魔法使い、猫くん 第28、5話 「 猫くん、ブライダルハウスにて 」
転移モノ?です。
魔法使い、猫くん 第28、5話 「猫くん、ブライダルハウスにて」
世の結婚式というものは、概ね女性が主役。賛否あろうが。それは元の世界でも変わりはしない。
ところがだ、こっちの世界ではそれはもう、あちらの何倍も女性にスポットが当たるらしい。
芽唯流と一緒に来たのは、ウエディングドレスを仕立てたり会場をセッティングしたり…よくわからん。ブライダルハウスとかいう店だ。
旦那様はこちらの最高級の燕尾服など…あぁ、素敵です!採寸後こちらで仕立てますが宜しいでしょうかね!?
…なんか、私の服は10分で決まった。即、自分の服に戻った。
奥様~こちらのドレスは~まぁ素敵~こちらなどはもう少しレースが華やかで~もう素敵すぎてお写真を飾らせて頂きたいほどです!お色直しはこちらのペールイエロー等如何でしょう、こちらの方には胸元にこのようなダイヤなどお付けになっては…
扉の向こうから芽唯流の言葉が聞こえる。
いやその、あまり宝石で飾り立てるのは好きじゃなくて、せいぜい真珠くらいで…自前の真珠があるからそれを…
と、かれこれ、芽唯流の為だけに3時間。このように激しい扱いの違いを感じつつ、ただコーヒーを飲んで時間を潰す。しかも、怒るに怒れない。華やかな場面に向かう芽唯流の為となると、コーヒーで潰す以外にない。
ちなみに、この店は、オーダーも扱っている。向こうの世界しか知らぬ私には、むしろレンタルという発想が無い。自前の、ダンスするような服を着るだけでよく、格別マナーコードなるものはない。式中に酔った連中が踊り出す程、気さくなものだった。芽唯流のドレスは、オーダーにした。私が決めた。
私が足を組んでもたれている、ややゆったりした椅子の後ろには、主に女性が付けるための宝石、アクセサリーがずらりと並ぶショーケース。当然、結婚指輪も。
待っている間に選んでおけとでも言うのだろうか。
私と芽唯流はもうじき式を挙げる。芽唯流の場合は、学生結婚と言うらしい。芽唯流の両親には卒業後に結婚と言っていたわけで、芽唯流の妊娠に関してえらく怒られた。相当怒られた。この私に言い訳があるはずもなく、ただひたすらに平身低頭。最後には、芽唯流から渡されたエコー写真を見ながら父上殿が、俺がじいちゃんか…。と呟き、私の手を取った。
こちらの世界のマナーを知らない私は、芽唯流と共に調べに調べ、招待状の発送やら何やら、様々な手配をしなければならなかった。芽唯流の友人代表はいいが、異世界の迷い人たる私の友人代表って誰だ。私の側の親族って誰だ。
まぁいい、この式は全て芽唯流の為に在る。…と理解はしていたのだが…。
――――――――――
さて、三杯目のコーヒーを飲み終える頃。
店の前に、全ての窓をスモークにしたバンが急停止した。
助手席側が見えたが、黒い覆面をしていた。あの黒いマスクは何処で買えるんだろう。買わないが。助手席と、後部座席のドアが開きかけたところで、時間を止める。
<大魔法;時間停止>
暇だったんだ。どれどれ。フーン、宝石店強盗かな多分。昼間っから大胆だな。
芽唯流が中で楽しんでいるんだ。邪魔するな。
確か、中央の方に警察署があったなぁ。
<集団転移>
まぁ、これで良いだろう。
4杯目のコーヒーを飲み終える頃。
<速報:警察署に武装集団が宝石を出せと殴り込み!全員逮捕>
と、スマホのニュース速報。SNSのコメントを見て、私はちょっぴり楽しくなった。
楽しくコメントを呼んで少し微笑んでいると。まぁ、ニヤニヤしていると、だな。
店の前にスマホを構えた青年がやってきた。しかも、どこかで見たことがある。
ああ、思い出したが…。何と言っているのかな。
<深淵の耳>
遠見の呪文ならぬ、遠聞の呪文。
<どうやら、今、なんと猫動画のMELLさんがこの店に来てるらしいですよ!これは凸ですよ!お相手は誰ですかね!根ほり葉ほり聞きたいと思います!>
コイツは前に追い払った迷惑系のヤツだ。また来たのか。いい加減、呪いでもかけておこうか。まぁ、その前に…。
<大魔法:時間停止> 2回も使わせるな。疲労が激しいんだ。
さて、凸好きな君には、どこに飛んでもらおうかね…。
<呪詛、たった今から、お前の画像アカウントは必ず、すぐに消される。>
<転移…この間、芽唯流と行った温泉の更衣室へ飛べ…ん~迷惑かな。男湯だが色々終わるだろ。>
私のテレポートはこの世界に来て進化した。前までは、知っている場所へ、見えている場所へ、それが転移の限界だったのだが。ネットに溢れる現地の画像はその地点を印象深く覚えるには十分で、意識できれば飛ばせるように、飛べるようになった。ありがたいことだ。勿論、温泉の男湯は記憶している。
さて、コーヒー5杯目。
<SNS速報:自称迷惑系配信者、○○温泉の男湯で撮影、現行犯逮捕。>
まー、別の職を探すことだ。
さて、コーヒー5杯目を飲んでいる途中だが。流石に高級店で出す旨いコーヒーとはいえ、飽きた。腹が水分だけで破裂しそうだ。
…の頃。ウィンドウの向こうから、姉妹らしき2人がチラチラ覗き込んでいた。
幼い方は、小学生だろうか。年上の方は中学生くらいか。自信はない。
何か、私をじろじろ見てくる。
「ねぇねぇ、カッコイイお兄さんだね!」
「ね!アイドルみたい!」
そうかい。ありがとな。
呪文効果の残りで声が聞こえてくる。盗み聞きする気はないんだが。悪いな。
「ここはウエディングドレスを買うとこなんだよね~!撮影モデルさんじゃない?」
「へ~、そうなんだ!かっこい~」
「でもなんか、暇そうじゃない?機嫌悪くない?」
「あ、わかった、カノジョのドレス選びを待ってるカレシだよ!」
あたりだ。怖ろしい観察力だな少女よ。
「え~、カノジョのドレス選びにむすっとしてるってガチさいあくじゃな~い?」
「ね~心せまいよね~ドレス選びなんて嬉しいじゃんねえ~」
ぐさ。 待ってくれ。ちゃんと頑張って待ってるんだ。3時間以上待ってるんだ。
「あ、カノジョさん来た!」
え、と振り返る。
「猫くん。お待たせ。ね、当日は髪をあげるんだけど…こんな感じ。どうかな。てへ。」
「うっわー彼女さんきっれー!!」
「お姫様じゃん!すっごー!」
「ドレスのカノジョさんと比べると、やっぱカレシ地味~!」
「ね、地味地味だねーガチ引き立て役だね~」
背後からの雑音が多少背中に刺さったが、芽唯流から目が離せなかった。軽口を叩きたかったが。少しバカにしたかったが…。想像より、遥かに美しい芽唯流を見て、本当に言葉を失ったから。でも、ここは言葉にすべき時だよな、そう思う。例え気の利かぬ凡庸なセリフでも。
「芽…」「カレシさん、固まってる~!」「見とれてんじゃーん!初々しい~!」
「早くなんか言ってやれよ~決めろよ~!」
やかましい!
心の中で叫びつつ、私は振り向いてガラスの向こうの少女たちを睨んだ。
カノジョらは慌てて目をそらし。
<え、何?あたしたちただの通行人ですけろ何か?>という感じで去って行った。
こほん。
わたしは芽唯流に改めて向き直り、どうしようもなく月並みな誉め言葉を一言だけ告げた。
「当然でーす。嬉しいかコノコノ…試着で見とれてたら当日は気絶するかもよ?」
芽唯流の照れ隠しが可愛らしかった。
芽唯流の手を取って、見つめあっている時に、またしても背後から声が聞こえて来た。
「ね、ママ!!お嫁さんきれーすぎでしょ!」
母親まで来たのか!?
「うわーほんと!ママも敗北!」
「当たり前じゃん。張り合わないでよママ」
「彼氏もカッコいいけど、まぁドレスのカノジョと比べるとねえ。」
「カレシもケッコンの服、着とけば良かったのにね~。地味だよね~!」
「ま、結婚式ってのは、誰が何といおうと!差別だろうがハラスメントだろうが!花嫁の為に在るのよ!!男は横で引き立て役になればそれで良いのよ!アンタたちも将来しっかり引き立て役を見つけなさいよ!」
「はーい!」
芽唯流が普段着へ着替える為再びドレスルームへ戻った中、私は、何とも言いようのない敗北感に打ちひしがれ、冷めたコーヒーの乗ったテーブルに突っ伏していた。
あぁ、300年生きようと勝てはしない。
…女ってこわいなぁ…。




