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アリスプロジェクト:RE  作者: 黒衣エネ
第二章:拡散/白昼/自我
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恩讐の災厄

それはある憎しみのお話、自分では全てを台無しにすることでしか終わらせられないもののお話。



彼女の実在が踏ん切りをつける最後のトリガーとなった。ここまで穢れていながら、まだ友人への未練が有ったボクの。


穢れた『連続殺人鬼』の『復讐者アヴェンジャー』が何を今まで未練がましくヒトのフリをしていたのか。



ボクを改造したモノ達は、改造されたこのカラダを見た時の恐怖と苦痛と嘆きを分かるだろうか。そしてそれだけじゃなく他にも(それも歪んだボクが一度会っただけで好ましく感じる程の人物を)改造してた事実を知ったボクの空白が、怒りが奴らに分かるだろうか。


分からないだろうな、だから今からその命を代償に解らせてやろう。



計画の実行まで後一時間、今夜はここからだと遠くに見えるあのビル(通商某ビルとか言ったっけ)に多くのターゲットが集まる。


この『サイボーグ計画』とやらに出資している連中や、見返りを対価に法を捻じ曲げる連中や見て見ぬふりする連中、計画を推進するモノ。


金と権力と見栄と下卑な欲で脂ぎった『権力者』ども。今宵、あそこにいるそういう連中は一人として生かすつもりは無い。


流石に今までボクに殺された連中から不穏な関連性を察して、秘密裏にアンドロイドを護衛として配置しているのも下準備とレーダーで調べてある。勿論、それでも皆殺しに出来る算段も出来てる。



あと少しで、この国史上最悪な大量殺人事件が起こる。


ボクに内蔵されたコンピューターはそれによって巻き込まれる人や警察その他に応戦され、その結果どうなるのかと言う予測を明確に弾き出している。


だけどそれを知った所で止まる気は無い、それを思う心なんてもう壊れてるから、向かって来るなら誰も容赦しない。


醜い化け物には相応しい、浅ましい姿だろう。




*******************



「これだけのアンドロイド反応が唐突に繁華街に現れたのは明らかに異常ね。アリス、最近はあたし達への干渉はほぼゼロだったけど、何か相手方を刺激するようなことをしたっけ?」


同じくバトルスーツを纏い、並走するイグニスに言われるまでも無く、僕のセンサーにもかなりの数のアンドロイド(しかも恐らく武装済み)が引っかかってる。しかも相当数が隠された配置だ。そしてその数が最も多いのが街の繁華街で最も高いビルだ。


「心当たりは無いね、そもそもここ最近は特に何の調査もしてなかっただろう。」


「だよねぇ。じゃあこの数は何?ってことになるけど。」


勿論、この異常な数のアンドロイドが何かが起こる前触れなのは間違いない。ただ、その理由が分からない。


何故ならこのアンドロイドは防衛、何者かの迎撃を目的とした配置だ。アンドロイドを配置している時点でサイボーグの可能性を含むかなり高い脅威を迎撃する為だろうけど、それは僕たちじゃない。僕たちは何もしてないし、こんなに事を荒立てる気も無い。


確実なのは、今からあそこを襲撃する存在が居る。それだけはほぼ間違いない。



「でも止める気なのよね、アリス?」


「うん、これは僕たちサイボーグが関係していると思う。」


この異変にはサイボーグが何らかの形で絡んでいると思う。その最悪のパターンが『襲撃者がサイボーク』と言うパターンだけど。何れにしろ繁華街で以前のような戦闘が起こればその被害はより激しくなる。人間の数が多い場所と時間帯、なら戦闘行動が起きれば巻き込まれる人数も相応に増える。


不確定要素だけど、僕たちは動くべきだと判断した。これは見過ごせる事態じゃない。





「―――いけないわ。アリス、イグニス。」



不意に、白い影が僕らの行く手を遮る。突然、何もない場所から湧き出るように姿を現し、少女の声でそう宣う影。


『その声は…!』


僕のヘッドセットを仲介して、音声は家で待機している坂本君や夏美にも聞こえている。その坂本君が『知っている』リアクションをしたのと、その坂本君から聞いた特徴で、目の前の存在が何者かは凡そアテがついた。


聞いた通りの存在なら、こんな超常の現れ方も可能だろう。


サイドテールにした長い純白の髪、赤く妖しく煌く真紅の双眸、白いドレスを身に纏い、その背中からは一対の巨大な純白の鱗を持つ皮膜の翼が生えていた。その翼は羽ばたきもしていないのに、その身体を少しだけ宙に浮かせている。



「アリスから話は聞いている『最強の兵器』を自称する存在が居るって。聞いてた特徴通りなら、アンタが『ヴァイス』で間違いないって事ね。」


「ええそうよ、初めまして私の妹達。私がヴァイス、『白き究極の闇』にして最強の兵器が私。」


ヴァイス、サイボーグ達の姉を名乗る超兵器。坂本君が言うにはサイボーグでもアンドロイドでもない、幻影のような存在なのに確かに実体がある何もかもが不明な存在。


イグニスは初対面だけど彼女の異質さを既に感じ取っているようだった。僕と違ってイグニスはそう言った感覚が鋭い(或いは僕が感情が希薄なせいでそういった感覚が鈍いのか)。



問題は彼女が今何故ここに現れて、僕らの行く手を阻んだかだ。


彼女は坂本君に一度接触した後は全くと言っていい程、こちらへ介入する事は無かった。僕自身も遠くにそれらしい人影を見たのが2回ほどあるだけで、彼女と面識があるとは言えない。イグニスももちろんそうだ。


その彼女が何故このタイミングで姿を晒して接触してきたのか。それは何の目的なのか、何故今みたいに僕らの行く手を遮るのか(言い換えれば先に行かさないようにしているとも)。




「貴女達に直接干渉せず、アリスの『乗り手』とだけ接触した私が何故私が今このタイミングで貴女達に会いに来たのか、それは漸く状況が整ったと言う事と『彼女ら』の戦いを邪魔するべきではないと貴方達に教える為に、そう言う理由よ。」


「彼女らだって?」


ヴァイスは僕らの思考を読んだかのように、僕らの抱いていた疑問に答えた。そしてその言い方から、ヴァイスはこの異変を起こした張本人かそうでないにしろ重要な人物を知っている。その言い方から女性でしかも複数人だという事も分かる。


ただ『邪魔するべきではない』とも言って、平たく言えば僕たちが彼女らの『邪魔』をすることになり、ヴァイスはそれを止めに来たと言う。



「ええそう、これは彼女らの意志と戦い、誰も邪魔すべきではないし私はその行方を見守る必要がある。これらが終わった時、貴女達の抱く疑問には私が答えましょう。その為に私はここに姿を現したのだから。」


それはサイボーグ兵器のことか、この国の秘すべき暗部についてか、或いはヴァイス本人の目的についてだろうか。今はどれか分からないけど、とにかくこの件に手を出すべきではないのは理解した。


とは言え彼女の言葉をどこまで信じていいのか、そして彼女の言葉が真実だったとしてそれに従うべきなのか。




「そう、今貴女達がすべきことは『彼女ら』の戦いに割り込むことじゃないわ、今やるべきことは…」


そこで言葉を区切ると、ヴァイスは己の後方をチラリと見て意味深な笑みを浮かべる。



「アリス、レーダー見た?」


「わかってる。」


イグニスが言わずとも分かる。レーダーに動きがあり、ヴァイスがチラリと見た方向から大量の反応がこちらに向かって来ているのを察知した。おそらくその全部もしくは大半がアンドロイド兵だろう。


僕らの存在を察知し、戦力を此方にも投入してきたみたいだ。本来戦力の分散は悪手のはずだけど、向こうもそこら辺を考える余裕は無いのかもしれない。


仮にヴァイスの言を無視して先に進むにしても、まずはこのアンドロイド兵の集団を何とかしないといけないか。



「まずはアレらを全部破壊しましょう、私の妹達に鬱陶しくちょっかいを出されるのは不快だもの。話はその後よ。」


どこか楽しそうに言いながら、ヴァイスは白い翼を広げて戦闘態勢に入った。そうだね、考えるのは一先ず後でいいか。


ヴァイスに倣い、僕とイグニスも臨戦態勢になる。

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