表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された公爵令嬢は、完璧であることをやめました  作者: 月影 すずり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/112

第109話 分かれた夜

 境界線は、ただの縄だった。


 杭に結ばれた、粗い縄。


 それだけで、


 人は分かれた。


---


 夜。


 同じ風が吹いている。


 同じ火が揺れている。


---


 だが、


 笑い声の数が違う。


---


 中央区域は明るい。


 火が多い。


 人も多い。


---


 指示が飛ぶ。


 物資が運ばれる。


 見ていて分かる。


---


 速い。


---


 一方で、


 こちらは静かだった。


---


 火は少ない。


 人は散らばっている。


---


 だが、


 会話は止まらない。


---


「水はどこから引く」


---


「こっちの井戸は使える」


---


「夜の見張りはどうする」


---


 決める。


 少しずつ。


---


 レオンが言う。


「遅いな」


---


「ええ」


 私は答える。


---


「だが」


---


「止まってはいない」


---


 その時だった。


---


「おい」


---


 声が上がる。


---


 境界の近く。


---


 一人の男が立っている。


 中央側から来た男だ。


---


「戻りたい」


---


 短い言葉。


---


 分散側の何人かが顔を上げる。


---


「今なら戻れるだろ」


---


 当然の発想だ。


---


 だが、


 空気が変わる。


---


「戻るって」


 誰かが言う。


---


「今さら?」


---


 男は言う。


---


「向こうの方が安全だ」


---


 その言葉に、


 何人かが目を逸らす。


---


 それも事実だからだ。


---


「じゃあ行けよ」


 若い男が言う。


---


「止めない」


---


 その声は強い。


---


 だが、


 震えている。


---


 男は動かない。


---


「でも」


---


 一拍。


---


「家族はこっちだ」


---


 沈黙。


---


 火が小さく揺れる。


---


「連れていけ」


 誰かが言う。


---


「向こうは許すだろ」


---


 男は首を振る。


---


「区域をまたぐのは制限されてる」


---


 ルール。


---


 制度が、すでに境界を作っている。


---


「じゃあどうする」


---


 誰も答えない。


---


 マルタが前に出る。


---


「ここにいるなら」


---


「ここで決める」


---


 静かな声。


---


「向こうに行くなら」


---


「今決める」


---


 一拍。


---


「両方は無理だ」


---


 正しい。


---


 だから重い。


---


 男は動かない。


---


 動けない。


---


 その時、


 子どもが泣いた。


---


 男の子どもだ。


---


 母親が抱いている。


---


「……行く」


---


 男が言う。


---


 声は小さい。


---


「俺は」


---


 一拍。


---


「向こうに行く」


---


 母親は何も言わない。


---


 ただ、


 子どもを強く抱く。


---


 男は振り返らない。


---


 縄を越える。


---


 ただそれだけで、


 何かが切れる。


---


 誰も止めない。


---


 止められない。


---


 レオンが低く言う。


「これが選択だ」


---


 私は頷く。


---


「これが責任」


---


 火が揺れる。


---


 同じ夜。


 同じ土地。


---


 だが、


 違う生き方。


---


 遠くで、


 中央側の声が上がる。


---


 指示。


 報告。


 動き。


---


 速い。


---


 こちらは、


 静かに続く。


---


 話し合い。


 確認。


 合意。


---


 遅い。


---


 だが、


 止まっていない。


---


 三か月の期限は、


 まだ残っている。


---


 だが、


 この夜だけで


 すでにいくつかの答えが


 失われた。


---


 風が強く吹く。


---


 その時だった。


---


 遠くで、


 何かが崩れる音がした。


---


 乾いた音。


---


 小さくない。


---


 誰かが顔を上げる。


---


「今のは」


---


 レオンが立ち上がる。


---


 中央区域の方角。


---


 火が一つ、


 消えた。


---


 静寂。


---


 実験は、


 もう始まっている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ