第110話 崩れた火
火が一つ、消えた。
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それだけだった。
だが、
その違和感はすぐに広がる。
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「音、聞いたか」
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レオンが立っている。
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私は頷く。
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中央区域の方角。
暗い。
さっきまであった火が、
確かに消えている。
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「様子を見る」
レオンが言う。
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「いや」
私は止める。
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一拍。
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「今は行かない」
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彼がこちらを見る。
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「なぜだ」
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「境界を越えれば」
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「構造が崩れる」
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沈黙。
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それは、
この実験の前提だった。
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互いに干渉しない。
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だから、
結果が出る。
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レオンは息を吐く。
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「……分かった」
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だが、
目は中央側を見ている。
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動きたい。
だが、
動けない。
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それが、
構造だ。
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その時、
こちらでも声が上がる。
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「水が来てない」
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若い女が言う。
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井戸の列が止まっている。
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「どういうことだ」
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マルタが近づく。
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「引き上げが遅れてる」
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遅れている。
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それだけだ。
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だが、
止まってはいない。
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「代替を探す」
マルタが言う。
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「北側の井戸は?」
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「浅い」
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「使えるか」
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「使える」
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「なら、回す」
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決断は遅い。
だが、
止まらない。
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一方で、
中央側の動きが見える。
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人が走る。
声が飛ぶ。
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「火事だ!」
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その声が届く。
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火事。
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煙が上がる。
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中央区域の奥。
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炎が揺れている。
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「速いな」
レオンが言う。
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確かに速い。
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水が運ばれる。
指示が飛ぶ。
人が動く。
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無駄がない。
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だが、
違和感がある。
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「一点に集まりすぎてる」
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私は言う。
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防火の人員。
消火の水。
すべてが一点に集中している。
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別の場所が、
空く。
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その瞬間だった。
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別の火が上がる。
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「もう一つ!?」
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声が重なる。
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混乱。
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人が分かれる。
だが、
指示は一つ。
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一瞬、
遅れる。
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その遅れが、
広がる。
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炎が増える。
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レオンが低く言う。
「集中の限界か」
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私は首を振る。
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「違う」
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「速すぎる」
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判断が一つだからこそ、
分岐に弱い。
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一方で、
こちらは静かだ。
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「水、回った」
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井戸の列が動き出す。
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「次は食料」
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「配分どうする」
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話し合う。
遅い。
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だが、
複数の場所が同時に動く。
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分散。
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それは、
遅い代わりに
止まりにくい。
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中央側の火は広がる。
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だが、
完全には崩れていない。
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速さで抑えている。
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両方が、
機能している。
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だが、
違いが出始めている。
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レオンが言う。
「どっちが正しい」
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私は答えない。
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まだ、
結論ではない。
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ただ、
見えてきた。
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構造の癖。
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その時だった。
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中央区域から、
誰かが走ってくる。
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縄の手前で止まる。
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「助けてくれ!」
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叫び。
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「水が足りない!」
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レオンが動きかける。
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私は言う。
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「越えるな」
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沈黙。
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叫びが続く。
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「頼む!」
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誰も動かない。
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動けない。
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それが、
選んだ構造だ。
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火が揺れる。
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境界線の両側で、
違う戦いが続いている。
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そして、
どちらも
まだ
終わっていない。
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夜は長い。
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だが、
この一晩で
何かが
決まるかもしれなかった。
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