静かに感じていた……。
教室全体を言葉を失うほどの驚愕が支配したが、その静寂はすぐに、背筋を凍らせるような圧倒的な戦慄へと変わった。
生徒たち、割とミーナ先生の肉体が激しく脈打った。
キョウノの全身から、突如として猛烈に燃え盛る「紫色のオーラ」が噴出し、教室全体の空気を一瞬にして呼吸すら困難なほどの灼熱へと変えたからだ。
空間はその凶悪な精神的圧力に耐えきれず、窓ガラスが一斉に爆発して破片となり、強固な壁面には凄まじい地殻変動のような亀裂が走り、ひび割れていった。
全員がその場に硬直し、極限の恐怖の前に指一本動かすことも、声を上げることもできなかった。
あの絶対的な力を秘めたラオでさえ、自らの席でその想定外の地獄の前に身体を小刻みに震わせていた。
そして最も驚愕すべきは、その猛烈なエネルギーは、彼の深淵に眠るアイリスの力ではなく、――「キョウノ自身」の本来の力だったということだ。
彼の激しい憤怒と、傷つけられた驕傲が、自らの内に眠る固有の核心を覚醒させ、全存在を圧倒する奔流となって爆発したのだ。
しかしその刹那、世界の時間が完全に停止した。
周囲の空間が光を失った絶対的な暗黒へと変貌し、教室の景色は完全に掻き消え、キョウノの視界からは何も見えなくなった。
その絶対的な闇の底から、二つの巨大な「紅蓮の眼」が浮かび上がり、宇宙の威厳を湛えた久遠の輝きで彼をじっと見つめた。
その神威に満ちた眼光がただ一瞥をくれただけで、キョウノの暴走していた力は強制的にねじ伏せられ、紫色の炎は一瞬にして掻き消えた。
教室は元の退屈な現実に引き戻され、そこには呼吸を乱し、心臓が停止するほどの恐怖の余韻だけが残されていた……。
教室を支配していた息詰まるような重圧は、始まった時と同じように唐突に霧散し、生徒たちの胸に再び空気が戻った。
その戦慄の冷めやらぬ空気の中で、すべての視線が、驚愕と恐怖に引き裂かれそうになりながらキョウノへと向けられた。
キョウノは一言も発せず、ただ墓穴のように冷徹で虚ろな一瞥を彼らにくれただけで、静かな足取りで席を立ち、恐怖に震える静寂を残したまま教室を後にした。
彼はアカデミーの遥か奥にある、誰も立ち入らない静かな裏庭へと向かった。
裏庭に辿り着いた瞬間、彼の胸の中に溜まっていた激しい火山が爆発した。
あの宇宙的な怪物と出会って以来、自らの精神を掻き乱し続けてきたすべての矛盾と感情をぶつけるように、彼は強固な石壁に向かって激しい怒りを叩きつけた。
その感情は、決して敬意や親愛などではなく、自らの五臓六腑を焼き尽くすほどの、アイリスに対する「底知れぬ黒い憎悪」だった。
彼は自らの拳が砕け、鮮血が飛び散るのも厭わず、石壁を何度も何度も猛烈に殴りつけた。
アンド、周囲の壁を震わせるほどの狂気的な咆哮を上げた。
「――畜生!畜生!畜生が、アイリス!この卑劣で臆病な怪物め!この不条理な世界において、お前を侮辱し、お前を貶める権利を持っているのは、世界でこの私一人だけだ……私だけだ!お前の名を軽蔑を込めて口にする者がいれば、私はその者の喉を掻き切り、その舌を根近く引き抜いてやる。それはお前を守るためではない。お前が私の『所有物』だからだ……!お前は神でも悪魔でもない。お前は、この私の『獲物』だ!」
彼の怒号は虚空へと響き渡り、それは決して他者に自らの獲物を奪わせないという、狩人と捕食者の間の歪んだ、漆黒の絆の誕生を告げていた。
【第十七回:灰の中に奔る蒼き閃光】
キョウノは血に染まった両手から大地へと鮮血が滴り落ちるのを感じながら、重い視線を広大な天空へと向けた。
アイリスの宇宙的な魔力に頼ることなく、自らの固有の核心である「紫色のオーラ」を完全に解放したのは、彼の人生においてこれが初めてだった。
しかし、彼のまだ未熟な肉体は、長年アイリスの紅蓮のエネルギーを受け止めることに慣れていたため、自らの本来の力の急激な反動に耐えきれず、彼の視界は一瞬にして暗転し、そのまま意識を失って地面へと崩れ落ちた。
彼が再び目を覚ました時、どれほどの時間が経過したのかは分からなかった。
しかし、かつてあの市場の群衆の中でアイリスと初めて出会ったあの遠い日のように、非常に心地よく、温かい感触が自らの身体を包み込んでいるのに気づいた。
彼がゆっくりと目を開けると、自らの顔の前に、純白のように美しい白髪の毛先が揺れており、空の澄み渡る青さを湛えた美しい青い双眸が、無限の優しさで自分を見つめていた。
それは、かつて街の路地裏で不良たちから救い出した、あの可憐な少女――「ミリナ」だった。
キョウノは瞬時に正気を取り戻し、いつもの冷徹な仮面を被りながら、困惑と動揺の混じった鋭い声で問い詰めた。
「……一体、ここで何をしている?」
ミリナは彼を見つめ、非常に愛らしい仕草で首を傾げながら、柔らかな微笑みを浮かべて言った。
「私はただ、あなたを甘やかしているだけだよ」
その刹那、彼のこれまでの人生において初めて、キョウノの頬に一気に血が上り、顔が真っ赤に染まった。
彼は自らの感情の動揺と、彼女の身体の温もりに激しい恐怖を覚え、弾かれたように立ち上がって彼女から距離を置いた。
アンド、高鳴る鼓動を隠すように不機嫌そうに呟いた。
「……イカれた女だ!」
彼はそのまま、激しく刻む心臓の音を無視してその場を立ち去ろうとしたが、彼の足は空間に完全に凍りついた。
背後から、ミリナが極めて静かで冷徹な声音で、ある一言を囁いたからだ。
「――紅蓮の、残り火……」
キョウノは静かに振り返り、人間的な慈悲を完全に排した冷酷な眼差しで彼女を射貫いた。
アンド、周囲の空気を凍りつかせるような低い声で吐き捨てた。
「おい……なぜお前が、紅蓮の残り火のことを知っている?」
その瞬間の彼の眼光と冷徹な殺気は、通常の(A級魔術師)であれば精神的なショックだけで心臓麻痺を起こして即死するほどの凄まじいものだった。
しかし、キョウノの予測を完全に裏切る事態が起きた。
ミリナの驕傲は、その圧倒的な殺気の前でも塵ほども揺るがなかったのだ。
彼女は嵐の前の静けさのように不気味なほど平然としており、その美しい青い瞳を真っ直ぐにキョウノの瞳へと向け、一切の恐怖を見せなかった。
キョウノが彼女の底知れぬ眼光の深淵を覗き込もうとしたその刹那、彼女の冷徹な仮面が唐突に崩れ、彼女は非常に可憐に、楽しそうに笑い声を上げた。
「ふふっ!あなた、結局のところはただの生意気でナルシストな男の子じゃない!」
キョウノは不機嫌そうに重い溜息をつき、冷徹に人差し指を彼女の顔へと向け、それが最後の警告であるかのように、自らの魔力の一端を解き放とうとした。
しかし、その一触即発の状況は外部からの介入によって唐突に遮断された。
裏庭の静寂を破るように、こちらへ向かってくる急ぎ足の足音が響き渡り、聞き覚えのある女性の声が焦りを孕んで響いたからだ。
「妹よ!私のミリナ……どこにいるの?」
それは、あの銀髪の「ミーナ先生」だった。
教師の視線が自分に届くよりも前の、ほんの一瞬の刹那、キョウノは自らの気配を完全に掻き消し、幻影のようにその場から消失した。
教室での崩壊事件に続き、これ以上の不要な騒ぎを起こして自らの力を周囲に露呈させるのを避けるため、彼女の視界から逃れたのだ。
彼はミリナ一人をその謎めいた微笑みと共にその場に残して去ったが、自らが救い出したあの地獄の落とし子の少女が、まさかこのアカデミーの教師の実の妹であったという痛烈な事実を知り、運命の糸はさらに複雑に絡み合い始めていた……。
第3部をお楽しみに!




