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第二节

「くそったれのマン!本当にこんな風に行っちまったのか?!俺がここにいるのに!」


「なんだこりゃ、こんな大きな名前なまえを売って(うって)いたのに。見殺し(みころし)にするなんて!本当に俺を置いて(おいて)行っちまったよ。」


蛮が解放かいほうされた人族じんぞく奴隷どれいたちを率い(ひきい)て速やかに(すみやかに)去って(さって)いくのを見つめ(みつめ)、人族の少年・グァイ极度きょくど失望しつぼうし、心のなか悪態あくたいをつく。


黒っぽい豚人ぶたじんしゅ心情しんじょうはひどく悪い。

彼は今回、多大ただい危険きけんおかし、多大な投資とうしをしてやっと人族の村を略奪りゃくだつし、こんなに多くの奴隷を捕え(とらえ)た。千里せんりの道を越えて灰石主城かいせきしゅじょうに戻ろうとしたのに、しろのすぐ近く(ちかく)に来たと思ったら、人族の勇士ゆうし・蛮に邪魔じゃまをされ、ほぼ全員ぜんいんの人族奴隷が解放され、乖だけが残った。


「俺、今回は大損だいそんだ!」

「このクソ蛮!俺の好事こうごとを台無し(だいなし)にした!」

「俺、今回は苦労くろうしたのに、多くの手下てしたうしなったのに、結局けっきょく人族の少年一人ひとりしか手に入れ(いれ)なかった?」


朱は両目りょうめを真っ赤にし、乖を見つめっこ(みつめっこ)にし、上唇うわくちびるを突きつきだして荒い(あらい)いきを吐く(はく)。


ぬ、死ぬ!」乖はこころがドキッと跳ね(はね)、自身じしん境遇きょうぐう非常ひじょうに悪いことに気づく(きづく)。獣人じゅうじん武勇ぶゆうで、一旦いったんくるい始めると極めて(きわめて)恐ろしい。目のまえ豚頭獣人ぶたあたまじゅうじんは明らかに(あきらかに)怒りを込め(こめ)ていて、本当に彼を発散はっさんさせ(させ)、生きたまま食べ(たべ)るかもしれない!


朱様しゅさま、朱様!」乖は慌ててを振り(ふり)、「急が(いそが)ないで、急がないで。俺に方法ほうほうがあるんだ。今回、あなたに大儲け(だいもうけ)させて(させて)、絶対ぜったいそんをしないように。」


「ん?」朱はこのはなしを聞いて、突然とつぜんまゆを上げる(あげる)。


乖は朱が興味きょうみしめしたのを見て、急いで(いそいで)続け(つづけ)て言う:「灰石城主かいせきじょうしゅ愛娘あいじょう怪病かいびょうにかかり、年中ねんじゅうベッドに起き上がれ(おきあがれ)ないんでしょ?俺に彼女を治す(なおす)方法があるんだ。」


パチ。


乖が言い終え(おえ)たとたん、朱はを伸ばし(のばし)て平手打ち(ひらてうち)をし、体の弱い(よわい)人族の少年を飛ばし(とばし)、十数歩じゅうすうほさき地面じめんに倒れ(たおれ)させる。


乖は地面に倒れ、まずくちを開け(ひらけ)て大きなおおきなくちを吐き(はき)、十数本じゅうすうほんが混ざっ(まざっ)ている。そのそのあとほおがしびれ(しびれ)、両耳りょうみみがブンブン鳴る(なる)。すぐに、しびれたあとに激しい(はげしい)痛み(いたみ)が襲い(おそい)来て(くる)、金星きんぼしを見る(みる)ほど痛く(いたく)、ドラムリング(どらむりんぐ)をする。


乖のみみあぜに朱の低い(ひくい)叫びさけびごえが響く(ひびく):「俺が困っ(こまっ)ているのを見て、俺をからかおう(からかおう)と思って(おもって)るのか?小僧こぞうめ、俺はそんなに簡単かんたんに騙せ(だませ)ると思ってるのか?」


乖はもちろんうそをついている。彼はまずこの獣人の蠱師こしたちを落ち着かせ(おちつかせ)たいと思っている。

連行れんこうされてきた途中とちゅう、彼は獣人の蠱師たちの会話かいわを聞き(き)、灰石城主の愛娘が怪病にかかっていることを知り(しり)、この言いいいわけを思いつい(おもいつい)たのだ。

乖にとっては、嘘をつかないと方法ほうほうがない。

狂暴きょうぼうになろうとしているこれらの獣人の蠱師たちを落ち着かせないと、彼はもうすぐ生きたまま食べられ(たべられ)てしまう。彼は一時的いちじてきにこれらの横暴おうぼう凶暴きょうぼうな獣人たちを落ち着かせなければならない。


今後こんごは?」乖は心の中で嘆き(なげき)、「一歩いっぽ一歩、状況じょうきょうに応じ(おうじ)てやろう。」


乖は急いで起き上がり(おきあがり)、くちを大きく(おおきく)開けて叫ぶ(さけぶ):「朱様!もし俺があなたを騙し(だまし)たら、人間にんげんではなく、犬のくそだ!かみなりに打たれ(うたれ)て死ぬ(しぬ)!俺は本当ほんとうに城主の娘を治す自信じしんがあるんだ。あなたが俺を殺せ(ころせ)ば、全然ぜんぜんあなたの損失そんしつだ!」


乖の態度たいどがむしろ強硬きょうこうになる。

これには朱が少し(すこし)ためらう(ためらう)。


彼はを細め(ほそめ)、乖を見つめ(みつめ)、くちいっぱいのきばを見せ(みせ)て冷たい(つめたい)いきを吐く(はく):「ふふっ、城主の愛娘の怪病は、蠱仙こせんを出し(だし)ても治せ(なおせ)ないものだ。お前はただの凡人ぼんじんで、蠱師すら(すら)ないのに、俺に治す方法があるって言う?俺が馬鹿ばかだと思ってるのか?」


乖はガッとあしを踏み(ふみ)つけ(つけ):「ことがここまで来た(きた)んだから、俺も隠さ(かくさ)ない。俺は子供こどもの時、奇遇きぐうがあって、キノコを食べ(たべ)たんだ。それは本物ほんものの天地の霊物てんちのれいぶつだ!それを食べたあとから、俺が病気びょうきもけがもなく、とても健康けんこうで、精神力せいしんりょく充沛じゅうばいとき自分じぶん血液けつえきが怪病を治せるんだ。」


「お?」

「そんなことがあるのか?」

「天地の霊物、それは仙材せんざいなのか?」


朱は言わないが、ほかの獣人の蠱師たちはみなを輝かせ(かがやかせ)、一人ひとりはさらに朱に尋ね(たずね)る:「頭領とうりょう、この小僧を食べちゃおう。彼が仙材を食べたんだから、俺たちが彼を食べれば、もしかしたらせんになれるかもしれない!」


「クソッ!」朱は怒り(いかり)を込め(こめ)て、提案者ていあんしゃあたまを激しく(はげしく)叩く(たたく):「お前は阿呆あほか。仙材を一つ(ひとつ)食べれば仙になれるなら、蠱仙はもう街中まちじゅうにいるだろう。」


乖は朱のこの態度たいどを見て、たちまち安堵あんどする。心の中で慰め(なぐさめ)る:この獣人の頭領は結局けっきょく見識けんしきがあるんだ。


だがすぐに、乖のこころがまたドキッと締まる(しまる)。なぜなら朱が再び(ふたたび)疑問ぎもんていし、尋ねる(たずねる)からだ:「もしお前が仙材を食べたんだったら、なぜ死な(しぬ)なかった?仙材は凡人が受け入れ(うけいれ)られるものだろうか?特に(とくに)お前は蠱師すらないのに!」


乖は急いで精神せいしん集中しゅうちゅうさせ(させ)、説明せつめいする:「朱様、よくご理解りかいください。俺も当時とうじは九死に一生きゅうしにいっしょうだったんだ。そのキノコを食べたら、すぐに死ぬほど痛く(いたく)て、地面で転がり(ころがり)回り(まわり)、気を失う(きをうしなう)。七日六夜なのかむよ意識いしきを失って(うしなって)いたあと、やっと目を覚まし(さまし)たんだ。」


朱は鼻哼はなぐんりをし、続けて(つづけて)疑問ぎもんていする:「そんなに長いあいだ意識を失っていたんだったら、なぜ野外やがい猛獣もうじゅうに食べられ(たべられ)なかった?」


乖はすぐに答える(こたえる):「朱様にうそはつきません。目を覚ましたら、全身ぜんしん悪臭あくしゅうのするあせがかいて(かいて)、自分じぶんでも悪臭で吐き(はき)そうになりました。後で(あとで)思い返せ(おもいかえせ)ば、恐らく(おそらく)この悪臭が俺を守っ(まもっ)てくれたのだと思います。」


朱はこのはなしを聞いて、こころがふと動く(うごく)。心の中で思う(おもう):「これは精気せいき浄化じょうか骨髄こつずいを鍛える(きたえる)様子ようすにちょっと似て(にて)いるな。」


ほかの獣人の蠱師たちは呆然ぼうぜんと乖を見つめ(みつめ)、大半だいはんは信じ(しんじ)始め(はじめ)ているが、朱は依然いぜんとして信じていない。


彼は乖のまえに行き(いき)、屈んで(かがんで)蹲る(うずくまる)。地面じめんに滲みにじみでが混ざっ(まざっ)たどろゆびでつまみ(つまみ)、はなまえに持って(もって)行き(いき)匂い(におい)を嗅ぐ(かぐ)。


なんと言っても(いっても)、本当に薄れ(うすれ)かけた独特どくとくな香り(かおり)がする。


乖はしっかりと朱を見つめ(みつめ)、朱のかお一筋ひとすじ表情ひょうじょう変化へんかも見逃さ(みのがさ)ずに捉え(とらえ)る。


乖がこのうそをついたのは、もちろん無闇むやみにではなく、うらには理由りゆうがある。

彼は本当ほんとう奇遇きぐうがあった。かつて野外やがい蠱虫こちゅう誕生たんじょう目撃もくげきしたことがある。この蠱虫が生まれた(うまれた)ばかりで、飛べ(とべ)ないちからがないとき、乖はすぐに両手りょうてを伸ばし(のばし)、手のひら(てのひら)のなかに閉じ込め(とじこめ)た。

結果けっか、手のひらを開け(ひらけ)て見ると、手のひらの中の蠱虫は不思議ふしぎ消失しょうしつしていた。だがそれから、彼の血液けつえきには独特どくとくな香りがついた。

野外をあるとき、乖がけがをして(して)傷口きずぐちができると、血液が空気くうきに触れ(ふれ)ると独特な香りが発散はっさんし、非常ひじょうむしを引き寄せ(ひきよせ)る。

それ以外いがいには、ほか効果こうかはない。


「お前はどうして、自分じぶんの血が怪病を治せると分か(わか)った?」朱はしばらく黙っ(だまっ)てから、続けて(つづけて)尋ねる(たたずねる)。


乖は急いで答える(こたえる):「朱様、それは数年後すうねんご偶然ぐうぜんです。あるむらでペストが発生はっせいし、村人むらびと全員ぜんいん狂犬きょうけんのようにひとを見る(みる)と咬み(かみ)つきました。俺は逃げ遅れ(のがれおくれ)て、多くの人に咬まれ(かまれ)、自分の血液がこれらの人のくちなかに入り(はいり)ました。結果けっか数日後すうびんご、これらの人はなんと治っ(なおっ)たんです。」


「もう一度いちど、ある人族の蠱師が怪病にかかり、かおいっぱいに黒い斑点しぼができ、もうすぐ死に(しに)そうでした。俺は野外で彼に出会い(であい)、自分の血液で試し(ためし)てみたら、意外いがいに彼を救え(すくえ)ました。」


「お?お前は人族の蠱師と関係かんけいがあったのか?」朱は鋭く(するどく)細部さいぶを捉え(とらえ)て難癖なんへきをつける(つける)。


だが乖の反応はんのう非常ひじょうに速い(はやい)。すぐに補足ほそくして言う:「ああ、あの人は恩知らず(おんしらず)です。俺はもともと彼から少し(すこし)恩恵おんけいを受け(うけ)ることを期待きたいしていましたが、思いがけず(おもいがけず)彼に監禁かんきんされ(され)、毎日まいにち血液を抜かれ(ぬかれ)、毎日研究けんきゅうされ(され)ました。結果けっか、俺の血は俺が調子ちょうしの良い(よい)ときにだけ効果こうかがあることが分かり(わかり)ました。しかも普通ふつうのけがにはやくに立た(たた)ず、世のよのなか難病なんびょうにだけ効く(きく)んです。具体的ぐたいてきにどんな理由りゆうか、俺も知り(しり)ません。そのキノコも一本いっぽんしかなく、俺が食べちゃいました。」


朱は続けて(つづけて)難癖なんへきをつける(つける):「お前は蠱師のなかに落ち(おち)たあと、どうして逃げ出せ(のがれだせ)たんだ?」


乖はためためいきをついて言う:「それは偶然ぐうぜんです。てきが彼にトラブル(とらぶる)を持ちかけ(もちかけ)てきたので、俺は……」


乖は詳しく(くわしく)はなしをし、そのそのば一連いちれん物語ものがたりを作り上げ(つくりあげ)、本物ほんもののように装う(よそおう)。朱も広く(ひろく)世のよのなかを歩い(あるい)てきて経験けいけん豊富ゆたかで、時折ときおり繰り返し(くりかえし)質問しつもんする。結果けっか、乖は蠱師ではないが、非常ひじょう機知きちに富ん(とむん)で、一つ(ひとつ)のすきも見せ(みせ)ず、しかも細部さいぶまで生き生き(いきいき)と描写びょうしゃし、まるで自身じしん経験けいけんしたかのようだ。恐らく(おそらく)彼は自分じぶん生死せいしさかいにいることを知っ(しっ)て、生命せいめい潜在能力せんざいのうりょくを引きひきだしたのだろう。とにかく朱はだんだん哄骗こうへんされ(され)ていった。


小僧こぞう、もしお前が俺を騙し(だまし)て、治療ちりょう失敗しっぱいして俺の面目めんぼくを潰し(つぶし)たら、俺はお前の筋肉きんにくを剥ぎ(はぎ)取り(とり)、ほねを抜い(ぬい)ていぬに食べさせ(たべさせ)る!」朱は悪辣あくらつこえで脅す(おどす)。


乖は急いで大きく(おおきく)叫ぶ(さけぶ):「どうしてそんなことができますか、朱様!あなたを騙す(だます)勇気ゆうきはどこにもありません!百個ひゃっこの勇気があっても(あっても)できません!」


「じゃあ行く(いく)ぞ、主城しゅじょうに帰る(かえる)。」朱は振り返り(ふりかえり)、あしを踏み出す(ふみだす)。


「行け(いけ)!」二人ふたりの獣人の蠱師たちが乖の後ろ(うしろ)にて、一人ひとりは乖の背中せなかを激しく(はげしく)押す(おす)。


乖はよろめき(よろめき)、倒れ(たおれ)そうになる。


彼は急いで大きく(おおきく)叫ぶ(さけぶ):「朱様、朱様!」


朱は振り返り(ふりかえり)、まゆをしかめ(しかめ)て乖を見つめ(みつめ)、なか危険きけんひかりがきらめく(きらめく)。


乖はお世辞おせじまじりの媚び(こび)笑い(わらい)を浮かべ(うかべ)、両手りょうてを握り(にぎり)合わせ(あわせ)て謝罪しゃざいする:「朱様、俺は歩け(あるけ)なくなりました。戦車せんしゃに乗り(のり)たいです。」


「ん?」朱はまゆを上げ(あげ)、一瞬いっしゅん自分じぶんが聞き違え(きちがえ)たのではないかと疑う(うたがう)。


だが乖は続けて(つづけて)言う:「いいえ、朱様、誤解ごかいしないでください。俺もあなたのためですよ。よく考え(かんがえ)てください。俺が調子ちょうしよく元気げんき状態じょうたいでないと、血液けつえき効果こうかがないんです。もし俺が徒歩とほ主城しゅじょうまで行ったら、途中とちゅうで疲れ(つかれ)て死ん(しん)でしまうかもしれません。朱様、朱様、俺はできるだけ城主の愛娘を治し(なおし)たいです。俺は度胸どきょうがなくて生き(いき)たいです。あなたたちに食べられ(たべられ)たくないです!」


朱は長いながいあいだ黙っ(だまっ)ていたあと、やっと鼻哼はなぐんりをし、振り返り(ふりかえり)あしを踏み出す(ふみだす)。一言ひとこと残し(のこし)て:「彼を戦車に乗せ(のせ)ろ。」

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