第二十七話
無明がその日学校に行くと、なにやら慌ただしかった。
無明は空気を読まずボケッとしてた。
御使も四条も松本もいない。
佐藤は他の女子に話しかけられてこっちに来られない。
男子どもも何やら話し合ってる。
そう言えば田中たちがいない。
四条が教室に入ってくる。
「無明さん! 男子4人が行方不明です!」
嫌な予感は的中した。
男子が行方不明になっていた。
男子4人は無明と話した男子たちだ。
道場で死ぬほど厳しい稽古をして心を折ったはずなのに……。
だがおかしい。
「私のセンサーには引っかかりませんでしたが」
無明のセンサーは関東全域までカバーしてる。
中学一年生が子どもだけで関東を離れるのは難しい。
「なにかおかしいです」
「ええ。おかしいです。ところで無明さん、殺戮者教会をご存じですか?」
「なんだかイラッとしますね」
「無明さんを崇めてる教会だそうです」
「面倒なんで皆殺しにしていいですか?」
「だめです」
無意味な会話をしてると松本が教室に入ってきた。
「やっぱり田中立ち帰ってきてないって!」
「嘘、やだぁ~」
茶髪の女子が驚いてた。
松本はその明るさですっかりクラスの人気者である。
「よ、無明。田中たちの話聞いた?」
「うん、ついさっき」
「帰ってきてないって」
そう言って無明に期待の目を向ける。
「松本さん……田中には闇の精霊つけてないです」
そもそも松本みたいに【死ぬかも】という予感がした場合にだけ監視をつけてる。
プライバシーの侵害だからだ。
男の子は基本的に馬鹿なので危ないことくらいはする。
死なれると困るが見張る必要もないと思ってたのである。
そもそもエロ方面の冒険を盗み見なんかしたくない。
「なんだよ期待してたのに~! って言いたとこだが安心しろ!」
バンバンと無明の背中を叩いてポケットから紙を出す。
「このスーパー有能魔法使い明梨様が。式神つけてました~」
「それどうやって位置を測定するの?」
「ん? GPSトラッカーつけてるからスマホで」
テクノロジーの勝利である。
たしかに術なんかよりよほど優秀である。
スマホのアプリで確認する。
「学校の裏じゃん」
学校の裏には山がある。
学校が前に買収しようとしたが持ち主がわからなかった曰く付きの土地である。
一筆の土地が数百に分割され登記も戦後から動いてない。
売ることも整備することもなにもできない。
行政も関わりたくない。
ある意味現代怪談である。
「では行きましょうか」
「どこに? 授業あるけど」
「職員室です」
とりあえずGPSトラッカーの件は無明が泥を被ることにした。
家出しようと誘われたので念のためトラッカーを持ち物に忍ばせたと教師に申告した。
少し注意されたがそれで終わり。
警察を呼ばれる。
なんとなく無明はそのあとの展開を予想していた。
やはりシラコバトマークの埼玉県軍がやって来た。
どう考えても四条父の差し金である。
予想どおり四条父が来た。
「無明くん、それで? どこにいるって?」
「学校の裏に」
そう言って松本のスマホを見せる。
「それ明梨ちゃんのスマホじゃないか……ああ、そういうことか。なんとなくわかった。先生には『叱らないでやってくれ』と言っておく」
さすが話がはやい。
四条親子と松本を伴って県軍と山へ向かう。
御使と佐藤は待機。
御使はやる気がないだけ。
佐藤は運動神経がよくないからである。
「無明くん、どうだ? ダンジョンの気配は」
「ないですね」
そうやってGPSを確認しながら移動する。
四条も松本も魔法使い。
二人とも戦闘訓練を受けてるため体力がある。
山を歩いていると建軍の兵士が叫んだ。
「陥没穴があります!」
到着すると大きな陥没穴があった。
ちょうど人間の身長より深い。
落ちたら出られないかもしれない。
「おーい! 誰かいるか!」
「た、たすけて!」
子どもの声がした。
「田中! みんないる!?」
無明は叫んだ。
「いる! ……けど、よっちゃんが落ちたときに動けなくなって!」
『よっちゃん』とは同じクラスの古館良樹である。
お調子者の水泳部員だ。
「まずい! おい、ロープ持って来い!」
四条父が兵士に指示を出す。
救助が始まった。
無明は四条娘とそれを見守っていた。
とはいえ消防と比べて都道府県軍は救助に関しては素人。
モタモタしていた。
それでも救助活動をしてくれてる。
これもアオハル的な1ページなのだろうと無明は納得してた。
「今回はなにも起きませんでしたね」
四条娘が笑う。
そのときだった。
兵士のあわてる声がした。
「熊だ! 熊が来たぞ! 撃て! 撃て!」
あわててるが埼玉県軍の銃は軍用だ。
アーマーも防刃防弾のものだ。
怪我人は出るだろうが熊くらいなら倒せるだろう。
熊が見えた。
「大きくない?」
熊は大きかった。
ヒグマ、グリズリー……いやそれらを優に超える大きさだった。
しかもその熊は六本足だった。
前足が四本ある異形の怪物だった。
「まずい!」
怪物が兵士を跳ね飛ばし包囲網を突破した。
そのまま子どもの方へ走っていく。
無明は飛び出した。
「無明さん!」
四条が叫んだが無明には聞こえてなかった。
魔法は田中たちを巻き込んでしまうかもしれない。
抜き手では勢いを止める力が足りない。
一瞬で距離を詰め怪物の顔面に蹴りを入れる。
「ぎゃん!」
叫んだが怪物はすぐに襲いかかってくる。
爪での渾身の一撃。
無明はそれを取って怪物を背負い投げした。
巨体が地面に叩きつけられた。
無明は容赦しない。
怪物に飛びかかる。
馬乗りになって攻撃を浴びせる。
雷を纏わせた拳が内臓を焼いていく。
勝負は一瞬だった。
怪物程度では無明を足止めすることもできなかった。
冷静になって無明はまず思った。
(殺っちまった……)
同級生の目の前で怪物を殺してしまった。
今の生活が崩壊する音が聞こえた。
無明はこの生活を……案外気に入っていたことに……ようやく気づいた。
「あ、あはははは……」
無明はごまかす。
もう遅い。
全てを見られてしまったのだ。
そして不幸は重なる。
その場に複数の気配が現われた。
「へえ。この世界固有の化け物か……四条さん! みんなをお願いします!」
四条父に指示を飛ばした。
「ああ! だが君は!?」
「ここで食い止めます!」
化け物との戦闘が始まった。




