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【急募】壊れた勇者のなおし方  作者: 藤原ゴンザレス


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第二十五話

 それは男子の嫉妬から始まった。


「独生くん! どうして女の子が君にばかり寄っていくんだ!」


「僕にもわからない!」


 そもそも無明にはフラグを立てた記憶はない。

 松本の件も佐藤の件も鬱シナリオが見たくないだけの力技、はっきり言って蛮行である。

 ヤクザは殺して解決できる相手だから容赦なく殺した。佐藤は治せる薬を作れただけだ。

 ただそれだけである。

 ほとんどの同級生は救えなかったし、救う手段は未だに思いつかない。

 四条父には通報したが、その後の顛末に関しては個人情報を盾に口を閉ざした。

 あまり良い状態ではないのだろう。

 社会的地位の高い四条父でも無理なのだ。

 無明にはどうすることもできない。

 おそらく社会制度の問題であって個人には解決方法はないのだろう。

 そう無明は納得した。

 だとしたらアオハルに専念すべきだ。

 やはりクラシック音楽部でモテる画が見えない。

 やはり軽音かサッカー部、もしくはバスケットボール部が最強なのではないだろうか?

 ギターなんぞにかまけてる余裕はない。

 そうだ! 軽音部に入ってしまえばいい。

 既成事実で押し切ろう。

 無明は入部届を手に職員室にかけ込んだ。


「すまんな独生、伊藤先生からお前だけは入部させないようにって言われてるんだ」


 軽音部顧問、数学担当の鬼島先生に入部届を破り捨てられた。

 目の前でビリビリに……。

 アオハルが消えてしまうと無明は焦った。


「なぜ……ボクはただ……好きでもない流行歌を努力もしないヘタクソな演奏で自己満足に陥る。失笑と賛辞の違いもわからず楽しかった思い出が残る。そして自動的に彼女ができてる。そんな自己肯定感と性欲まみれの青春が送りたかっただけなのに……」


「君は失礼だなぁ……」


「だって愛とか恋とか将来の夢とかの歌嫌いだもん! 創作のバッドエンド最高! シューベルトの魔王とか最高でしょ! 空気読まずに文化祭でDSBM演奏したい!」


 DSBMは反キリスト的な歌詞が特徴のブラックメタルとくらべて鬱や自殺や悲観を主なテーマとする。

 もし演奏したら職員室への呼び出しどころか校長室直行コースだろう。

 DSBMでは、


【がんばってもなにも報われないじゃない、死のう】


 という曲がメインとなる。

 まさに無明専用音楽ジャンルである。


「ねえキミ、本質的に軽音部に向いてないと思うよ……」


「ポストパンクとか自殺メタルとか最高でしょ! デプレ大好き!」


 北欧の死ぬほど暗いメロディックデスメタルとかも最高である。


「良い趣味してるな! キミとは美味い酒が飲めそうだよ! だが帰れ! ここは運動部をあきらめし陽キャが封印される場所。ここまキミのいていい場所じゃない。陰キャよ! (クラシック)に戻れ!」


「ぐっ!」


 結局追い出された。

 かと言ってサッカー部やバスケットボール部では死人が出る。

 無明が本気で動くことは難しい。

 武術も同じだ。

 型稽古ならいい。

 だが組み手など無理だ。

 ヤクザを殺した程度で問題になる世界だ。

 スポーツで人を殺したらその何倍も問題になるだろう。

 結局、クラシック音楽部に強制加入になった。

 放課後、音楽室で無明は「ジョニーは戦争に行った」を元にしたと言われるメタリカの名曲を奏でる。


「く、暗い……」


 松本が若干引いている。


「松本さん……ボクはもう覚悟を決めたんです。DSBMとか」


「お、おう」


「大好きな鬱ソングだけ弾こうって。もっと暗い曲もありますよ」


 佐藤がフォローに入る。


「無明さん! げ、元気出して!」


「ゲンキダヨ」


「四条! 無明が壊れたぞ! 叩いて直せ!」


 四条が無明の前に立つ。


「……無明さん」


「なんですか四条さん?」


「ロブスターはどうなりました?」


 無明は無言でサムズアップした。

 食欲だけで結ばれた二人の絆が無明を正気に戻した。


「どうでしょうか? 今から調理室でロブスターを調理するというのは……」


 無明は薄汚い笑みを浮かべた。

 クラシック音楽部の顧問のところに行く。


「先生、ロブスター食べませんか?」


「は?」


「タラバガニとズワイ蟹もあります」


「話を聞こう」


 それは大人特有のゲス顔だった。


「調理室使わせてください!」


「そうか蟹か……蟹だな。うん、上沼先生に相談するか……」


 上沼のところに行く。

 カニを一緒に食べる仲なのだろうか?

 無明がニヤニヤしてると頭をグリグリされる。


「言っとくがそういう関係じゃねえ。調理室の責任者が上沼先生なだけだ」


 上沼は調理室にいた。

 すると伊藤は開口一番言った。


「内緒の蟹があります」


「伊藤先生、分け前はあるな?」


「おい独生、あるよな?」


「あります」


 公然と賄賂を要求された。

 だめな大人である。


「やると」


 教師たち背中はどこまでも男らしいものだった。

 上沼は女性なのに。

 なおロブスターは上沼先生が美味しく茹ででくれたという。(蟹は無明)


「ところで独生、これどこで手に入れたんだ?」


「密漁ですよ」


 真実である。


「ぶッ!」


「冗談です。釣りに行った先のお土産物屋で安く売ってましたので」


 釣りに行ったのは不法入国した外国の領海だが、この際それはどうでもいい。

 とにかくロブスターとカニがあるのだ。

 理屈などどうでもいい。


「すまんな、こんな高級品!」


「いえ、もらい物ですので」


「そうかー! そうかー!」


 聞いてない。

 なんとかごまかせたようだ。

 四条の目が輝いている。

 松本も佐藤も目が輝いてた。


「アレルギーは?」


「ないです!」


 みんな素直である。

 すでに解毒済み。

 寄生虫も電気で殺してる。

 万が一にも食中毒になることはない。

 カニ、エビを食べ始めると皆無言になる。

 こういうものはたまに食べるからありがたい。

 無明もお金持ちの祖父の家に住んでるからといって、高いものばかり食べてるわけではない。

 年齢がやや高めの祖父との食事はさっぱりしたメニューが多い。

 干物は良いものなのだろうが、地元スーパーのもの。

 鮭やアジ、鯖なんかが多い。

 そんな異常な価格帯のものではない。

 小ぶりな特売品と通常価格の大きな方なら、大きな方というだけだ。

 それと刺身がローテーションに入ってる。

 刺身もスーパーのもの。異常な値段ではない。

 この日本で成金生活は難しいのである。

 そこに惣菜の煮物やら、スープがつく。

 煮物や作り置きの惣菜は通いの料理人が作ってくれる。

 スーパーもお手伝いさんが買い物に行ってくれる。

 ここが贅沢なところだろうか。

 あえて言うなら米が良いものということくらいだろう。

 物語の悪役のような生活ではない。

 むしろ実の両親の方が散財していた。

 無農薬だの、小麦中毒でもないのにグルテンフリーだの、自然農法だの。

 単に栄養不足で質の悪いものを驚くほど高い値段で買っていた。

 波動なんとか砂糖だの。

 ありがとうって感謝し続けた塩だの。

 それと比べたら祖父との生活は質素である。

 だが普段は質素だからこそ、たまに食欲が解放されたときは最高の気分である。

 甲殻類は最高だ。

 素晴らしい。

 無明はしばしアオハルを忘れることにした。

 だが無明はわかってなかった。

 もうアオハルしてるじゃんという事実を。

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― 新着の感想 ―
むみょう「おれは しょうきに もどった!」(食欲で) ……あかんやつでは?
春も鳥も青いものは大抵すぐそこにあったりするもんなんですよ
前世で辛酸を舐め尽くし、深淵のように深く魂に刻まれた絶望を超絶技巧にのせて、死ぬほど暗いDSBMばかり弾く天才ピアノ少年。 一部のサブカル、芸術界隈で、カルト的な人気で神のように崇められそうだけど、ア…
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