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断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


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50/60

第50話 迷わないという力

 朝の空気は、

 澄んでいた。


 町は、

 いつもより早く

 目を覚ましている。


 人が増えたせいか、

 動きが早い。


 それでも――

 慌ただしさはない。


 広場では、

 今日の段取りが

 自然に決まっていく。


「炊き出しは、

 昨日と同じで」


「住居の件は、

 午後から考えよう」


 誰かが言い、

 誰かが頷く。


 誰も、

 主導権を主張しない。


 だが、

 流れは一つだ。


 私は、

 端に立って

 それを見ていた。


 昨日まで、

 迷いがあった場所。


 今日は、

 迷いがない。


 判断が、

 早すぎる。


「……水の配分は?」


 一人が、

 ふと聞いた。


 問いは、

 正しい。


 だが、

 答えは

 すぐに出た。


「今は、

 変えなくていい」


 短い言葉。


 それだけで、

 場は落ち着く。


 私は、

 水路の方を見た。


 確かに、

 今すぐ問題はない。


 だが、

 数が増えれば、

 必ず調整が要る。


 その“必ず”が、

 先送りされている。


 昼。


 人々は、

 穏やかに食事を取る。


 不満も、

 焦りもない。


 あるのは、

 安心だ。


「ここは、

 楽ですね」


 誰かが言った。


「考えなくていい」


 その言葉が、

 笑いと一緒に

 受け入れられる。


 私は、

 小さく息を吐いた。


 考えなくていい場所。


 それは、

 救いだ。


 だが――

 同時に、

 力の源でもある。


 午後。


 新しく来た人々が、

 簡単な区画分けを

 始めていた。


 誰が指示したわけでもない。


 だが、

 自然と

 同じ人の方を見る。


 迷わない人。


 答えを出す人。


 レオンは、

 それに気づいていない。


 あるいは、

 気づかないふりをしている。


 彼は、

 今日も同じことを言う。


「無理に、

 決めなくていい」


 だが――

 彼がそう言うこと自体が、

 決断になっている。


 夕方。


 小さな混乱があった。


 住居の配置をめぐって、

 二人が

 言葉を詰まらせる。


 対立にはならない。


 ただ、

 止まる。


 そのとき、

 誰かが

 レオンを見る。


 彼は、

 少し考えた。


「……今日は、

 ここまででいい」


 その一言で、

 動きは止まった。


 誰も、

 不満を言わない。


 私は、

 胸の奥で

 確信した。


 力が生まれている。


 支配ではない。

 強制でもない。


 だが、

 判断が集中している。


 それは、

 意図しなくても

 生まれる。


 夜。


 丘の上から、

 町の灯りを見る。


 増えている。


 確実に。


 それでも、

 均一ではない。


 中心が、

 明るすぎる。


(……迷わないという力)


 それは、

 正しさよりも

 扱いが難しい。


 正しさは、

 否定できる。


 だが――

 安心は、

 否定しにくい。


 私は、

 その場を離れた。


 今、

 声を上げれば、

 壊れるものが多すぎる。


 黙っていれば、

 歪みは育つ。


 どちらも、

 正解ではない。


 町は、

 今日も揉めない。


 それが、

 何よりの評価になる。


 だが――

 評価されるものほど、

 修正は遅れる。


 私は、

 振り返らなかった。


 この第Ⅰ章で、

 答えを出すつもりはない。


 ただ、

 一つだけは

 はっきりしている。


 正しさがない世界でも、

 力は必ず生まれる。


 それが、

 善意から生まれるなら、

 なおさらだ。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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