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アリスプロジェクト:RE  作者: 黒衣エネ
第二章:拡散/白昼/自我
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捜索と決断

ヒトによっては己の全てを賭けた決断であっても、かのモノにとっては一つの手段に過ぎない。それはある種の冒涜ではなかろうか。

教授から話を聞いて1週間、俺は何の手掛かりも得られずにいた。

あのサイボーグの少女『アリス』の足取りも以降は掴めず、姉を名乗る超兵器『ヴァイス』ともあれ以降は会っていないし、今何処に居るのかも見当つかない。


教授の言っていた『復讐者アヴェンジャー』も、それらしき人物を見つける事は出来ていない。



ただし『復讐者アヴェンジャー』の『痕跡』は残っている、今週また殺人事件が起こったからだ。


今回も表向きには何も関係無い人が殺害されている。ただ『裕福な』だとか『権力者』だとかで関連性を見出すほど人々は愚かではなく、ニュースでも他の事件との関連は絡めず、治安の悪化そのものが原因で、それを憂うコメントが残されていた。


当然だ、この事件の関連は表に出ない所にある。お茶の間で『遺体の損壊度合い』なんてものを報道出来る訳が無い、お茶の間が凍り付くわ。



調べてかき集めた情報を統合するとやはり今回も、それは凄惨な状態だったらしい。切れ味の鈍い刃物で強引に引き千切られて二つにされていたと言う。と言うか、身も蓋も無く行ってしまえばチェーンソーかそれに類する道具で解体されてるらしい。


更に犯人は一思いに引き裂いたのではなく、致命傷となった部分(最後の両断)は念入りに中身がぐちゃぐちゃになるようにじっくり刃にかけていたとか。スプラッター映画か何かか?


そう言うのに対して何も感じない俺(改造されたからか、元からなのかはわからないが)だが、ここまで悲惨だと流石に鼻につく。



これまでで件の『復讐者アヴェンジャー』が洒落にならないレベルの残虐性の持ち主だってことは理解出来た。この有様なら恐らく正気でもないだろう。


問題はここまで派手にやっておきながら『そう言う噂』が立つ程度しか足取りが掴めないのは何故だ?


損壊した遺体と言う特大の痕跡を残しておきながら、容疑者すら上がってないと言う。目撃者も居るがそれも『人影を見た』程度だ。その目撃情報から犯人は小柄だと推定されているが、性別も分からない程度の目撃情報では正確さはたかが知れている。


実物が自分の目算より大きかったり小さかったりするのは、よくある事だ。


ともかく、つまりこの殺人鬼は正気じゃないレベルの残虐性と自分の痕跡をぼかして追えなくする程度の頭脳を持ってて、それを実行できるだけの理性がある馬鹿力のサイボーグって訳だ。


どう見ても危険だろ、コレ。





「やれやれ、出来れば避けたい手段だったがな。」


『僕は賛成しかねる手段なんだけど。君自身が今どう見ても危険なやつって結論出したじゃないか。』


耳に入れたイヤホン、そこから伸びるコードを介してスマホで通話する真がそんなふうにぼやく。そう言うな、俺とて好んで危険を冒したいワケじゃない。



「俺は『復讐者アヴェンジャー』に直接接触してみようと思う。」


被害者の遺体以外は大した痕跡も残さず、その姿を晦ましている『復讐者アヴェンジャー』に直接接触など出来るのだろうか?


確かに張り込んだり居そうな場所を巡回しても望んだ結果は得られないだろう。だが俺は一つだけ有効な方法を思いついた。それに必要な手段も、既に整えてある。


『復讐者に依頼を出すんだね?でもそれだけじゃ会えるとは限らないんじゃないかな?』



他でもない『復讐者アヴェンジャー』に俺が復讐の依頼を出すと言うものだ。そして、その手順は既に調べてある。


それはごく僅かな情報だった。通常のWebサイト(所謂サーフィスウェブ)の巨大掲示板サイトや動画サイトに断片的かつ巧妙に隠されたメッセージを読み解けば一般人は立ち入らない『ダークウェブ』へと誘導される。更にそこで幾つかの手順を踏むことで『復讐者アヴェンジャー』本人の所有するサイトにアクセスが可能となる。後はここから依頼を出すだけだ。


ダークウェブの閲覧に使用されたりする『Torブラウザ』は、匿名性の高い『.onionドメイン』のサイトにアクセス出来るブラウザだ。更にアクセス方法を様々な方法で断片にして隠すことで、自身がどんな人物で何処に居るのかを隠蔽しているのだろう。


そして、これらの手順を踏んで依頼を出す時点で、依頼者は相当な執念で挑んでいる。俺が内蔵されたコンピューターをフルで動員してようやく突破したアクセス方法だ、軍用新兵器として改造された俺の内蔵された超高性能のコンピューターをな。


これを生身の人間がやろうだなんて、それこそ正気の沙汰じゃない。ある意味これを乗り越えることが『復讐者アヴェンジャー』の信頼を得ることになるのだろう。



『これ程にまで復讐を求めていると』な。



「…方法は一つ、その復讐対象を『俺』にしたらいい。それなら確実に会える。」


通話の先で真が息を呑む。だろうな、予想出来た反応だ。



手順をクリアして依頼した以上、相手は必ず実行するだろう。それなら絶対に会える、まぁ当然相手は殺しに来るだろうから、それを上手くいなして話す席に着かせる必要はあるが。


『…それを、僕や教授が止めないとでも?』


「どの道避けては通れない事だ、その何者かがサイボーグならな。」


それに『サイボーグ』が暴れてたら連鎖的に俺やあのアリスとか言う少女の正体も露見するかもしれない。サイボーグだと分かった時点で、いずれは避けてはいられない相手だ。最終的にどうなるにしても。



『…怖くないの?』


真が震える声で尋ねる。怖い、か。


殺人鬼との接触、それどころか交戦の可能性が高い。確かに普通ならこんな事するのは自殺志願してるようなもんだ。


「それが最適解なら。お前の気持ちは分からなくも…いや、恐らく分かっていないんだろうな俺は。」


それがサイボーグだ、必要な事を淡々と処理出来る存在。リスクを計算しその上で最適な行動を躊躇い無く実行出来る。その殺人鬼との交戦可能性を考慮し、己の勝率を計算し、損害を算出した上で出した判断だ。


そこに『人間らしい感情』は入っていない。だから真の心配など、俺は理解出来ていないのだろう。



成程、実感が湧かなかったがこの事態になって初めて確認出来た。人間らしい感覚の喪失、デジタルな割り切り過ぎた判断。


俺も人外サイボーグなんだとな。

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