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アリスプロジェクト:RE  作者: 黒衣エネ
第一章:起動/黎明/標
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再誕

灼熱が肉を焼き、鈍色の鋼が身を裂く。狭い有機の海を揺蕩い再び生れ落ちるのは人の業であろうか。

案内された有栖の家の中、そして部屋は女子高生の部屋とは思えないほど殺風景で物が極端に少なかった。


有栖の部屋には大きなタンスが1つと机が1つ椅子が1つと枕はおろかマットすら敷いてないシンプルな折り畳みベットしかなかった。

必要最低限か、それ以下の家具しかない。


それは部屋だけでなく、居間にも机と椅子が1つと冷蔵庫程度しか無く、テレビもソファも無ければ絵だったり観葉植物みたいな飾りも無い。



「こんなものしか無くてごめん、お茶とかコーヒーとかあれば良かったんだけどね。ここに誰かを呼ぶなんて、想定してなかったから。」


そう言って有栖はグラスに入れた炭酸水を俺に出してくれた。


「何もない部屋でしょ。僕はヒトに必要な多くのモノが必要無いから。」


今なら有栖が言うその言葉の意味が分かる。


有栖は自分が『サイボーグ』だと言った。信じられないが、俺は実際に有栖の怪力とあれだけの衝撃でも傷つかない耐久性を見た。

仮にサイボーグでは無かったとしても、何か超常的な存在には間違いないだろう。



「さて、どこから話そうか。そして、どうやって僕のことを説明して僕のことを証明したらいいかな。」


有栖は腕を組み思案する素振りを見せる。無表情に近いが、思案顔とでも言うべき微かな感情が見て取れた。些細な変化だが、有栖の微笑み以外の表情を見れたのはこれで初めてだ。


「そもそも、僕自身が今の自分を全部理解してる訳じゃないんだ。」



*******************



『気が付いたらこの身体になっていた』



その時には既にそれ以前の記憶は無く、元々の自分がどんな人間で、何をしていたのかもわからない。

一方で、今自分が今何をすべきかは迷わなかった。


脳に埋め込まれ接続されたコンピューターが自分の状態を報告し、最適な行動を選択肢として提示する。

それを踏まえて脳とコンピューターのオペレーティングシステムが判断し、行動する。


まるで当然の如く行われたそれらが『ヒト』として逸脱していると気付いたのは、少し時間が経ってからだった。

人としての当然が何なのかすら考えない程、『僕(有栖)』は改造されていた。


その事に思い至った僕(有栖)は、今度は自分の身体を調べた(スキャンした)。

すぐさま脳内のコンピューターが『スペック』』という形でその詳細を提示する。


人工臓器、CNTカーボンナノチューブファイバー製人工筋繊維、アンオプタニウム耐熱合金製骨格。


自分がサイボーグに改造された事までは理解出来た。

その先が分からない。


自分がコスト度返しで造られたサイボーグ兵器の試作機だという事は、データや解析されたスペックから理解出来る。

しかし自分に指示を出す(出せる)オーナーはおらず、全ての管理システムから、既に僕(有栖)は切り離されていた。

サイボーグを管理する者、『兵器』を扱う者が居ない。


誰も、制御する(出来る)ものがいなかった。


その結果、僕(有栖)は初回起動時にシステムエラーから一時的な暴走状態に陥り、起動時に居た施設を破壊し、脱走した。


再起動後、通常状態に移行した僕(有栖)はコンピューターの提示した指示を参考に行動している。

一つはシステムエラー時に破損した記憶データの補完。


…そしてもう一つは何者かが秘密裏に僕(有栖)のバックアップメモリーに残して置いた指示。


『兵器にならず、束縛されるな』というもの。


ただそれに従うのではなく、一体何処の誰がこんな指示を残したのか、それを突き止めるために。



**********************



有栖はそこで一旦話を区切った。


有栖に何が起こったのかは何となくだが理解出来た。

信じがたい内容だったけど、有栖のあの力を見た後だと、とてもホラ話だと思えやしない。


そして一つ、有栖の話した内容で引っかかる部分があった。


「有栖、兵器って…」


「ああ、僕の開発目的だろう。正確にはその試作段階。どこまで機体の性能を上げられるかだとか、新しく導入した技術のテストだとかが中心だろう。」


その結果を元に、量産型がロールアウトされるのだろうね。

そう有栖は付け加える。


つまりそれは誘拐され、改造されたのは有栖だけでないかもしれない事を物語っている。


馬鹿な、ここは日本だぞ?

法治国家じゃなかったのか?

そんな非現実的で非人道的な事が、極秘で行われているなんて。


「そう、極秘の事だったから、キミには本来知られるべきではなかったと思う。」


「何だって?」


「こんな事を知った一般人を、これを秘密にしておきたいような人々がそのままにすると思うかい?ましてや国家機密だ、絶対公にできないね。」


…成程、有栖が何を言いたいか分かった。


「証拠隠滅の為に消される、ってことか。」


「そう。既にこの街にも、僕を捕獲しようと潜入している存在を検知してる。もしこの件がバレてるなら、僕の正体を知ったキミを口封じに消そうとするだろうね。」


成程、状況はある意味最悪だ。


これはただマンガやアニメみたいな悪の組織がどうたらじゃない。国ぐるみで極秘で行っている兵器開発だ。

追手が国そのものになると、ハッキリ言って詰んでるとしか言いようがない。


冷静に分析出来てるみたいだがそれはあまりに規模の大きすぎる話で実感が湧いてないだけだろう。

絶望的状況。俺は恐らく、助からない。



「大丈夫だよ。」


「…有栖?」


自分の詰んだ人生にじわりじわりと不安と恐怖が湧いてきたその時、有栖が不意に言う。



「そういう相手からは僕が君を守る。それが今僕に出来る事なのだろうから。」




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