第二十三話
世界はダンジョンにより攻撃を受けた。
だが無明により自体は解決した。
ただ多数の被害者が出た。
推計も出せないほどに。
その後、秋葉原の地下鉄はダンジョンに認定された。
結局、色の違うゴブリンやオークがかっ歩するようになった。
京浜東北線と山手線、さらに総武線は再建計画が発表された。
ただ、埼玉県のあまり便利ではない場所に在んでる無明にはあまり関係なかった。
せめて北部や南部、もしくは千葉側であれば恩恵はあっただろう。
要するに無明には関係のない出来事であった。
そして一年と少しが過ぎた。
無明は中学生になった。
アオハルの開始である。
このときのために耐え抜いた。
無明の部屋には賞状がいくつもかけられていた。
ギターにピアノのものだ。
無明は子どもに交じってコンテストに出るのはズルだと思う。
前の世界では酔っ払いに酒をかけられる底辺吟遊詩人とはいえプロだったことがあるのだ。
だから絶対に嫌とゴネたが許されなかった。
「出よう、ね(狂気にあふれた眼差し)」
芸術家の扱いは難しい。
なぜならそれが善意だからだ。
そもそも前世でプロだろうが関係ない。
「キミの演奏は良いものだ。出ろ」
である。
というわけで出された。
「手を抜いたら怒るからね」
もちろん釘も刺された。
しかたなく全力で演奏した。
好意を向けてくる人間を無下にする方面の冷酷さを無明は持ち合わせてない。
その結果がこれである。
これで将来有望な子どもの席を奪ってしまったかと思うと胃が痛くなる。
音楽方面での教育虐待を受けてる子が酷い扱いをされてなければいいが……。
コンテストに出た子どもたちはみんな目が死んでいた。
小学生の国内コンテストだったのがせめてもの救いだろう。
まだ拒食症になるレベルの本格的な虐待は始まってないのだ。
無明は中学生になったら「これからはロックだ!」とわけのわからないこと言って軽音に転向しようと思ってる。
別にロックは嫌いではない。
そう、絶望を歌う|デプレッシブブラックメタル《DSBM》は好きだ。
無明は暗いところでしか生きていけない陰のもの。
その自覚はある。
別に好きでもないポップスを「いいよね~」とかテキトーな会話を女子としつつ、青春を楽しんだっていい。
誰も無明のサブスクリプションのプレイリストなど知らないのだ。
ああ……ラブコメみたいに軽薄な青春を送りたい。
学校にテロリストが責めてくるとかじゃない。
ただ青春を女の子と無駄に消費したいのだ。
無明は本気でそう願うのだった。
「無明さん、相変わらず悩んでますね」
中学校入学の日、登校途中に四条がそう言った。
悩んでる内容は恐ろしく程度が低いのだが無明は高尚なフリをした。
「いえ……先日ギターのコンテストで最優秀賞を頂きまして……」
「なのになぜ悩んでいるんですか?」
「完全にインチキですので。他の参加者に申し訳ないなと。賞を辞退するにもお爺さまが喜びすぎて……」
そう弦楽器だけは「ヘタクソ死ね」、「ぶち殺すぞ音痴」、「死ねゴミカス」などと怒鳴られまくったせいか、気合を入れすぎてしまう傾向にある。
ちょっと想定を間違えてコンテストを取ってしまったのだ。
「素直に喜べばいいのでは?」
すると後ろから御使がやってきた。
「ねー! お姉ちゃん起こしてよ!」
御使は公園で寝泊まりしてたのが発覚し四条家預かりになった。
今では四条を「お姉ちゃん」と呼んでる。
学校に着くと掲示板にクラス分けが掲示されていた。
四条と御使い同じだ。
男子の大半と違うクラスになったが気は楽だ。
「無明さん、同じクラスですね。教室に行きましょう」
四条と雑談しながら教室に向かう。
教室で説明を受けたら入学式という話である。
「無明さん、部活動はどうします?」
「運動部は死人を出しそうなので文化系を希望します。できれば軽音あたりで……」
軽音部でヘタクソなフリしてれば影響も与えないだろう。
そのための予習はすでにすませた。
好きでもないポップスをサブスクで!
とりあえず「ぴえんしゅき」とか「ありがとう」とか「生まれてきた喜び」とかの歌詞ならよさそうだ。
絶対に「人生間違えた」とか「灰色の人生」とか「ただ息をするだけの人生」とかの歌詞は許されない。
そう「幸せ」とか「喜び」とか「仲間」とか……殺すぞ!
「メ○リカのONEとか最高だろが!」
『ジョニーは戦争に行った』をモデルにした曲とか最高だろが!
無明は思わず口走っていた。
四条が変な目で見る。
「なにか?」
「いえ、一瞬フラッシュバッグが……すみません」
「本当に軽音部で許されるとお思いですか?」
「なにか問題でも? 私は軽音好きですが? いいでしょ軽音。モテますし」
バカになんかしてない。
軽音ならモテる。……たぶん。
実際の軽音は知らないが、クラシックはモテない。
無明自身が証拠だとそう納得していた。
モテる。これは無明にとって人生で一番重要なことだった。
「いえ……。例えばですが、野球の全国大会優勝レベルのピッチャーが【モテないからテニス同好会に行きます】ですませられるか考えた方がいいのでは?」
「それは方々に迷惑かけますね。ですが自分には当てはまらないのでは?」
「そう思うならそれでいいです」
四条の塩対応は平常運転だった。
教室にいると茶髪の子がやって来た。
「よ! 無明、久しぶり!」
「ま、松本さん!」
陰キャに厳しいヤンキーが現われた。
すっかり手足が伸びて美少女になっている。
「おう、修行を終えて帰ってきてやったぜ。うれしいだろ? なあうれしいだろ?」
そう言うと松本は無明をヘッドロックして空いた手でグリグリする。
完全に照れ隠しである。
「うれしいです!」
「そっかーそうだよな!」
さらに無明の方に人が来る。
これまた美少女がやって来た。
大人しそうで儚い印象。
佐藤詩織だった。
「む、無明くんだよね……」
「久しぶり……体はどう?」
「元気になったよ!」
「それはよかった」
にこりと笑おうとしたが筋肉が固まってしまって動かない。
そういえば、どう笑うのだろうか?
「わ、わたし、無明くんには本当に感謝してるんだ! だ、だから、また会ったらありがとうって言おうって!」
「うん! どういたしまして。これからよろしく!」
無明ががんばってほほ笑んだつもりの顔をする。
御使が首をかしげる。
「無明さんはなにをされたんですか?」
すると四条もほほ笑む。
「善行かと」
「寿命のある破壊神が?」
「ええ、無明さんは身内にだけは甘いので」
面白くなってきたようである。
そう無明は思った。




