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第六話

「またダンジョンができたか。帰宅時間に……急げば間に合うな」


 無明は姿消しの魔法を使い姿を消す。

 とんッと飛び上がるとそのまま浮遊した。

 飛翔の魔法である。

 幸い新しいダンジョンは病院の近くだった。

 無明はダンジョンに飛び込む。

 ダンジョンに入ると無明はすべてを凍らせる。

 別に炎でも風でも、それこそ水でもいい。

 敵を皆殺しにできるのなら。

 ただし炎はダメだ。酸素を奪う。

 うっかり狭い洞窟で使えば、無明なら死にはしないが大変苦しい。頭が痛くなる。

 風もだめだ。風圧で服が破ける。

 両親に言い訳できない。

 父親のお前はバカだ構文と母親のヒス構文を一日中聞くハメになる。

 水は服が濡れる。もっとだめだ。

 雷はローストした魔物のにおいで臭くなる。

 あれは洗っても落ちない。

 さらにオゾン臭も酷い。

 現在の洗剤の力をもってすれば……いや、やめておこう。

 光や闇も加減を間違えると地元ごと崩壊する。

 威力が大きすぎるのだ。

 ゆえに氷を使う。

 凍らせてしまえば服が汚れることもない。

 だから氷だ。一番安全だ。

 無明はすべてを凍らせてダンジョンの中のモンスターを皆殺しにする。

 簡単すぎる。

 ボスモンスターは炎の魔人だったが関係ない。

 生命機能が停止するまで凍らせればいい。

 ダンジョンのモンスターを皆殺しにすると外に出る。

 その手にはドロップアイテムの賢者の石が握られていた。

 無明にとってはダンジョンモンスターなど羽虫の群れにしかすぎない。

 賢者の石はエリクサーの材料だ。ストックしておこう。

 無明は納得してる。

 これで自分の思いつきで人を救うことができる。

 無明は聖人ではない。むしろ逆だ。

 ただ単に人の死を見たくないだけだ。

 そのためには貴重な薬でも惜しみなく使う。

 実際はすでに大量のストックがあるのだ。

 使わない手はない。

 無明はまた鬱ソングを歌おうとした。そのときだった。


「やはり無明さんでしたね」


 ダンジョンから出ると声がかけられた。

 無明は声をかけてきた存在に目を向ける。

 四条だった。


「やあ、いい月夜だね」


「全世界で噂される虐殺者(スローター)の正体はあなただったようですね」


「自分から名乗ったわけじゃない」


 無明は否定しない。

 敵対するつもりもない。

 言いふらすつもりなら口を塞ぐ方法なんていくらでもある。

 国を滅ぼすという手段すら選択可能だ。

 いや世界を滅ぼした後に新しい文明を作って、一からやり直してもいい。

 見つからない努力はするが、見つかったからといってあわてる必要はない。

 無明の思考の何十分の一かの危機を察した四条は言った。


「誰かに言いつける気はございません。どんな形であれこの街を守ってる存在だというのはわかりましたので。それに……小児病棟で治療していたのも拝見させてもらいましたので。なんだかんだで独生さんは善の側の存在と判断しております」


 無明は実に身勝手な理由から助けているだけである。

 だが結果的には個人のできる範囲で人助けをしているように見えたようだ。

 そもそも善とはどこから見た善なのか?

 ダンジョンモンスターから見れば無明は冷酷な殺人者でしかない。


「父にだけは報告させてもらいます。これでも生活の面倒を見てもらっている身なので」


「お互い苦労が多い身の上ですね」


「ええ、小学生はしがらみが多くて苦労します」


 おおよそ小学生同士の会話とは思えないやりとりがなされた。

 冷静に考えれば、無明は重大な法律違反は犯してない。

 ダンジョン攻略に必要なライセンスを持たなかった程度だろう。

 大人でも軽犯罪程度の罰しかない。

 厳重注意がせいぜいだろう。

 その程度なら家庭裁判所や児童自立支援施設送りになることもない。

 スローターの正体が無明だと知れても頭の悪い子どものフリしてごまかせばいい。

 無明はほくそ笑んだ。


「四条さんは、私になにを望まれるので?」


「今まで通り。実力者がダンジョンを攻略してくれて、犠牲者が出ないのであれば、それが我らの目的と合致します」


「てっきり、ダンジョンを見逃してくれと言われるのかと思ってました」


 ダンジョンができれば人が死ぬ。

 だが、そのデメリットを取るだけの経済的利益がある。

 この世のほぼすべての人間は生まれながらに金、いわゆる富の奴隷だ。

 将来の富のために勉学に励み、富を生み出す職業に就く。

 政治家も富を尺度に決まることが多い。

 戦争や人の死への忌避という倫理観も富の前では霞む。

 実際、金がなければ食べ物すら手に入らない。


「我らはダンジョンを人間にとって都合のよいものとは考えておりません。いくらお金になろうともね」


 この判断ができるのは、金に困らない出自か。

 それとも金で失敗したものか。


「できれば次にダンジョンを壊すときは私にご連絡を。後始末いたします」


 どうやら四条は味方のようだ。


「了解」


「それと、いらないドロップアイテムは買い取りいたします」


「小学生の口座に不必要に大きな金額が入ってたら通報されますよ」


「別名義の口座を用意しましょう」


 それならいいかと無明は思った。

 ストレージの容量は気にする必要はないが、大量の物品があると探すのが面倒になる。

 いらないものは売ってしまいたい。

 そう考えればメリットは大きい。

 とりあえず無明は四条と連絡先を交換した。


「わかりました。では、家族が待ってますので失礼します」


「また明日学校で。ご機嫌よう」


 二人は子どもらしくないやりとりで別れる。

 家に帰るとスーパーの惣菜が用意されていた。

 メンチカツとコロッケであった。

 それと松本が「片親パン」と不謹慎な名前で呼んでる複数入った菓子パン。

 文句はない。

 母はそれほど料理が得意ではないし、父にいたっては就職するまで実家暮らしで料理なんかしたことなかったらしい。

 しかも夫婦仲が悪いせいで父親の好きな刺身すらない。

 野菜もない。

 受験で結果を出したかったら選ばない料理だった。

 キッチンを使わせてもらえるようになったら自分で作ろう。

 料理ができる無明は思うのだった。

 せめて魚が欲しい。

 魚が恋しい。

 もうかなり長い間食べてない。

 だが……待てよ。

 四条にスマホで連絡する。


「はい、どうしました無明さん」


「キッチンをお借りしたい」


「……はい?」


 四条は戸惑っていた。

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