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第十五話

 夜になったら家を抜け出してダンジョンを潰そう。

 ……と思ったら四条親子が病院の前で待っていた。


「なにか?」


 四条父が頭を下げた。


「お願いがございます。ぜひ秋葉原ダンジョンの攻略を」


「都軍が常駐してるんじゃないの?」


 東京都軍。

 無明が住んでる埼玉の埼玉県軍と同じように東京都の組織した軍である。

 管理され間引きされないダンジョンからはある日突然モンスターがあふれ出す。

 ダンジョン災害と呼ばれるその現象の対策のために都道府県軍が編成された。

 公務員である都道府県軍兵によるダンジョンの維持・管理業務を国から任せられている。

 それだけではなく冒険者と言われるフリーの傭兵や彼らの所属する民間軍事会社を管理もしている。

 無明はまだお金を稼ぐ必要のない年齢であるから冒険者にもならないし、都道府県軍と関係を持つ気もない。

 つまり無明にやる気はない。

 秋葉原が崩壊しようが自分の生活に影響ないからだ。


「タダとは言わない。いま無明くんの両親が君を取り返そうとしてる。それをなんとかできる」


 親元に帰るのは……たしかにご飯が美味しくない。

 塾に通うのも楽しくない。

 絶対に帰りたくない。


「お願いします」


「それと反社の殺害ですが、虐殺者(スローター)の正式な記録として扱います。スローターは超越者、自然現象扱いされます。蒸し返されることはありません」


 これもそうだ。

 たかだが会話ができる反社(ゴブリン)を殺した程度で警察に追われるのも面倒だ。


「わかりました。では今から攻略してきます。巻き込まれるのが嫌なら都軍を下がらせてください」


「伝えておく。よろしくお願いする」


「また魚持っていきますんで」


「ああ、すまないね」


 こういうこともあるのだろう。

 無明はあきらめた。



 秋葉原へ転移する。

 秋葉原は20年ほど前に巨大ダンジョンが出現し、電気街・オタクの街としての役目を終えた。

 いまでは冒険者の街に変貌していた。

 都軍は命令があったのか駅の方まで下がっていた。

 外神田ダンジョン。

 通称、秋葉原ダンジョン。

 国内のダンジョンの中でも新宿ダンジョン、六本木ダンジョン、両国ダンジョンと並ぶ巨大ダンジョンである。

 難易度は初級から最上級までバランス良く配置されている。

 そのせいで世界各国から配信者を兼ねた冒険者が多く挑戦し、年間の経済効果は数十兆円にも及ぶ。

 それを壊せというのだ。

 おそらく……。


「やはり暴走か」


 中では死臭が漂っていた。

 少し侵入すればすぐに原因がわかった。

 冒険者の遺体がゴミみたいに捨ててあった。

 下層の強い魔物が上まできたのだ。

 無明はそれが侵略者だとは知らない。

 だがその先には市民の虐殺が起こる事を知っていた。

 前世で何度も見た光景だ。

 冒険者の落としたサブマシンガンが落ちていた。……手首付きで。


「なるほどね」


 無明は手を叩いた。

 ダンジョンは地下十階。

 広さは外神田一帯、一部は上野まで到達してる。

 生存者は……いた。

 四条父は無明に「攻略」と言った。

 つまり生存者ごと皆殺しにしろという意味だ。

 それに従うのは面白くない。

 たかだが都軍程度、蚊よりもか弱い存在に指示されるのは腹にすえかねる。


「都軍程度が生意気な」


 都軍に試されたのだ。

 無明は冷たい笑いを浮かべた。



 瀬川香奈恵は後悔していた。

 香奈恵は中学一年生、本来ならダンジョンに挑める年齢ではない。

 だがしかたがなかった。

 親が失踪して半年。

 叔父に引き取られたが、彼は変な目で見てくる。

 それだけならよかったが風呂を覗こうとする。

 どう考えてもおかしい。

 相談しても学校も児童相談所も助けてくれない。

 だから香奈恵は家出した。

 友だちの伝手でいわゆる「地元の先輩」にたどり着いた。

 昔なら暴力団にたどり着いて売春させられるところだが、二十年前からはダンジョン探索という手段があった。

 菊池という地元の先輩は動画撮影集団を束ねてるらしい。

 年齢をごまかして冒険者になれば一攫千金とは言わなくても、アルバイト程度の金になると説明された。

 少し怖かったが、もう誰もあてにできない。

 後がないのだ。

 その日、秋葉原ダンジョンの前で銃とナイフを渡された。

 香奈恵はモデルガンの趣味はなかった。

 だからそれが拳銃なのかサブマシンガンなのかもわからなかった。

 菊池が渡したのは埼玉県軍からの横流し品の短機関銃UZIであるが、それは香奈恵にはどうでもいい話だった。

 学校のジャージに着替えて金属プレートの入った脚絆と安全靴をつける。

 上は防犯用のケブラーベストを着て手にはグローブをつける。

 最後にバイクのヘルメットに金属製の網をつけたものを被る。

 すると後ろから菊池がケブラー繊維を貼り付けた革の首輪をつけてくれた。


「いいか香奈恵。笑える程度のケガはいいが、大怪我するんじゃねえぞ。絶対に首を斬られるな。その首輪はめったに斬れねえが突き刺されたら終わりだからな!」


 そう言って菊池は大きな刀を肩に担いだ。

 大太刀だ。

 経験者が見れば「あーやめといたほうがいいよ」という装備だったが、誰もそれがわからなかった。


「伊藤! 撮影頼むぞ!」


「おう!」


 十五歳くらいの背は大きいが顔はまだ幼い子が答えた。

 中高校生たちがバットやバールやシャベルを持つ。

 彼女らは何度もダンジョンに来てるのかヘルメットをスプレーでカラーリングしたり、プロテクターを着込んでたりしてた。

 菊池が笑う。


「あれか。ありゃアメリカ軍のプロテクターだ。セラミック製で頑丈だ。5.56……とにかくライフルの弾も防げる、だがその分重い。装備重量が三十キロ以上になっちまう。啓輔は元柔道部だったから使えてるだけだ。お前は無理だ」


「うん……菊池さんも柔道部だったんですか?」


「ああ、啓輔と同じ部活でさ。大学の推薦も決まっててよ。だけど同じ柔道部のバカが人殺してさ、とばっちりで全部取り消し。柔道部員は学校やめさせられるからよ、ダンジョンに賭けてんだ」


「ごめん」


「気にすんな。みんな似たようなもんだ」


 菊池がフェンスを指さした。。


「こっちに抜け道がある」

 

 フェンスにすき間があって入れるようになってる。

 香奈恵は四つん這いになってすき間をくぐって中に入る。

 中は紫色の空が広がっていた。


「香奈恵と女子どもは採取! 俺たちはバトル動画を撮る!」


「はーい」


 ギャルっぽい女子が香奈恵を手招きした。


「うちらは薬草の採取ね」


「はい、がんばります!」


『薬草』はダンジョン化した場所に生える草である。

 強烈な苦みがあるが傷が治療できる。

 病気やケガもある程度回復できる。

 ダンジョンの外では栽培できないため高級品だ。

 ダンジョン内での栽培実験もされてるが、モンスターに邪魔されるため難しいようだ。

 薬草はその辺に生えている。

 タンポポみたいな草だ。

 香奈恵は薬草をぶちぶち抜いていく。

 女子の一人がその様子を撮影する。

 みんなカメラを向けられるとポーズを取る。


「再生数稼げるの?」


 香奈恵が聞くと金髪の女子が答えてくれた。


「ぜんぜん、でも投稿すると運営からファミレスの割引クーポンもらえるんだ」


 ファミレスのクーポンを稼ぎながら、薬草を採る。

 こんなのでもアルバイト程度の金にはなる。

 たしかに危険はある。死ぬかもしれない。

 売春や闇バイトの方が単価は高いだろう。

 それでも破滅が確実に来る売春や闇バイトよりはマシだ。

 カゴがいっぱいになったら上野の政府認定買い取り店で売る。

 買い取りに冒険者資格は必要ない。

 香奈恵たちみたいな連中が取ってきたアイテムを反社に買い取りさせるより、正規ルートで買い取った方がいいという判断らしい。

 つまり香奈恵たちは行政の怠慢で見逃されてるというわけである。

 児童相談所が仕事すればいいだけなのに。

 香奈恵は目の前のタスクをこなすのに精一杯でそんな視点は持てなかった。


「カナちん、安心して。菊池さんは強いから。危ないことなんていままで一度もなかったよ」


「そっかー」


 本当に安心した瞬間だった。

 ごろんと香奈恵たちのところになにかが転がってきた。

 次の瞬間、女子たちが悲鳴を上げ走り出した。

 香奈恵は直接見てないが女子たちのあとを必死に追った。

 なにがあったかなんてわかってる。

 菊池か啓輔か、いやその両方が死んだのだ。

 進行方向にゴブリンの集団が見えた。

 配信でやっていた恐ろしい姿と同じだと香奈恵は思った。

 すき間から逃げられなかった女子たちがゴブリンに捕まっていく。

 慌てて香奈恵は道を曲がって半分倒壊したビルの中に入る。


「な、なんで……入り口はモンスターほとんど出ないはずなのに……」


 香奈恵はダンジョンに来たことを後悔し、己の運命を呪った。

地獄だー!(歓喜)

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― 新着の感想 ―
魔族侵攻前から人類のモラルが崩壊しかかってますね… この世界を創った神は創造神としての才能がなかったみたいですね〜
ここにもアオハルのフラグの種を仕込んでいくということですね
地獄にスローター!阿鼻叫喚!
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