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第十三話

 あれから転校が決まった。

 無明の祖父の家は同じ県内にある。

 移動の難しい埼玉県の左側だ。

 とても広くて執事さんやらメイドさんやらがいる家だった。


(ラノベみたいになってきたじゃないか)


 無明は余裕だった。

 祖父の家は少し奥の方で都内への通学は難しいとのことだった。

 どうやら転校するようだ。

 校内の誰ともフラグは立ってなかったので、どうでもいいと無明は思った。

 無明の祖父は家の近くに学校を持っていた。

 父親とはスケールの違う金持ちである。

 その小学部に通うことが決定した。

 なお出される料理は格段に美味しい。

 無明はここの子という立場を死守するためだったら殺人もいとわないだろう。

 一応、四条に報告しておこうと無明は思った。

 あれからいろいろ変化した。

 電話機能のみのキッズフォンはハイスペック・スマートフォンに。

 無明のメールアドレスも新設。

 なぜか四条が知っていた。

 そのままメールで四条とSNSのアカウントを開設。


【『規約に十八歳未満はご利用できません』と書かれてますが?】


【気にしたら負けです】


 そういうものなのだろうか?

 多少の疑問は残れど互いの連絡先を交換した。


【転校になりました】


【知ってます】


【今度お礼も兼ねてマグロ持って会いに行きます】


【それには及びません】


 なんだろうか?

 祖父は頼んでないのになんでも買い与えてくれた。

 寝具、着替え、ランドセル。

 最新のゲーム機。

 人気マンガ。

 夢のようだった。

 だが……。


「お爺さま、これは?」


「セ○のゲーム機だ」


 やたらレトロなゲームが置かれていた。

 復刻版のミニシリーズもある。

 ○ガと社名が書かれている。

 無明は気になったが、なにか触れてはいけない心の傷を感じ、気にするのはやめた。

 さらにはスマートフォンも一番ポピュラーなリンゴではない。

 それをたずねると、


「無明、私はな、L○nux派なんだ……」


 無明はなんだか祖父と仲良くできそうな気がした。

 前世の無明は金がなさすぎてもらったノートブックにLinu○を入れて使っていたのだから。

 そんなことを言いながら買ってくれたパソコンは普通に窓だった。

 結局、一番普及してるものが何をするでも一番楽なのである。

 ゲーミングだったのは祖父はパソコンを深く理解している証拠だろう。

 転校初日、車で送ってもらう。

 畑の中に広大な校舎があった。

 中に入って数分歩くと校舎に着く。

 敷地が広すぎる。

 中に入り上履きに履き替え校長室に行く。

 中には校長と一緒に四条がいた。


「ああ、君と同じく転校してきた四条くんだ」


 校長は人当たりのよさそうな男だった。

 四条がほほ笑む。


「お久しぶりです。無明さん」


「あれ、二人は知り合いかね?」


「運命の相手です」


「四条さんテキトーなこと言わないでください。校長先生、友だちです。どうやら彼女も同時期にこちらに引っ越したようです」


 そんなわけがない。

 そんなの無明だってわかっていた。

 どう考えても監視だろう。

 だがそれはどうでもよかった。

 四条は食糧問題で協力してもらってる。

 次は中落ちをこれでもかと大量にかけた頭の悪いネギトロ丼が食べたい。

 祖父の家ではまず口にできまい……。

 そう無明は頭の悪い食事に思いを馳せるのだった。

 教師に教室へと案内される。

 教師はさわやかとは言わないまでも感じのいい人だった。

 前の学校の教師は常にイライラして高圧的だった。

 この学校は開放的なようだ。

 教室の生徒たちも目に光が宿っている。

 死んだ目をしてるのは無明と四条だけだった。

 それもそのはずだ。

 都内の学校は支配者層の行く学校だ。

 大学進学で学資ローンの心配はないし、都道府県軍に入って奨学金をもらう必要もない。

 ただ良い大学に入らねば、次世代にそれを引き継ぐのは難しい。

 だからこそ教育へのプレッシャーが大きく、母親たちは子どもの教育でのマウント合戦に人生を賭けている。

 たとえ都内の学校より郊外の学校の方が全体的な進学成績としては良好で、教育虐待が人生のマイナスにしかならないとしてもだ。

 親たちは軍に入れるよりマシと信じてるのだ。

 だから子どもを叱るときに「そんなんじゃ県軍に入れるぞ!」などと言うのである。

 だからこの時点で無明は「こっちに来てよかった」と思った。


「はいみなさん、おはようございます」


「おはよーございます!」


 元気である。


「今日は転校生を紹介します、では二人とも挨拶してください」


「えーっと、独生無明です。好きなことは……?」


 よく考えれば好きなことなどない。

 スキップしようと無明は話を変える。


「特技は……?」


 これもない。

 すると四条が耳打ちしてきた。


「空手と合気道」


「空手と合気道です」


 このやりとりを見ていた男子がはやし立てる。


「あー! お嫁さんみたい!」


 普通なら恥ずかしがるところだが、無明には羞恥心など存在しない。

 首をかしげる。

 すると四条が薄らほほ笑んだ。


「父にはチャンスがあればそのようになれと言われております」


「初耳ですが?」


「それだけ我々にとっては重要ということです」


 おそらく無明の祖父の会社、独生財閥との関係が目的だろう。

 殺ししか能のない勇者と関係構築するメリットなどない。

 四条は殺戮者としての無明の顔を知っているのだ。

 無明は一人で納得した。


「そうですか」


「たぶん無明さんの考えてることは的外れかと」


 無表情でやりとりをする二人を見て、担任教師はこれからやっていけるのか不安になったという。

 ホームルームが終わると子どもたちに囲まれる。


「よっ! 東京から来たんだって」


 男子が話しかけてくる。


「いいや、埼玉の東京に近いとこ」


 都民に言わせれば、元住んでた地区に隣接する北区や足立区はほぼ埼玉であって東京じゃないらしい。

 激しいマウント合戦でギスギスしてる前の学校ではよくそう言われていた。


「なんだ同じ埼玉か」


「そういうこと」


「なあなあ、お前んち、なにやってんの?」


 そういや祖父の職業をよく知らない。

 独生財閥とか言ってるが本業はよく知らない。

 むしろ多角経営しすぎて本業が迷子だ。

 しかたない。

 無明は四条に助けを求めた。


「四条さん、うちはなんの商売やってるんですか?」


 四条はいつもの無表情で答えてくれる。


「独生財閥の中核は銀行事業です。銀行を中心として保険、製造業、鉱山、貿易など多岐にわたって事業を行ってます。無明くんのお父様もグループ企業のショッピングセンターの運営企業の重役をなさっていましたが、埼玉県内三箇所に店を持つパチンコホール運営会社に異動されたそうです」


 無明は聞いてもよくわからなかった。

 だがとりあえず父親があまりにも使えないためグループ末端企業に封じ込められてたような印象は受けた。

 しかも四条の言い回しから推測すると、ショッピングセンターの運営企業からも追い出されたようだ。


「父親は使えないからパチンコ屋に左遷されて飼い殺しだって」


 同級生たちは無明を指さして四条をじっと見て助けを求める。


「こういう人ですが悪い人ではないので仲良くしてあげてください」


「お、おう……サッカー好きか?」


「好き」


 男の子は基本的に単純だ。

 無明はこれで輪に入れたのだろう。

 そのままサッカーやゲームの話をしてる。

 ゲーム機を持ってなかった無明は聞き役になっていた。

 今度は四条の番だった。

 女子が話しかけてくる。


「あ、あのさ、四条さんって独生くんとつき合ってるの?」


「いいえ、一族はそう望んでるようですが、私はどちらでもかまわないと思ってます」


 四条家では霊力、無明に言わせれば魔力の高さで婚姻が結ばれる。

 その場合、当人どうしの意思や年齢差など完全に無視される。

 独生家の権力という問題はあるものの、四条家は無明を取りに行く方針だ。

 自身も顔も知らないおじさんに嫁がされるくらいであれば、たとえ殺人者であってもよく知ってる男の子の方がマシだなと思っている。

 というか一族の中でも優秀なものは呪殺の一件や二件手にかけているだろう。

 だから無明に不満はない。

 恋愛を望んでるかと問われるとよくわからない。

 ……ただ無明と結婚すれば高級魚食べ放題である。

 これは大きい。

 頭悪そうなほどの山盛りネギトロ丼などはじめて食べた。

 美味しかった。

 冬には本マグロを捕ってきてくれるとのことだ。

 今から楽しみだ。

 魚のことを考えたらお腹が減った。

 無明がなにか持ってるだろう。

 四条巳波は食い意地が張っていたのだ。

 四条は憂鬱そうにため息をついた。


「……こ、これが恋する女子の顔!」


 女子が騒いだ。

 違う。これはメシの顔である。

 こうして無明と四条はなんとなく受け入れられたのである。

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― 新着の感想 ―
これがメシガキってやつか。
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