21話 哀れな使者と商人が取る行動とは?
「アナタは母の立場をわかっていないようだ」
僕は呆れた表情で使者に向かって口を開く。
本当にこの使者とヨーグはママを分かっていない。
ママがその気になればシュナイゼル等は滅ぶ程の力を持っている――物理的に――のを分かっていない。
無知って哀ればい。
使者は怒りを潜めバカにした表情で口を開く。
「昔は8英傑として名は知れていたようだが、それだけでしょ?今までは、表舞台にでてきていなかったみたいですが、今更昔の栄光を振りかざしてもらっては困りますね」
「昔の栄光ね…シルヴェスター先代公は母の事を先生と呼び、今でも慕ってくれます。それこそ今は、ラインハルト殿下達に勉強や武術を教えたりしてますし、各国の上の方、特に他の8英傑は母が面倒を見ていたようで今でも、母の元に遊びに来るほどです。母の魔法等の知識はそれほど価値があり、各国に影響力を持ちます。それを一公爵の使者すぎないアナタに権力を振りかざされても、こちらとしては、痛くもない。むしろシュナイゼル王国との関係を断ち、そうですね…魔法王国ゼルクに拠点を置くのが良いでしょうね。エルマ・ガン・ゼルク王は喜んで母を受け入れてくれるはずです。ですよねエルマさん?」
僕の言葉で応接室の奥から客間に通じるドアから二人の男女がやって来る。一人は眉間にシワを寄せ困った表情をするベスター爺と、銀髪ロングヘアーで翡翠の瞳をした耳が長いハイエルフの物凄く美人で20歳にしか見えない女性、エルマ・ガン・ゼルクその人だ。
「先生を迎え入れるなんて大歓迎よ、ユタカちゃん。先生の魔法技術は素晴らしいもの、テレビなんて画期的だわ。それに魔獄の素材をシュナイゼルが今まで独占的に融通してもらったみたいだけど、今度は我が国に融通してくれるってことでしょう?嬉しいわ〜!ユタカちゃんもこんな隅っこの村なんかじゃなくて、我が国の領地を与えるからそこで腕を上げ振るってみない?あっ!ダクネリーナの使者とやら礼を言うぞ大賢者フウ殿との関係を断ち切ろうとしてくれて」
「やってくれたな!フウ殿との関係は魔獄とシュナイゼルが近いからと優遇してくれただけに過ぎない。飛行艇や魔導車、そらとぶ絨毯等は殆ど、フウ殿が開発したもの、それだけでも大きいのにたかが公爵の使者にすぎない貴様がフウ殿に偉そうな態度を取るな!フウ殿の地位を我が国で表せば現王と同等か、それ以上に価値はあるのだ。それを…」
「ゼルク王に…先代公様…何故ここに…」
2人の出現に目を白黒させ顔は真っ青にさせる使者。
使者が慌てて跪くとヨーグも続いて跪く。
使者達二人は混乱状態だ。
エルマさんは、途中で王の顔と言葉になるしね。
見下していた相手がとんでもない人を呼んだのだ。
それも国に影響力を持つ人達がだ。
この事は想定していなかったのだろう。
「今日はお忍びでエルマ殿とユタカ君の村を視察に来ていたのだ。そこに貴様たちが来たということだ。貴様はフウ殿にシュナイゼルを敵に回すつもりかと聞いたな?言っておくが我が国はフウ殿やユタカ君を敵に回すつもりはない!ダクネリーナ公爵だけで何とかしろ!王家はこれからもフウ殿とは関係を深めていきたい。それにエルネシアはユタカ君の婚約者に自ら立候補している。これから関係が深まっていこうとしているのに邪魔をする気か?これはダクネリーナ公爵家の相違と思って良いのだな?」
「いえ…そのつもりはありません…ですが大賢者と言えど高々平民に過ぎません…それなのに高貴な身分である第二王女殿下を婚約など…」
「先ほど言ったな、フウ殿の地位は現王に匹敵すると。それぐらい重要なのだ」
重要性を述べるベスター爺だが、使者は頭を垂れているがその顔は苦虫を噛み潰したような顔をしていて瞳には怨嗟の炎が灯っていた。
だがこれまで黙っていた絵梨花お姉ちゃんの言葉で表情が変わる。
「本当にバカよね。フウさんが昔の栄光と言うなら100年前にシュナイゼルの為に戦った、私と豊の父親である通親どうなるのかしら、確か父さんの弟子ってこの国の宰相だったわよね?確か第一王妃のお祖父さんでフォークス公爵だっけ?この事知ったらただじゃ置かないんじゃない?一度会ったことあるけど何かあれば協力しますって言ってたし」
立場的には父の弟子であるフォークス公爵の方がダクネリーナ公爵より立場が上、どうにかしてフォークス公爵より権力を上げたいダクネリーナ公爵にとって、商人のいざこざで立場を危うくしたくないはず、使者より家を守るだろうと思っていると、使者も同じ答えにたどり着いたらしく、顔を土気色にして諦めている。
「申し訳ありません。当家はこの件から手を引きます。大賢者殿には大変失礼をしました」
「使者殿!話が違いますぞ!」
「黙れ!フォークス公爵家まで出てきたらダクネリーナ公爵家に泥を塗るわけにはイカンのだ!たかだか商人のいざこざで、ダクネリーナ公爵家の地位を落とす事になると使者である私が、無事では済まない話になるのだ!!」
「ほう、手を引くか。残念だ、フウ殿が我が国に手に入ると思っておったのに」
驚き、使者を止めようとするヨーグ。
それを使者が現状をヨーグに話す。
その光景を見ていたエルマさんは非常に残念そうに肩を竦め使者に思いを語る。
だがその顔はまだ諦めていないのが分かる。
だってママ達と同じ悪い笑みを浮かべているんやけん、なんか怖かっ!
王の顔を止め普段の顔になるが笑みが怖い。
「まぁ良いでしょ。ユタカちゃんには私の曾孫を婚約者にすれば良いし!」
ちょっと待ってしれっと婚約者を増やさんで。
政略結婚とか懲り懲りよ。
絵梨花お姉ちゃんもなんだか怒りモードに入ってるし…エルリックさん!楽しそうに笑わないで!絶対この状況楽しんでるでしょ!
そんな事思っていると諦めた使者に対してヨーグが怒りを露わにし、この場の人間を敵に回すような言葉を吐きこの場を出ようとする。
「フン!バカバカしい、何がシュナイゼルの国王に匹敵するだ!ふざけるのも大概にしろ!だいたいゼルク王や先代公様がただの大賢者の為に、この場に居るはずがないですぞ!使者殿は騙されているのです!こんなガキに言い負かされて良いように扱われ、恥ずかしくないのですか?オルトロス商会!必ず貴様らの商品は我がオゴール商会が手にしてみせる!必ずだ!そして大賢者とガキ!必ずこの借りは返させてもらう!このヨーグ・オゴールを敵に回したことせいぜい後悔するんだな!私はこれで失礼する!」
バンッとドアを叩きつけるように閉めて出ていくヨーグ。それに対して残されたこの場の全員、黙っているが場は凍りつくように冷えている。
ベスター爺はハァ〜とため息をつき、肩を竦めエルマさんやママ、悠木さん、絵梨花お姉ちゃんは笑顔だが目は笑っていない。
使者は耐えられず、その場に崩れ落ちる。
「さて〜この件に関してはダクネリーナ公爵家は手を引くんだよね〜?」
「は、はい」
初めて聞くママの声に迫力を感じたのか、今にも消え入りそうな声で絞り出すように返事をする使者に対してママの次の言葉でやっと敵に回してはいけない相手と気づき震え上がる。
「じゃあ〜潰すのはあの豚だけだね〜さぁどうしてやろうか〜」
「あのクズの事だ、必ず豊や風に仕返しをしてくるに違いないね。ここはトワに監視させるしかないね」
「アイツは豊を侮辱したから精神的にも社会的にも終わらせて復帰不可能にしてやるわ!」
「面白いと思いますよ!フウ様と、ユタカ様を敵に回した事を後悔させて上げましょう!」
「あら、先生やユウキさん、エリカちゃんが言うのは分かるけど、従者になったばかりの人が言うセリフじゃないわね。フフフ」
ママや悠木さん、絵梨花お姉ちゃん、エルリックさんまでもがヨーグの末路を言う。それに対してエルマさんが手を口に当て、楽しそうに言葉にする。これは終わったな。
「トワ〜」
「ほいな!主の妖魔トワやで〜って何でママさんに呼ばれなあかんねや!ワイは主の妖魔やで?」
ママの呼びかけにすんなり出てくるトワ。
それに対してツッコミを入れるトワだが今更だろう。トワがママ達に良いように使われていることなど前から分かっていたしね。
ママはそんなトワを無視して話を進める。
「見てたよね〜?あれどうする〜?」
「ちゃんと見とったでぇ。もう半蔵が奴の屋敷に潜入を開始しとるし、ワイも監視しとるでぇ。もう早速行動に移そうと、奴の手駒を動かそうとブツブツ言いよったわ!今日、主は此処の屋敷で寝た方が良さそうやな。その方が楽しくなりそうやしな〜」
両手を頭に上げて当てながら言うトワ。
もう監視しとるんかい!仕事が早いねぇ!いつもながら思うけど!そんな言葉を言うトワを感心しながらエルマさんとベスター爺が言葉を発する。
「ユタカちゃんの使い魔って凄いのねぇ。敵に回したら怖いわー」
「本当に。ハァ〜これだから無知は恐ろしい。良かったな敵に回す人間を間違えなくて」
ベスター爺は使者に向かって言う。
使者は震えながらも首を縦に振る。必死に。
今、ママや僕を敵回すとどんなことになるか考えたのだろう。震えながらもその顔にはどこか安心した表情がある。
使者はベスター爺に返事をした後「失礼します」と声を絞り出し、震えながら出ていった。
「はぁ~カインズめ。何を考えているのか…」
「カインズって〜ダクネリーナ公爵〜?」
「はい。貴族派筆頭で、第二王子であるライナックを神輿に担ぎ上げている男の一人です。頭がよく回る男なので、奴の周りには平民を平気で見下す貴族が多く集まっているとか…」
ベスター爺が顎に手を当て眉間にシワを寄せて考え込んでいる。
貴族って上位の位の人って威張り散らかすイメージだからな…
今回の件でダクネリーナ公爵が敵に回るかもしれんことは頭に入れとかんばね。
「そっか〜ダクネリーナ公爵にも何か手を打つべきかな〜?」
「いや。今回は魔法王国ゼルクの王であるエルマ殿がいらっしゃり儂もいたのですから、あのカインズでも下手には動けんでしょう」
「歯向かうようなら、そうしないように釘を差せばよくて?」
「エルマ殿…カインズもこの国には重要な人物です。そうやすやすと手を打つことなど出来ませんよ…」
「ベスターも大変だね〜」
ママとベスター爺とのやり取りにエルマさんが簡単なことを言うが、それができればやっているはずなんだよね。
ママも他人事だし、僕にも関係ないかな?
降りかかる火の粉は振り払う主義だし!




