第十八話
なにも問題なく無明はクラスに受け入れられた。
サッカーして、スケボーして……見つかって怒られる。
教室ではカードゲームが行われていた。
四条に声をかけられる。
「無明さん、カードゲームの経験は?」
「ないですね。実家では禁止されてたので」
何万円もするプレミアがつくようなカードがあるカードゲームは持ち込み禁止。
100円ショップのカードゲームなのがほほ笑ましい。
貸してもらってゲームに参加する。
ゲーム経験がなさすぎて無明はボコられるがそれもいいことだ。
前の学校はギスギスしすぎてて友人と遊ぶなんて選択肢はなかったのだから。
「四条さん、カードゲーム経験は?」
「ございません。稼業のお手伝いが忙しかったので。最近では無明さんのおかげで時間ができましたが」
それならばと四条と交代。
無明は自身をオークよりは社会性があるはずだと思ってる。
少し陰キャだが会話は可能。挨拶もできる。
ヤクザを殺す程度の危険性しかない。
それだって事前に警告した。
だが無明は認識してなかった。
無明の暗さは異常だということに。
それで無明の祖父はカウンセリングを受けさせるべきか悩んでることを。
そんな無明だが、新しい生活を楽しんでいた。無表情で。
塾もなし。
怒鳴る両親もいない。
無明も時間ができた。
前の学校よりも治安もいい。
他人の教科書を破く者もいない。
だが恐ろしい事にこちらの学校の方が高等部の大学合格実績が良好だ。
難関大学に多数合格してる。
最難関の大学や医学部合格者もはるかに多い。
やはり若年者の人格を壊すのはリスクが高いようだ。
それもそのはず、都会は学歴至上主義が蔓延してる。
子どもを叱るのに「あんた! それじゃ将来は都軍に入隊だよ!」というのは定番フレーズだ。
だから狂ったように勉強を強いるのだ。
別にそこまで所得格差があるわけではないし、都道府県軍は奨学金を受給するために学生が多数在籍してる。
たしかに殉職者はいるが、2年の従軍による奨学金受給と大学在学中の4年の予備役での生活支援は悪くない。
そのせいか元の世界に比べて奨学金は本人の負担になっておらず問題になってない。
異世界よりはマシであると無明は一人で納得してた。
小学校から帰ると家庭教師という人がいた。
若い真面目そうな男だ。
オネショタという無明の妄想が全て無駄になった。
男は三橋と名乗った。
最難関大学で物理を学んでると紹介された。
二人きりになる。
すると三橋が笑顔になった。
「私は四条さんの弟子です」
なんだ関係者かと無明は落胆した。
もう独生家まで政府の手は回っていたようだ。
「まずは、佐藤詩織さんは退院しましたよ」
「それはどうも」
元気ならそれでいい、
「次に瀬川香奈恵さん、彼女の叔父は逮捕されました。新宿ダンジョン近辺での家出児童への……やめておきましょう。とにかくめでたしです」
とにかく鬱シナリオは回避されたようだ。
自分の周囲に鬱シナリオは必要ない。
護衛につけた闇の精霊は回収しておこう。
無明は一人で納得した。
「松本明梨さんですが、うちで引き取ることになりました」
「松本さんの様子はどうですか?」
「20代になってできた妹はかわいいですね。両親の干渉が妹に向かってくれて助かるという意味で」
どうやら松本は新しい家でかまい倒されてるようだ。
それはよかった。
「特に困ってることは?」
「そりゃ少し前まで他人だったので。慣れるまでいろいろあるでしょうが。……時間が解決するのではないかと思いますよ」
「それなら安心です……」
「じゃ、本題に入りましょう」
「本題?」
「勉強ですよ。家庭教師ですので」
勉強をする。
理系分野は大して変わらない。
数学は問題なし。
理科も問題なし。
プログラムは知らない言語というかソフトだが、おおむねフローチャートと同じだ。
わからないのはこの世界の社会体制や歴史くらいだろう。
前の日本ではありえないくらい現代史の分量が多い。
ダンジョンの発生から国際協力を経てダンジョン配信の時代へ。
「現代史……なんでこんな分厚いんですか?」
「そりゃ今は両親が冒険者ってのも珍しくないし、大卒者は都道府県軍の奨学金受給者が多いし」
かなり血なまぐさい歴史を辿ったようである。
社会制度的にも外せない項目のようだ。
「そこは民間が冒険者。公務員が都道府県軍ってのだけ押さえとけば大丈夫だよ」
「前の学校ではあまり習わなかったもので」
「あー……都内だとそういう傾向あるね。都内出身の保護者はダンジョンに行ったことない人多いから。結局、高校生になってであわてて暗記するんだよね」
なんだか都民は地方民からよく思われてなさそうな気がする。
無明はこの世界のギスギス感の一部に触れたような気がした。
初日は問題なく終了した。
お爺さんのところに行くとアコースティックギターをくれた。
「練習用を持って行って部屋で遊んでなさい。ちょっと私は先生と話があるから」
「はい」
ギターである。
なんとなくモテの予感がした無明は無表情で喜んだ。
一方、無明の祖父は深刻そうな顔で三橋に言った。
「それで……孫はどうなのでしょうか? その……息子夫婦の家で虐待されていたらしく……」
「社会への興味は失われてないので問題ないと思います。休息が必要なだけです。時間はかかるでしょうが元気になると思いますよ」
「そうですか……」
三橋はほほ笑んだ。
そして心の中で冷や汗を流す。
まさか無明が反社組織の人間を皆殺しにしたとは言えない。
笑ってごまかすしかなかった。
帰り道。
三橋は四条に連絡する。
「四条さん、初顔合わせ終わりました」
「すまないね。だがこれは我が国の存亡に関わる話だと思ってくれ」
「ええ、それは方々から言われてます」
「周りの人間に危害が及ばなければ無害だ。監視程度は許してくれる。彼は寛大だからね」
「寛大……ですか」
「そうだ。寛大だ。上位精霊と思った方がいい」
「わかりました。それと明梨さんのことですが……」
「なにかあったのか?」
「上位精霊の加護を持っているのは……無明くんのしわざでしょうが……。術への適性があります。それはもう、恐ろしいほど。千年に一人レベルの適性です」
「三橋家ではどうするのかね?」
「本人が習いたいと言い出すのを待つ方針のようです。なにせ魔人の庇護を受けてますので」
「すまんな」
「いえ、両親は娘ができて喜んでますよ。里中に自慢しまくって! 恥ずかしいったら!」
「ふふ、さすが三橋家だ」
「ということで、拒否されなかったんで当面は続ける予定です」
「ああ頼む」
こうして四条たち術者は無明の起こす事件に巻き込まれていくのだった。




