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選律の星環譜  作者: 刹那
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交互審査

午前。連絡板に短い一行が追加された。


【通知】**交互枠(15分×2)**の審査、十時。場所:教務会議室。同行:指導役一名。


「来た」


「行こう」ルナが腕時計を軽く叩く。

「目的/手順/評価、三つを口で回す」


「回す」


—会議室は白い壁に長机。端に水差し、中央に例外カードの束。

席順は、左から三ノ宮、ミレイユ教官、記録役の志水。見学席に楓。

扉の外、足音一つだけ遅れて——黒鐘イツキが静かに入って、見学席の端に座る。こちらは見ない。



◆口頭要約(60秒)



三ノ宮が顎で合図。

「短く」


「目的:黒円の利用時間を交互に分け、切り替え速度と安定を両立」


「手順:『少し待つ→照合→採用』を固定。交代の合図は短音一回。合図の後は二拍静止してから再開」


「評価:体感(軽い/重い)×成否の一致率。逸脱率5%未満」


ミレイユが補う。

「四問は、対象=使用者、場所=同一黒円、主体=監督者、時間=十五分交互」


「OK」三ノ宮がペンを置く。

「懸念は干渉。交代の瞬間に視線や気配が相手へ触れる」


胸の中にポコン……。


A:相互に目を合わせない / B:合図後は真正面だけを見る / C:床印を見る


「C。床印」


「理由」


「場所を固定する。視線は床の白点。相手へ触れない」


「良い」ミレイユが白板に書く。

『交代=床を見る』



◆机上テスト(紙→言葉)



志水が一枚の紙を配る。『遅延発生時の扱い』


・切替音が遅れた ・装置が一瞬止まった ・監督者が別対応


「答えを言葉で」三ノ宮。


胸の中にポコン……。


A:自動で延長 / B:延長しない / C:再開時に二拍静止を足す


「C。二拍静止を足す」


「理由」


「時間の穴を埋めるのは静止。延長は例外カードが出た時だけ」


「OK」


見学席のイツキが、わずかに視線を床へ落とす。反応はない。多分、無言の合意に近いもの。



◆実地シミュレーション(2分)



黒円の上。第一走者は俺、第二走者は——志水が「安全のため」と言って代役になる。

イツキは見学のまま。合図の短音、開始。俺は当て(軽い)を二回、反応を三回。合図。二拍静止。

床の白点を見る。交代。志水が姿勢十秒、反応二回。合図。二拍静止。床を見る。戻る。


ミレイユが手を挙げる。

「止まる時、肩が浮いた」


胸の中にポコン……。


A:呼吸を先に一拍入れる / B:足から止める / C:視線を先に落とす


「A。呼吸を先に」


二周目。同じ手順。合図。吸って、止めて、吐く。肩は浮かない。


「改善」ミレイユ。


「逸脱は?」三ノ宮。


志水が記録をめくる。

「一回、目線の迷い。一秒未満」


「許容」


見学席で楓が小さくガッツポーズ。イツキは動かない。



◆条件提示(暫定許可)



三ノ宮が三本指を立てる。

「暫定二週間、条件三つ」


交代合図=短音。音源は監督者。


合図後二拍静止。床の白点を見る。


記録カードを共有。**逸脱率5%**を越えたら中止。


「四問の主体は?」


「監督者」俺とルナが同時に答える。


「確認。例外カードの追加は当日朝まで」


「了解」


イツキが初めて立ち上がる。会釈。声は低いが明瞭。

「干渉はしない。音が鳴ったら、止まる。以上」


「受理」三ノ宮が短く返す。


(短い。けど十分)



◆廊下(余韻と微調整)



会議室を出る。楓が振り返る。「二拍、早く感じた」


「怖い→短く、だと思う」


「じゃあ、メトロノームを弱く鳴らして練習」ルナが提案する。

「半拍で肩が浮くなら、一拍前に呼吸を入れる」


「了解」


胸の中にポコン……。


A:今すぐ練習 / B:昼食を先に


「B。昼を先に」


「議長(胃)が賛成」楓が笑う。


—角を曲がると、イツキが前方を歩いていた。

速度は相変わらず速いが、合図の時の二拍だけは、頭の中で共有できる気がする。触れない線。

けれど、同じテンポ。



◆寮前(紙の手触り)



フロントで霧島さんに会う。

「暫定許可、回ってきたよ」


「ありがとうございます」


「無茶はしない。それだけ」


カードを受け取り、角を撫でる。ざらりとした手触りが、今の速度に合っている。


胸の中にポコン……。


A:この学園で静かに暮らす / B:全力で勝ちにいく


「保留」

——今日は、二拍静止と同じ意味。


—輪っかライトが廊下に丸い影を落とす。足音は二人分、あとから一人分。テンポはたん、たん、たん。交互の練習は、もう始まっている。

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