第二十九話
魔人。
行きすぎた科学信仰の犠牲者だ。
アメリカだけ滅ぼせば良かろうにと無明は思う。
無明はやることは極端であるが、滅ぼす相手は考えている。
ヤクザはちゃんとその組織だけにした。
復讐してくるなら一族郎党に広げる。
異世界からの軍勢は絶対神。
よくわからん生き物は社会性がなさそうなので個別に抹殺。
虐待児の親は殺したときの影響が予測できないので様子見。
いきなり皆殺しになんかしない。
もし絶対神の立場なら大統領とその家族、軍のお偉いさんに留めてただろう。
都市を滅ぼすようなマネをしても相手に伝わらない。
殺人含む暴力はコミュニケーションだ。
相手と対話しなければ意味がない。
異世界を滅ぼすのだって別の神への警告でしかない。
暴力はなにかしらの要求を通すための手段だ。
そこをはき違えるから話がおかしくなる。
そうそれが無明の実の母親だ。
無明の母親が泣き叫ぶのだってコミュニケーションだ。
ただ交渉にはならない。
察してと言われてもそれが常識で思いつくことなら可能だろう。
だがとうとう無明にすら理解できない領域に到達した。
理解できないのだから交渉はできない。
ただ道を違えるしかない。
魔人も同じだ。
この世界を滅ぼすというなら倒すしかない。
だが話し合いができて、無明の知らないところで利害に関係しない人を殺すというのなら……自由にすればいい。
今だったらゲームの魔王の気持ちがわかる。
世界の半分をお前にやろうって話だ。
世界の半分というのは「俺の見てる範囲内」って意味だ。
要するに「俺の知り合いや仲間に関係ない範囲だったら自由にしやがれ」って意味でしかない。
勇者も自分の見てない範囲で好きにしろ。俺も好きにするから。
これほどフェアな話はない。
人間と魔族、出会いさえしなければ不幸は生まれない。
だが欲深い人間は魔王を殺すことを選ぶのだ。
ならば侵略者は人間の方でしかない。
そもそも魔王が嫉妬や殺意、憎悪から生まれ出でた存在だとしても、存在自体を終わらせる理由にならない。
無明も死と破壊と殺戮が作った存在であるが、それを悪と断じられても困る。
無明は自分や自分の周囲に加害しようとしなければ殺すことはない。
実際、両親を殺す気はない。
無明なら死なない程度の虐待だ。
ヤクザの排除だって癌細胞の排除と同じことでしかない。
経験上、報復がなくなる程度に切り取っただけだ。
悪意が他に転移していれば呪いで処理する。
ただそれだけだ。
だから無明は知らない土地で戦争が起ころうが、事件があろうが、不正義がまかり通ろうが放置してる。
それはただの一般人である無明の仕事ではない。
人の意思は基本的に自由だからだ。
力の行使は利害がバッティングしてからでいい。
この間攻め込んできた異世界を滅ぼしたのだって利害のバッティングでしかない。
それもわからず人間を所有物のように扱う。
わかり合えないやつだと無明は思った。
魔人を探す方法はすぐに思いついた。
魔人は死にたがってる。
ならば殺せる存在の近くにいるのだろう。
つまり無明の近くにいるのだろう。
思い当たりは一人いた。
中学の教師に会いに行く。
自分の学年ではない教師だ。
無明は教師を廊下で待ち伏せする。
すぐにやってきた。
篠田秀。
理科担当の教師だ。
篠田は無明を見てため息をついた。
「とうとうバレましたか」
「先生が魔人?」
「ええ、絶対神にして、アメリカの都市を滅ぼした魔人。私のことです。やはりあなたが殺戮者ですか」
「なるほど」
「私を殺してくれますか?」
「上位存在とやらの思惑に屈するのは気に入らない。話を聞かせろ」
「いいですよ。ですがいまは時間もないので今夜にでも」
「場所は?」
「天界はどうでしょう? 行き方はわかるでしょ?」
なるほどな。
無明は納得した。
天界であれば話し合いはし放題だ。
殺し合いもだが。
夜中に家を抜け出す。
天界に行くのは簡単だ。
力を感じた場所に転移すればいい。
天界に行こうとすると御使いが現れた。
「なんだ?」
「これも仕事ですので。ご一緒します」
仕事ならしかたない。
御使いと一緒に天界に転移した。
「ああん?」
天界に到着した……はずだった。
だがそこにいたのは翼をもがれた天使たちの死体。
もう何年も経過してるのに。
たった今殺されたかのようだった
「天界で死ぬとこうなるんですよ」
「へえ、悪趣味な」
「世界を滅ぼした実績のある人間のセリフとは思えませんね」
「俺は無差別殺人鬼じゃない。喧嘩を売ってこなければ誰も死ぬことはなかった」
「本当ですかぁ? 本当は殺しが好きなんじゃ?」
「バカバカしい。神がシステムのバグを解決しないのがいけない。ヤクザも同じだ。警察や政治家が社会のバグを放置してるのが悪い。俺は合法的な解決方法を常に模索してる。最終的に暴力での解決を望んだのは敵だ」
殺人は面倒だ。
世界を滅ぼすのだって同じだ。
好き好んでやるもんじゃない。
これが外国の話なら介入する気はない。
無明の縄張りでやったから滅ぼすしかなかったのだ。
無明の知らない場所でなら戦争だろうが虐殺だろうが好きにすればいい。
天界を進んでいくと玉座が見えてきた。
そこにいたのは魔人だった。
「これが愚かな人間のやったことだ」
魔人は仄暗い笑みを浮かべた。
「宇宙人と間違えたと聞いたが」
「ははははは、違う。やつらは計画的に神を殺そうとしたのだ」
無明は納得した。
アメリカが都市を失ったのは自業自得であった。
だが……。
「だとしたらどうする? 大統領の首でも持ってくる?」
「いいや、それはもうやった」
なるほど。
復讐を遂げても人間を許せないのか。
こいつ嫌い。
無明は自分を棚に上げて思った。
「じゃあ、なにがしたい?」
「人類を滅ぼしたい……滅ぼしたら……死にたい」
「それは困る」
これこそが意見の衝突だ。
「話し合いの余地は?」
「ない」
「なにか要求は?」
「人類の死だ」
だとしたらしかたない。
「殺してでも止める」
暴力でしか解決できない。
ならば無明の得意とするところだ。
無明は珍しく構えた。




