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選律の星環譜  作者: 刹那
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昼休議論

昼。食堂の窓辺。輪っかライトは弱、外は白っぽい。

俺とルナと楓は、角のテーブルに中庸セット×2とスープを一つ。

トレーの影が四角く重なって、まっすぐな安心感を出している。


黒板メニューの端に、紙が一枚貼り足されていた。


【学務】本日13:00〜13:20、評価軸のすり合わせ(交互枠)。場所:食堂・窓側。担当:教務委三ノ宮。


「食堂で会議」楓が箸を止める。


「言語化は胃にも優しい」ルナ。


(学園、どこでも学園)



◆開会(昼でも会議)



時間ぴったりに三ノ宮が現れる。水を一杯だけ持って、向かいに座った。

隣に志水、少し離れてミレイユ教官。並びは質素だが、視線が整っている。


「評価軸を合わせる。交互枠の暫定は出たが、採点がばらけると揉める。短く決める」


「項目、提示を」ルナ。


三ノ宮は紙を四つ折りに開く。


正確度(逸脱率)


再現性(連続成功)


説明可能性(言語化)


安全余白(静止・視線・呼吸)


協調(支援行動・妨害回避)


「五つ」


「四問じゃない」楓が小声で突っ込む。


「今日は指標。四問は枠。混ぜない」三ノ宮は淡々。



◆項目1&2(数字はわかりやすい)



「正確度は逸脱率5%未満で合格。再現性はR-10、つまり“10回連続で基準内”。記録はカードに残す。

ここは異論ないか」


「ない」ルナ。


「R-10、語感が強い」楓。


「胃に近い」


「胃評議会、また出た」


くだらないが、肩がほどける。昼の許容量。



◆項目3(空欄の扱い)



「説明可能性。ここが揉めどころだ」三ノ宮は空欄のログを指で叩く。

「黒鐘イツキは口頭記述が少ない。数字は出る。0%が続く。だが言葉がない」


胸の中にポコン……。


A:数字が出れば合格 / B:最小限の言葉を義務化


「B。最小限の言葉を」


「根拠」


「例外運用や事故未満の共有で、言葉は必要。行動だけでは伝播しない」


ミレイユが静かに頷く。

「安全は説明で広がる。最低限の合言葉があれば良い」


「合言葉?」楓。


「『合図→止まる』『交代=床を見る』『時間の穴→静止』。

この三つのどれかを一セッション一回、口で置く。文量は問わない」


三ノ宮は短くまとめる。

「EP-1——Explanation Per session:1。一回、言え」


「英語、急に来た」


「名付け→圧縮。覚えやすければ勝ち」


(EP-1、覚えた)



◆項目4(余白はどれくらい)



「安全余白。二拍静止は必須。視線=床の白点、呼吸=四吸・二止・四吐。

ただし、延長はE-12の範囲で」


「二拍+一拍の打ち切りも」ルナ。


「入れる。E-12bに反映済み」志水がメモをめくる。


楓が手を挙げる。

「肩が浮く問題は、どこに入れる?」


「安全余白」三ノ宮。

「肩浮きゼロを求めるのではなく、発生→修正までを評価。修正の手順の言語化も+」


「では、SY-肩と書こう」ルナ。

「Safety Yardstick:肩。浮いた→呼吸前倒し」


「急に英語が繁殖してない?」楓が苦笑。


(名付け→圧縮、たしかに増える)



◆項目5(協調の線引き)



「協調」三ノ宮は、少しだけ言いにくそうに言葉を選ぶ。

「支援行動を評価する。ただし干渉とは区別する」


「線、引こう」ルナ。


三ノ宮は白紙に二行書く。


支援:相手の安定を上げる行動(例:水の手渡し、合図の確認)


干渉:相手の判断に影響を与える行動(例:視線で合図、声掛けの重複)


「支援=+1、干渉=−1。ただし支援の名目で干渉するのは**−2**」


「ペナルティ重い」楓。


「名目を盾にする行為は、崩れやすい」三ノ宮。


(名目は盾にも刃にもなる)



◆テンプレ(合意)



話がまとまったところで、ミレイユが小さな紙を配る。タイトルは**『評価カードβ』**。

四列一行の表だ。


指標測り方しきい値例外時

正確度逸脱率< 5%E-12bに従う

再現性R-1010連続E-12bで中断可

説明可能性EP-11回/回合言葉で可

安全余白二拍・白点・呼吸SY-肩:修正まで延長は二拍+一拍

協調支援+1/干渉-1±2まで名目干渉は-2


「午後からこれで運用。βなので修正歓迎」ミレイユ。


三ノ宮が頷く。

「数字は夜に集計。言葉は耳で採点。採点者は監督者。ログは共有」


「四問、全部通ってる」ルナが一言で締める。



◆雑談(短い余白)



会が終わると、三ノ宮は水を飲み、立ち上がる。志水も続く。

ミレイユは「夜にもう一度」とだけ言って去った。


残った三人で、中庸セットを片付ける。


「EP-1、忘れそう」楓。


「カードの端に書く。『合図→止まる』でいい」ルナ。


「言った記録、どう取る?」


「耳で採点。監督者が聞いてる。合図後に短く置けば、ログと時間が紐づく」


「なるほど」


(言葉は短くていい。けど、置く場所は選ぶ)



◆廊下(影と距離)



食堂を出ると、実技室の方から人の気配。黒鐘イツキが黒円の前を素通りして、掲示板だけ見て去る。

掲示板にはE-12bの予告紙。視線はやはり合わない。


「掲示、読むだけ」楓。


「混ぜない」ルナ。


(混ぜない。まだそれでいい)



◆午後のメモ



共有カードの端に、三行を追加する。


『EP-1:合図後に一回』


『SY-肩:浮いたら呼吸前倒し』


『支援+1/干渉−1』


胸の中にポコン……。


A:この学園で静かに暮らす / B:全力で勝ちにいく


「保留」

——今は、βの速度で進む。


窓の白が少し強くなって、輪っかライトの影が薄くなる。

午後のテンポに、体が合わせていくのがわかった。

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