午後β運用
午後。実技室。輪っかライトは中。
黒円の脇に**『評価カードβ』**がクリップ留めで立て掛けられている。
列は五つ、文字は小さめ、線はまっすぐ。
正確度/再現性/説明可能性(EP-1)/安全余白(SY-肩)/協調(支援+1・干渉−1)
「βで回す」ルナが短く宣言。
志水が短音器と記録カードを置き、ミレイユ教官がチェックマーク用の細いペンを一本ずつ配る。
見学席に楓。扉が開き、黒鐘イツキが入って、監督者へ会釈。視線は落ち着いたまま。
◆セットA(基準運用)
合図。ピッ。
胸の中にポコン……。
A:反応→当て / B:当て→反応
「A。反応から」
——赤、右。白、前。黄、左後ろ。腰だけ切ってタッチ、戻る。
呼吸は四吸・二止・四吐。肩は浮かない。
三分で当て(軽い)へ。×の左上から入り、三回目で中心。合図。二拍静止。視線は床の白点。
交代完了。
EP-1をどこで置くか——胸にポコン。
A:今すぐ短く言う / B:次の交代後に言う
「A。いま」
「合図→止まる」
——短く、聞こえる音量で。一セッション一回、済。
イツキは姿勢→反応→当て。二拍静止も正確。終わり際、彼も低く一言だけ置いた。
「交代=床を見る」
(EP-1、守ってきた)
ログ(A)
正確度:逸脱0%(両者)
再現性:R-3到達(午前からの通算)
説明可能性:EP-1:カイ=合図後/イツキ=終端前
安全余白:SY-肩発生なし
協調:該当なし(±0)
ミレイユが小声でまとめる。「順調。言葉が短いほど良い、を維持」
◆セットB(E-12b入り)
志水が窓際の反射音装置を用意。紙に『E-12b 再検証』と書かれている。
合図。ピッ。半拍後、窓際からチンが返る。耳がわずかに揺れた。
胸の中にポコン……。
A:通常継続 / B:E-12b適用
「B。適用」
——最後の音の終わりから二拍静止。追加の一拍は今回は不要。視線は白点を維持。
イツキも同じ処理。再開。テンポは崩れない。
途中、タッチの戻りで踵が滑りそうになる。肩が浮きかけ——
胸の中にポコン……。
A:速度を落とす / B:呼吸を前倒し
「B。呼吸前倒し」
——四吸を二吸に縮めて間に入れる。肩は沈む。
ログ(B)
正確度:逸脱0.7%(カイ)/0%(イツキ)
再現性:R-5
説明可能性:EP-1はAで済。Bでは行動のみ
安全余白:SY-肩=「浮きかけ→呼吸」修正で+
協調:楓が水を置く合図を指先で示し、休憩時にコップを渡す(+1)。
声掛けは合図後に限定(干渉に該当せず)
「支援+1、計上」ルナがカードに丸。三ノ宮の基準どおり、名目干渉にはならない配置。
◆セットC(位置交換・β採点強化)
「左右を交換」ルナが指で示す。立ち位置を入れ替え、床の白点は同じ。視界の死角が変わる。
合図。ピッ。
黄が右後ろ。腰だけ……のつもりが、足元の白線を一瞬見失う。
胸の中にポコン……。
A:大きく下がる / B:一回パス→二拍→再開
「B。パス→二拍」
——二拍静止で位置を取り直し、再開。タッチ。戻る。
交代。イツキは迷いなし。二拍、正確。
ログ(C)
正確度:逸脱1.2%(カイ)/0%(イツキ)
再現性:R-6(通算)
説明可能性:本セットのEP-1はイツキが「時間の穴→静止」を合図後に発話、基準クリア
安全余白:二拍処理で死角を解消
協調:該当なし
ミレイユが評価カードβにチェック。
「数字=夜集計、言葉=耳採点。今日のところ、両者基準内」
◆短い休憩(線引きの話)
水を飲む。楓がテーブルの端で小声。
「今のパス、干渉に見えない?」
「自分の操作だけ。相手に触れていない」ルナが即答。
「支援は休憩時の水渡し。干渉は視線や声で合図を上書きする行為」
「線、了解」
(名目に頼らず、行為で切る。覚えておく)
◆セットD(EP-1の置き方)
最後の十分。EP-1をいつ置くかを意識して回す。
合図直後、俺は短く「交代=床を見る」。イツキは終盤に「合図→止まる」。
どちらも一回、短く、被らない。
E-12bの連続重なりも一度だけ試す。ピッ→チン→カン。処理は二拍+一拍で打ち切り。
テンポは保たれた。
ログ(D)
正確度:逸脱0.5%(カイ)/0%(イツキ)
再現性:R-8
説明可能性:EP-1達成(両者)
安全余白:二拍+一拍、適用
協調:支援+1(楓→タオル)、干渉0
◆まとめ(βの手触り)
ミレイユがカードを整える。
「午後のβ、基準内。R-10はあと二本。明日の午前に届く」
「届く」
「届く」楓が復唱。
ルナが今日の三行を言う。
「EP-1は短く一回。二拍=位置の再構成。支援と干渉は線で切る」
胸の中にポコン……。
A:この学園で静かに暮らす / B:全力で勝ちにいく
「保留」
——βの速度で進む。焦らない。盛らない。言い切らない。
—輪っかライトが細長い楕円を床に落とす。丸じゃない時も、テンポは作れる。たん、たん、たん。
明日も、このテンポで。