痛みが再び来たとき
@nam-j99 my youtube
「こいつに… 好き勝手はさせない!!!」
子供たちが絶叫し、全員が立ち上がった。
その瞳には決死の覚悟が宿っている。
「リク、水を出せ!」
「任せろ!!!」
リクが歯を食いしばり、両手を掲げる。
その瞬間、濁流のような水流が迸り、崩れた建物を満たした。
直後、仲間たちが魔力を絞り出す。
「雷撃――ッ!!!」
バリバリバリィィィンッ!!!
眩い稲妻が水に落ち、巨大な電流の檻となって大男を包み込む。
「グォォォォォッ!!!」
巨体が震え、皮膚が焼け焦げる。煙が立ち上り、赤い目に苦痛が走る。
「効いてるぞ!!!」
誰かが叫んだ。希望が胸に灯る。
だが――
「ククククッ……」
雷に焼かれながらも、大男はゆっくりと顔を上げた。
唇が吊り上がり、凶悪な笑みを浮かべる。
「悪くない…だが足りん。」
ドォォォォンッ!!!
拳を握り締めた瞬間、全身から轟音の衝撃波が炸裂した。
「グガァァァァンッ!!!」
稲妻の檻は粉々に吹き飛び、水は霧散する。
子供たちは悲鳴を上げ、血飛沫を撒き散らしながら四方八方へ吹き飛んだ。
「ぎゃあああッ!!!」
「うわぁぁぁぁ!!!」
小さな体が壁に叩きつけられ、瓦礫に沈む。
骨の砕ける音が不気味に響き渡った。
やがて残るのは、弱々しいうめき声だけ。
子供たちは地面に転がり、目に絶望を浮かべたまま動けなくなった。
その中で――大男はなおも仁王立ちしていた。
煙に包まれた体、唇の端に浮かぶのは獲物を狩る獣の笑み。
「小僧ども……それが限界か?」
バキッ! バキッ! バキッ!
瓦礫に響く音は、まるで死神の太鼓のようだった。
鉄の棒がリクの頭に振り下ろされる。
一撃、二撃……三撃。
「ぐっ…がはっ…!」
幼い顔を鮮血が覆い、赤い川となって頬を流れ落ちる。
視界は揺らぎ、今にも閉じそうな瞳を必死に開け続ける。
十回。二十回。三十回――。
殴られるたび、骨の砕ける音が不気味に鳴り響き、頭蓋が揺さぶられる。
残された子供たちは震え、泣き叫ぶしかできない。
「やめて…お願いだから…やめてくれ…!」
だが、大男は止まらなかった。
その目には冷酷な嘲笑しかない。
「ハハハッ! 所詮ゴミだ…お前ら全員!」
怒号とともに、棒はさらに深く頭を叩き潰す。
その時――
「や…やめろおおおおおおッ!!!」
クロウの絶叫が響き渡った。
折れた脚を引きずり、血の跡を残しながら必死に這い寄る。
震える手で地面を掴み、泥と血にまみれながら前へ進む。
涙と怒りに震えた声が喉を裂いた。
「やめろォォォ!!! リクを殺すなッ!!!
リク…俺を置いていくな…お願いだぁぁぁ!!!」
その瞳に映るのは――血に染まり、崩れ落ちる仲間の姿。
クロウの心臓は燃え盛る炎のように軋み、絶望と怒りが混ざり合って爆ぜようとしていた。
男はなおも棍棒を振り下ろし続けた。
――ドスッ! ドスッ! ドスッ!
リクの身体は血に染まり、目の光が徐々に薄れていく。
その一撃ごとに、小さな仲間たちの希望までもが砕かれていくようだった。
クロウは折れた足で立ち上がれず、地面に這いつくばりながら喉を裂くように叫んだ。
「やめろッ!! やめろって言ってるだろォ!!!」
しかし男は耳を貸さず、冷酷に棍棒を振り下ろし続ける。周りの子供たちは恐怖に凍りつき、ただ震えながら見ていることしかできなかった。
血に濡れた唇をわずかに動かし、リクがかすれた声を漏らす。
「……クロウ……た、助けて……」
その言葉は短く、弱々しかった。だがクロウの胸を深々と突き刺す。
瞬間、数え切れない記憶が頭の中を駆け巡った――。
二人で飢えをしのいだ日々。固いパンを分け合った夜。凍えるような寒さの中、一枚のぼろ布に包まって眠った時間。
そして、無邪気に夢を語り合ったあの瞬間。
「いつか家族みたいに、笑って暮らせる日が来るさ」――そう言って笑ったリクの顔。
クロウの目から涙があふれた。
声にならない慟哭とともに、心の奥底で燃える炎が爆発する。
「リクゥゥゥゥゥ!!!!」
血と涙にまみれながら、クロウの魂は叫んだ。
恐怖も、痛みも、もう残ってはいない。
ただ――友を守りたいという想いと、決して消えぬ怒りだけが、胸の中で燃え上がっていた。
「うおおおおおっ!!」
黒は咆哮した。瞳は紅に燃え、全身から炎が噴き上がる。
超高速で巨漢へと突進し、そのまま炎を纏った体当たりを叩き込む。
轟音と共に巨体は壁ごと吹き飛び、石造りの建物が粉々に砕け散った。
だが、奴の肉体は鋼鉄のように強化されていた。
ほとんど傷ついていないその男は、逆にクロの頭を鷲掴みにし、力任せに投げ飛ばす。
地面を転がったクロの顔は血に染まり、視界は揺らぐ。
それでも、彼は足を踏みしめて立ち上がり、消えることのない闘志をその瞳に宿していた。
「ぶっ潰れろォ!!」
クロは咆哮と共に、雷を纏った巨大な槍を生み出した。
稲光が空気を裂き、真っ直ぐ巨漢の腹部を貫く。
分厚い脂肪と鋼鉄の肉体を貫かれた男は、絶叫を上げ、怒り狂ったように口を開いた。
「ぐあああああっ!!!」
次の瞬間、耳を裂く轟音――超振動の衝撃波がクロの全身に叩きつけられる。
筋肉が痙攣し、鼓膜が破れそうな痛みに襲われる。
血が口から溢れる。だが、クロは一歩も退かない。
「まだだァッ!!」
拳に炎を纏わせ、渾身の一撃を叩き込む。
「ドガァッ!」
巨漢も反撃する。音を纏った拳と炎の拳が衝突し、爆発のような衝撃が何度も何度も響く。
互いの顔は殴り合いで原形を失い、血と炎と衝撃音が夜を切り裂く。
それでもクロは止まらない。仲間を守るため、何度でも立ち上がり、何度でも殴り続ける。
「うおおおおおおっ!!!」
最後の炎拳が炸裂し、巨漢の顔面を粉砕する。
白目を剥いた男は崩れ落ち、地に沈んだ。
クロは血に濡れたまま立ち尽くし、荒い息を吐く。
その瞳には、まだ消えぬ炎が燃えていた。
雨はますます激しく降りしきり、闇夜はすべてを飲み込もうとしていた。
クロウはよろめきながらリクのもとへ駆け寄る。
その身体はかすかに呼吸をしているが、頭から流れる血が雨と混じり、地面を赤く染めていく。
リクは意識を失っている。それでも、か細い命の糸はまだ繋がっていた。
「リク!!! 死ぬな…!絶対に死ぬんじゃねぇ!!!」
クロウは叫び、友を抱きしめる。涙が雨と混ざり、頬を濡らした。
夜の闇の中、クロウはリクを背負い、狂ったように走り出す。
血が一滴、また一滴と、冷たい石畳に落ちていく。
ここは見知らぬ町。病院がどこにあるのかも分からない。
必死に走るクロウの視界に、かすかな灯りが映る。路地の一軒家だ。
クロウは力の限り扉を叩きつける。
驚いて出てきた男は惨状に息を呑み、震える手で道を指し示した。
「そ、そこだ!真っ直ぐ行けば病院が…!」
「ありがとうッ!!!」
クロウは最後の力を振り絞り、再び走り出す。
雨音、荒い呼吸、鼓動――すべてが悲劇の旋律のように重なって響く。
やがて、病院の明かりが目の前に見えたその時。
リクの瞼がゆっくりと開いた。
紫色に染まった唇がわずかに震え、必死に言葉を紡ぐ。
「クロウ……おまえに……言いたいことが……」
だが、クロウの耳にはもう何も届かない。
先ほどの敵の“音”の衝撃で、耳から血が流れ続け、聴覚は奪われていたのだ。
ただ、リクの唇が動いているのを見つめることしかできない。
「もう喋るな…!すぐに助けるから……!」
だが、遅すぎた。
リクの身体が痙攣し、弱々しく足を動かした後――心臓が止まった。
「やめろ……いやだぁぁぁぁぁぁ!!!」
病院の扉の目の前で。
冷たい雨の下で。
リクは息を引き取った。
クロウは地面に崩れ落ち、友を抱きしめ、獣のように咆哮する。
雨は止むことなく降り続けた。
まるで、二人の運命を悼むかのように。
雨は次第に弱まり、静かに降り続けていた。
ただ、闇に包まれた町を吹き抜ける風の音だけが響いている。
震える手で、クロウはリクの胸に触れた。
――もう、鼓動はなかった。
――もう、呼吸もなかった。
「……そんな、はずが……ない……」
その瞬間、クロウは夜空に向かって絶叫した。
しかし、その声に耳を傾ける者は誰一人いない。
冷たい雨と闇だけが、彼らを包み込み、世界は無関心に沈黙していた。
熱い涙が血と雨に混ざり、クロウの頬を伝い落ちる。
彼は崩れ落ちるようにリクの身体を抱きしめた。
――まるで、手を離せば友がこの世から完全に消えてしまうかのように。
脳裏に蘇る数々の記憶。
初めて出会った日の無邪気な笑顔。
陽だまりの中、二人で駆け回った日々。
粗末な食事を分け合い、互いに未来の夢を語り合った夜。
苦しい毎日でも、リクが隣にいるだけで耐えられた。
その全てが――今や取り返しのつかない過去となってしまった。
「リク……どうして……どうしてオレを置いていくんだ……!」
クロウは肩に顔を埋め、声にならない嗚咽を漏らす。
小さな身体を震わせながら、ただ友を抱きしめ続けた。
優しい雨はなおも降り注ぎ、まるで天が二人の運命を悼んで涙を流しているかのようだった。
@nam-j99 my youtube