第九話
深夜。
漆黒の闇が待ちを包む。
だが都会の明かりが照らす。
「闇の精霊よ」
無明は手を叩く。
その途端、東京都内の明かりが、いや関東全土の明かりが消えた。
だが無明はわきまえている。
病院の明かりだけは消さなかった。
指をパチンと鳴らす。
すると月まで雲に隠れた。
「さあ、狩りのはじまりだ」
漆黒の無明が月夜の闇へ飛ぶ。
その心にあるのは純粋な殺意。
警告はした。
警告を無視したのだから死んでもしかたない。
世の中には理不尽があふれている。
教育虐待もそうだろう。
病気になるのもそうだろう。
親が借金して蒸発するのもそうだろう。
無明は鬱展開を許さない。
対してチンピラの命には興味なかった。
そしてその親を食い物にしようとして失敗、子どもに手を出そうとしたら命を刈り取られた。
そんな理不尽は存在してもいい。
人の命の数など数字でしかない
まずは、魔力的に繋がりのある男が一人でいるとこを発見。
上空から襲いかかり空に連れ去る。
「な、なんだ! てめえなにをす……うわああああああ!」
ビルの屋上へ乱暴に投げ落とした。
「ボクの友だちがさらわれそうになった。だから……キミらを駆除することに決めたよ」
暗闇から無明の舌っ足らずな声がした。
無明はナイフを出した。
普通の工作用ナイフだ。
「な、なにをするつもりだ……なあ! 俺を殺したら百人の仲間が来るぞ! オイコラてめえ!」
「集めればいいじゃない。探さなくてもいいし」
「な、なにを……」
男が言いよどむが無明にはどうでもよかった。
もう死ぬ人間なのだ。
「さあ、はじめようか。ねえ知ってる。オークの解体。ボク得意なんだ」
「オークって……モンスターと人間は違うだろ!」
「同じだよ……みんな平等に価値がない」
「て、てめえふざけんな! ぶっ殺してやる!」
うるさい。
無明はアゴを手首の付け根、弧拳で跳ね上げた。
めきりと音がしてアゴがつぶれる。
余りの衝撃にチンピラは昏倒。
無明は異世界の冒険者に習った知識で、チンピラの体のお絵かきを剥ぎ取る。
救助なんてしない。
そのまま転がしておく。
どうせすぐ死ぬ。
「さあ、反社を駆除しないと」
無明は闇の中次々と構成員を襲撃。
お絵かきを剥ぎ取っていく。
反社など無明にとってはゴブリンやオークと変わらない。
剥ぎ取りだって何も考えずにできる。
調べた限りの構成員全員の絵を集めるとリーダーの家に行く。
四条のマンションだ。
窓から入る、ガラスを透過することなど簡単だ。
ぬるっと中に入り込むと絵を床にばらまく。
家人のリーダーは怯えてきっていた。
突如として上位組織から切り捨てられたのだ。
四条が知らせたからであった。
だがもう遅かった。
暗闇に無明がいた。
「おじさん、人を殺しすぎだよ」
次の瞬間、闇からいくつもの手が伸びてきた。
地を望む亡者に仮初めの命を与えたのだ。
皮を剥がれた組員の一部も起き上がってきた。
「がっつくな。そいつはやる。ただし入れ墨は寄こせ。そういう契約だ」
亡者は男に襲いかかる。
悲鳴は風魔法で遮断されていた。
無明は笑顔のままナイフを抜く。
鬱ソングの鼻歌が室内に響いた。
「四条おじさんも甘いな。あわててコイツを切ったからってボクが許すはずないのに」
無明は闇に消える。
まだ殺戮の夜は終わらなかった。
上位団体、極道会の会長は小便を漏らしていた。
周囲にはお絵かきを剥ぎ取られた屈強な男たちが倒れていた。
家にはお絵かきが描かれた皮が投げ込まれていた。
皮の数の数から考えて組織は壊滅。
目の前にいるのはナイフを渡そうしてくる笑顔の子どもがいた。
「おじさん、家族は許してやるって言ってるの。大サービスだよ。その代わり、わかるよね? 落とし前、がんばろ」
「な、なぜ、こんなことを!」
もう膝に力が入らなかった。
一瞬で、本当に瞬きするほどの時間で最強の武闘派、元冒険者で作った最強の護衛が肉塊にされたのだ。
軍隊でも、都軍でも目の前の子どもの足元にも及ばないだろう。
「邪魔だったからだよ。僕の近くで知り合いをさらおうとした。失敗したけどね、でも僕の人生を邪魔するのなら排除しないと。徹底的にね」
無明はこういった輩は痛めつけたところで復讐しに来ると知っていた。
異世界でさんざんな目にあってきたのだ。
貴族出身の冒険者が山賊から商人を守ったが、その日の夜に襲撃されて死んだ。
一度や二度じゃない。
何度も苦い思いをした。
無明の仲間も何人も死んだ。
ゴロツキは嘘をつく。
反省したように見せかける。
情報をつかまれたら両親や友人知人まで殺されるかもしれない。
無明はこういった小石につまづくことを許さない。
小石が足に触れた時点で完全排除することにしてる。
ちゃんと生きるチャンスは与えてやった。
そんなに難しいことじゃない。
無明の地元で商売しなきゃいいだけだ。
それなのにチャンスをふいにしたのだ。
ダンジョンだろうがモンスターだろうが犯罪者だろうが、神ですら同じだ。
これだってサービスだ。
日本語で意思疎通ができるから家族は許してやろうと言ってるのだ。
一方、会長は絶望に押しつぶされていた。
あまりに圧倒的な力。
自然災害にも等しいその力を反社のためだけに振るってるのだ。
勝てるはずがない。
なぜこうなってしまったのか?
政府に警告されていたはずなのに。
どうしてこんな怪物がいる場所から撤退できなかったのか……。
後悔だけが残る。
「ぐ、これで! 許してくれ!」
会長は泣きながらナイフを手にし小指を切断した。
すると化け物は冷たい声で言った。
「じゃ、電話しな。もし報復を考えるようなら……この国の反社とその家族を片っ端から殺していく」
無明は本気だった。
直接殺すのでも呪毒でもいい。
反社を皆殺しにする。
一人残さず生かしておかない。
なあに、初めてじゃない。
異世界の国を滅ぼしたときもやったことだ。
「わ、わかった!」
会長は家族に電話する。
「いいか日本から離れろ! 俺たちは化け物を怒らせた! 絶対に報復なんて考えるじゃねえ!」
会長がそう口にした瞬間、無明はナイフで一閃。
会長の首を切り落とした。
会長の首は「なぜ?」という顔をしていた。
「お前を助けるとは言ってない」
こうして無明の街から反社はいなくなったのである。