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第四話

「たった今……生まれたばかりのダンジョンが消えた」


 全身黒づくめの男がつぶやいた。

 すると横にいた小学生くらいの少女がうなづく。


「お父様。この街に強大な存在がいるようです」


「神か悪魔か……どちらにせよ。人外の存在だろう。気をつけなさい巳波(みなみ)


「はい、お父様」


 そんなやりとりをした翌日、無明に遭遇するとは巳波も思ってなかった。

 なんとダンジョンの殺戮者は逃げも隠れもしてなかったのである。



 朝、無明は起きた。

 正確に言えば無明は睡眠を魔法で圧縮することができる。

 その間、ずっと勉強をしていた。

 そのため睡眠時間は一時間程度だ。

 無明は常々思う。

 受験とは意味のわからないものだ。

 中学生に入る前に中学校のカリキュラムを抑えるのは当たり前。

 全身の骨の名前まで暗記させられる。

 子どもが骨の名前を覚える必要性はどこから生じているのだろうか?

 この世界では捕虜の拷問がエリートへの登竜門なのだろうか?

 無明はそういうのは得意だ。

 だが殺さないように骨を折るのは面倒だ。

 たしかに拷問時に簡単に折れる骨を憶えておくことは重要だ。

 だが骨を折るだけでは口を割らないものは多い。

 そんなことするくらいなら水魔法で何度も溺れさせた方が心を折りやすい。

 無明であれば闇魔法で脳味噌の中身を直接見た方が速い。

 やはり学習する意味はない。

 医者になる?

 人助けをする気はない。

 人助けなど、次から次へと無償で救済を求められる続ける地獄でしかない。

 成績にうるさい母親も医者になれとは言ってない。

 特にやりたいこともない。

 バンドマンや漫画家、漫才師やタレントになりたいとも思わない。

 芸術家として表現の喜びは逆さに振ってもない。

 実はピアノも同年代としては異常なレベルで演奏できるが、それをすると要求が多くなって面倒だ。

 隠さねばならない。

 そもそも将来なりたい職業も思いつかない。

 使い捨てにされる勇者や軍人にはなりたくないと思う程度だ。

 さらに言えば、このままガチの受験校に行くのは面白くない。

 底辺校に行ったらヤンキーを殺さない自信はない。

 かと言って上級国民が集まる学校で権力による犯罪のもみ消しなどを目撃したら、それはそれで殺さない自信がない。

 あれらは自制を心がけてもイラッとするものだ。

 アオハルラブコメ展開も遠のくだろう。

 ラブコメ専門の学校を探さねば。

 無明はズレまくったことを考えていた。

 朝食を食べ、用意をして学校に向かう。

 朝食を用意してもらっているというのは感動すらある。

 朝起きてボケた頭で狩りをするなんて危険を犯さなくていい。

 せっかくの朝が殺戮から始まるなんて気分が落ち込むと無明は思った。

 学校は数駅先にある。

 タワマンの上層階から下に降りるだけで5分以上かかる。

 非効率の極みだ。

 下につくとマンションの前で松本がいた。

 なぜこいつはいつもマンションの前で待ってるのだろうか?

 無明は不思議でしかたない。


「よっ!」


「おはよ」


 挨拶する。

 駅まで一緒に歩くのが毎日の日課だ。

 松本は歩いて15分くらいのところにある公立校に転校した。

 別ルートの方が近いのに松本はいつも無明に合わせて登校する。


(もしかして友だちいないんじゃないか?)


 無明はそれを口にできずにいた。

 大人なら指摘するところだが、子どもに新しい環境に慣れろとは言えない。

 無明にできるのは、雑談しながら駅まで一緒に行くことだけだ。


「じゃあまたな」


「うん、気をつけてね」


 今度こそ無明は学校に向かう。

 数駅先で降りて数分、駅前に学校はある。

 制服の小学生が次々と中に入っていくいつもの光景である。


「独生様ごきげんよう」


 そう言って女子生徒に挨拶された。

 知らない顔である。


「えっと」


「四条巳波ですわ」


 無明は記憶を総動員する。

 だが知らない顔でしかない。


「同じクラスの四条」


 そう女子生徒が言った瞬間、パンッと頭の中で音がした。

 デバフの自動解除である。

 記憶操作だろうか?

 相手の意図がわからない。

 とりあえずここは演技につき合えばいいだろうと無明は判断した。


「四条さん、おはよう」


「おはようございます」


「あ、急がないと! ホームルーム始まっちゃう!」


「あらあら」


 無明はそう言ってごまかすと四条と教室に向かう。

 隠密行動に長けた闇の精霊を監視につけた。

 なにか企んでいるのならまとめて始末すればいいだろう。

 無明は心が動くこともなくそこまでやってのけた。

 学校は退屈だ。

 レベルの高い私立小学校といっても塾の内容よりも簡単だ。

 教師も生徒を指導してやろうという気はない。

 ここにいるような子は放っておいても何者か、社会の歯車になれる人間なのだ。

 無明には特別ななにかになれる自身はない。

 無明は魂が疲れ切っていた。

 だが、無明は気力を振り絞る。

 そんな学校でも見えないところでなにかが起こってるかもしれない。

 無明はわざわざあら探しをする気はないが、気づいたら介入しようと思ってる。

 自分の心の平安のために。

 それ以上の意味はない。

 どこで邪魔が入るかわからないことは異世界で経験済みだ。

 たかが喧嘩売ってきた公爵家の長男の腕を斬り飛ばしただけだというのに、滅亡するまで執拗に殺しにやって来た。

 二者間の戦いですまされる強者より、むしろ弱いやつの方が殺したあとの始末が煩わしい。

 そんなのごめんだ。

 給食は美味しかった。

 異世界の食べ物はまずかった。

 ああ、品種改良された野菜に穀物。

 なにもが愛しい。

 家の食事もスーパーの揚げ物ばかりだが、それでも異世界よりはマシだ。

 あっという間に放課後。

 クラスメートとたわいのないの話をして帰宅の時間。

 進学校の子どもは放課後に塾や習い事で忙しい。

 帰宅しようと駅に向かう。


「四条さんはこちら方面でしたか……」


 四条がついてきた。

 北区や足立区を埼玉扱いする選民気質の学校だ。埼玉県民は少々珍しい。

 一緒に下りの電車に乗る。

 同じ学校の生徒はみんな顔見知りだ。

 記憶にない。というのはありえない。

 無明はそれでも疑念などおくびにも出さなかった。


「ええ、今までは自動車での送迎でしたので。『そろそろ電車通学をしては』と言われまして」


「そうですか」


 なお、いくら進学校でもこのようなわざとらしい話し方などしない。

 オスガキは「サッカーしようぜ(鼻ほじ)」であるし女子も「ちょっと男子ぃ! 掃除しなさいよ~(自分はしない)」である。

 壊れた勇者とジャパニーズ魔法使い。

 そんな一般人から遠く離れた二人は同年代の生活を知らなかった。

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