表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【夏のホラー2024】秋乃ver.

そんな人と生きていきたい。【夏のホラー対応AED】

 この夏のホラー企画で、三部作としてエッセイを書いた。

 合わせてAEDも一緒に投下しておくことにする。



 *



 消えたい人、怖がりたい人、噂を聞きたい人、そんな方々が拙作を読んでくださったと思う。

 本当に怖いのは人間、という私なりのオチに不快感を抱かれた方も多いのではないか。

 だから、ここでちゃんと明言しておきたい。


「私は、そんな人と生きていきたい」


 本心からそう思っている。

 綺麗ごとだと受け取られるかもしれないが、理由があるので綴りたい。


 みんな、人には言えない苦しみを抱えている。

 表面的にはわからない。

 推し活、趣味、家族、仕事、色々な幸せの形で紛らわせようとしているからだ。

 ただし、一時的に満たされたとしても、それは空腹をやり過ごすようなもので、生きていればまた腹は減るのである。

 表向き、どんなに充実した人生を送っていたとしても、心の底には必ず、孤独とやり切れなさがある。

 そういうものに、私たちは、あえて向き合わない。真摯に向き合えば考え過ぎて病むからだ。

 自分の孤独や苦しみに、(にぶ)くなければ生きられない。

 その一方、他者からは些細な失言で叩かれる世の中にもなっている。

 自分には鈍く、他人には(さと)く。

 この矛盾を要求される現代が、どんなに息苦しい時代であるか、考えてみたい。


「人の悪口を言わないように」

「どこでデジタルタトゥーが晒されるかわからない」

「アカウントは絶対にバレないように」


 そんな閉塞感の中で、心を病む人がいるのは当たり前だと思う。

 優しい人ほど、聡い人ほど、深く希死念慮を訴える。

 周りと比べて、「自分にはこんなことも出来ないのか」と落ち込み、惨めさに打ちのめされることもあるのではないか。


 だけどそれは裏を返せば、貴方の財産だ。


 苦しみを知る人は、そのぶん、他人の苦しみを察することができる。

 寄り添い、一緒に悩むことができる。

 私はそんな貴方たちを尊く思う。



 *



 噂という漢字は、口に《尊》と書く。

 これがずっと不思議だった。

 調べてみると、この右側の部分は《酒》を《手》に持って捧げている意味の字だと言う。

 古代から酒は供物としての役割がある。

 一般の人にはとても手の届かない高級品であり、(うやうや)しく捧げられるべきものだった。

 それが時代を経て、庶民の娯楽となり、今の意味での酒となった。

 酒の席で交わされるのは、誰かの話。

 だから口に酒と書いて噂となったらしい。


 本来の意味に(さかのぼ)って、《うわさ》という言葉を、自分なりに定義してみたい。


「あの人は、こんなに大変な思いをしながら、がんばって生きている」

「この人はこんな罪を犯したそうだが、自分も境遇が違えば、同じことをしたかもしれない」

「私はこういうことが辛かった」

「話を聞いてくれて、ありがとう」


 噂は人間讃歌だ。


 集団で生きる限り、必ず人は、誰かと自分を比べざるを得ない。

 嫉妬もする、愚痴も言う、腹も立つ。

 だけど、それを聞いてくれる人がいる。


「みんな大変だな。自分だけじゃないんだな」


 それが孤独の慰めになる。

 無人島で噂はできない。

 誰かと一緒に生きているから噂になる。


 願わくば、それは中傷や(そし)りではなく、敬意を込めた「人間だもの」であって欲しい。

 誰かを死に至らしめるものではなく、暗闇のひとすじの光となるような、共感のメッセージであって欲しい。


「苦しみながらも、貴方はがんばって生きている」

「その姿が尊い」


 生きることに価値があるのは、生きる意味があるからだ。

 拙作にはすでに色々な箇所から、先達の思想が(にじ)み出ている。

 気が向いたら、どうぞ読んでみてほしい。

 私の描くキャラクターは、どうしようもない悩みを抱え、一度は生を諦めながらも、しぶとく生き延びようとする人々ばかりだ。

 小説の形で語る、様々な葛藤や人間模様。

 それらは、今生きている貴方への、心ばかりの賛辞である。

 文字を尽くして言葉を並べて感謝を伝えたい。


 拙作に出会ってくれて、

 私の執筆を支えてくれて、

 最後まで読んでくれて、


「ありがとう」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ