第十九話
ダンジョン配信が流行っている。
平たく言うとデスゲームなのになぜ人は喜んでしまうのだろうか?
実際よく死ぬ。
有名どころは安心して見られる。
有名プロダクションの実態は民間軍事会社でありタレント以外は傭兵で固めている。
そのためよほど運が悪くなければ死なない。
年に一人か二人くらいだろうか。
ところがフリーランスはそうはいかない。
かなり頻繁に死ぬ。
都道府県軍に入れば任期中の死亡率は1%に満たない。
ダンジョン配信専門の民間軍事会社でも数%だろう。
なのに好き好んでダンジョンに入って死ぬものはあとを絶たない。
それほどまでに虚栄心や自己顕示欲は強かった。
さらには家出中の未成年。
上納金ノルマを満たせない反社。
果てにはただの冒険野郎やセクシー女優までもカメラの前で遺体を晒した。
こんなの、まともな神経の持ち主ならやらないだろう。
と、ヤクザ数百人をくびり殺した無明は思った。
無明も母親がスマホ禁止してた理由の一端がわかった。
(そりゃ見せないわ……)
圧倒的に教育に悪い。
とにかく人が死にまくる。
男子がミカ筋とかいうライバーの動画を見てる。
……学校のタブレットで。
もう教師もあきらめてるようだ。
ミカ筋はライバー事務所という名の民間軍事会社所属のタレントだ。
筋肉、攻撃力、勝利。
わかりやすい。
無明はそういうタイプの戦い方は嫌いじゃない。
『ゴブリンの前でポージングしてみた』
「……」
思わず無明は素の無表情になった。
なにをやっているのだろう?
バカじゃないか?
戦闘は相手になにもさせないのが当たり前。
先制攻撃と確殺、それこそが生き残る唯一の方法だ。
戦場では油断したものから死んでいく。
ゴブリンですら確実に殺さねば自分が危ない。
ミカ筋は己の筋肉をゴブリンに見せつける。
ゴブリンはひそひそ話して見なかったことにして逃げていった。
その姿に無明は大きな違和感があった。
「あれ……?」
「どうしました無明さん?」
「知性がある」
「たまにいますよね……そういう子鬼。それがなにか?」
無明はため息をついた。
「四条さんのお父さんに連絡します」
「今連絡しましょうか?」
「お仕事があるのでは?」
「無明さんが最優先ですので」
廊下に出てしばらく待つと四条にスマホを渡される。
四条父は焦った声をしていた。
「な、なにがあったって?」
「よく聞いてください。ミカ筋の最新動画を見たんですが、ゴブリンに知性が宿ってます」
「それは珍しいのかね? よくあることだと思うが?」
「頭のいい個体はいますが、全隊が頭がよくなることはありません。おそらくゴブリンの支配者が出たんです。……さらに言うと、ゴブリンを操ってる軍勢が秋葉原ダンジョンを取り返しに来るかもしれません。もうダンジョンが発生してるかも」
「それは……本当かい?」
「信じないのなら人が大勢死ぬだけです」
無明は人が大量に死ぬこと自体はどうでもいいと思ってる。
ただ前に住んでたところまで25㎞程度の距離だ。
敵がダンジョンの外に出たら駆除することになるだろう。
無明が自然発生したダンジョンを見逃すことはありえない。
そこから考えられるのは、おそらく異世界の神の介入だろうと無明は考えていた。
無明の言葉を四条はちゃんと受け止めた。
「今から迎えに行く!」
四条娘と一緒に早退することになった。
無明が祖父にどう伝えるか考えていたら、四条家が伝えてくれるらしい。
便利である。
四条父の自動車はワゴンタイプの軽自動車だった。
欧州製のスポーツカーに乗ってそうな顔しているのに。
四条父はあまり自動車にこだわりがないということだろう。
無明は昔から車のにおいが苦手だが、四条父の自動車は気持ち悪くならなかった。
秋葉原ダンジョン前に到着する。
いまだに規制線が張られてて立ち入り禁止になっている。
だがダンジョン攻略は数十年に一度のニュースだ。
日本だけじゃなく外国人も【報道】の腕章をつけて写真を撮っていた。
外に出ても誰も無明を撮影するものはいなかった。
誰も無明を世界一位の探索者、スローターだとは思わなかったのだ。
外国記者の一人が四条親子の写真を撮ろうとすると別の記者に制止された。
「やめろ、あれは魔法使いだ。魔法使いを撮影するな。報復されるぞ」
「クソ!」
最初の記者が舌打ちした。
魔法使いはその希少性から国際法レベルで保護されている。
それには術者や術への漏洩の禁止。
さらには殺傷含めた漏洩妨害や報復までもが許されている。
だが四条父は比較的まともな人間である。
ヤクザと付き合いはあるが裏の世界の情報収集のためでしかない。
反社がダンジョンを独占しようとして住民に被害を出したことは一度や二度じゃない。
その被害に比べれば殺人の一件や二件どうでもいい話でしかない。
だがそのせいで独生無明という化け物が大事件を起こした。
そうやって見逃す代わりに業界の不穏な動きをリークしてもらっていた。
そうやって役所と反社は共存していたのだ。
だが……それは役所の判断ミスだったと四条父は後悔している。
反社を野放しにしたせいで200人以上が死んだのだ。
「ダンジョンの中……というか廃墟ですね」
四条は無表情で言った。
秋葉原ダンジョンはダンジョンボスの討伐により消滅した。
そこはただの廃墟が広がっていた。
「地下に反応があります」
無明がつぶやいた。
「あちらの方ですね」
無明が指さした先には秋葉原駅があった。
「駅の地下になにかあります」
「地下鉄か……調べてくる。二人はそこで待っててくれ」
無明と四条がベンチに座って待つ。
「暇ですね……」
しゃきんと四条が携帯ゲーム機を出した。
無明もストレージから同じゲーム機を出す。
ブロックを並べてクラフトするゲームで遊んでると四条父が帰ってきた。
「無明くんの言うとおりダンジョン化してた……」
「でしょうね。どうします? このままだと軍勢が来ますよ。殺します?」
無明は壊すのと殺すのは得意だ。
ある程度は病気や怪我も治せる。
無明がなにもできないのは、それでは解決できないいことが世の中には多すぎるだけだ。
「少しだけ待ってくれ。上に掛け合う」
「わかりました」
異世界からの侵略者との戦闘の出来事であった。




