表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリスプロジェクト:RE  作者: 黒衣エネ
第二章:拡散/白昼/自我
36/41

恩讐の彼方より

骸同然の我が身体を突き動かすは憎悪


砕け折れた我が精神こころを燃やすは復讐



虐げられた者はその恨みを決して忘れる事はない、忘れた頃にその憎しみの刃は汝の首を引き裂かん




「バケモノかぁ。夏美、貴女の言う事は正しいよ。」


夏美と買い物をしたり、ゲームセンターで遊んだり、甘いものを食べたり。

そうした事をしていると、自分がまだ普通の女子高生だと錯覚出来た。


でも、夢は何時か醒めるもの。



「一体何が起こっていると言うのだ?あんな噂話、それが本当だったとでもいうのか?」


狼狽する男の声が、私を現実に引き戻す。


ボクの機械仕掛けの目は、明かりの無い夜の闇の中でも、その姿を正確に捉える。


スーツ姿の60歳台の男、渡辺何とかって名前のそれはボクの標的ターゲットだ。


確か投資家かつどこぞの企業の重役とか言ったが、まぁボクにとってそんなデータはどうでもいい。



ただ目の前の男が復讐依頼の標的であることと、『ボクがこんなふうになった原因』の一つって事実だけあれば十分。



「逃げないでよ、手間が増えるから。」


黒いフード付きの外套は自分の顔を隠す為、胸元の谷間や臍を出した大胆で露出の多いこの装甲服は、醜い手術痕と身体に張り付いた金属パーツにまみれたこの悍ましい身体を見せつける為。


お前たちのせいでボクはこうなったんだと。



「お前、沢山の恨みを買ってたみたいだねぇ。だからこうしてボクが来たのさ、お前を殺したい人がそれだけ居たってね。」


「き、貴様が『復讐者アヴェンジャー』だと…」


「正解、そんな都市伝説よく知ってるねぇ。」


背中に背負った得物を抜きながら、ボクは怯えた顔の男を嘲笑う。

チェーンソーを大剣にしたような、悍ましい武器というにはあまりに大雑把で無情なシロモノ。


「お前とその会社が義体開発に資金提供をしてるって最近知ったんだよね。勿論、それが極秘サイボーグ開発に流用されてるのも承知で。知ってなお私腹を肥やす為に黙認して甘い汁を吸ってたんだろ?」


「まさか、貴様の正体は…」


「そうだよ、投資の成果を見た感想はどうかな?」


そう、身体を好き放題弄ばれてサイボーグに改造されたのがボクだ。

醜い縫合痕だらけで、機械や金属部が剥き出しの部分もある、悍ましい身体にされた、ね。



「ま、待ってくれ!私とてそんな無差別に、しかもこんなことになるなんて思わなかったんだ!せめてもの保障に望む額を支払おう!私だって政府に利用された被害者なんだ!」


成程、確かに言い分は分かる。


知らなかったで済まされない事だけど、ここまで国がするとは思ってなかったってのもまぁ話は通る。



でもね、


「嘘、だよね?」


「は?」


「だってさ、お前は見返りに自分に従順な私兵用サイボーグを受け取る予定だったんだろ?自分好みの個体を専用にチューンしてさ。」


「そ、そんなことは無い!それに証拠も無いじゃないか!」


焦ったようなリアクションは置いといても、これは確定情報だ。何故なら…



「『ボクが元々納品予定だった内の1体だから』ね、分かるんだわ。」


お前がそう求めたせいで、ボクはこんな姿になった。理不尽で下劣な欲望でボクの人としての生を踏みにじった、お前好みの見た目って理由で改造されて、お前好みに外見すら弄られた(カスタムされた)。



青ざめる男、逃げようと周囲を見回して、それが叶わない事を悟り絶望をその顔に浮かべる。


当然だ、逃がしはしない。何の為にこんな路地裏まで追い込んだんだと思ってるのか。



「ま、待ってくれ!謝罪をしよう!望む額の慰謝料も払う!だから早まるな!」


…愚かだね。権力を力を持っているって勘違いして、あまつさえ命乞い?



「もういい、お前とこれ以上話す事なんて無いから死ね。」





***************




返り血が、自分の身体を濡らし、更に穢してゆくのを感じる。両の眼は黒く濁り、光を失っているのを自覚する。



目の前には2つの肉塊が転がっていた。

斜めに裂かれた人間の胴体、それは先程まで生きてた男。


ボクに多くの人より『殺して欲しい』と依頼を受けたその男、そしてボクが改造された原因一つ。サイボーグとか言う人を殺す為の兵器にだ。





「ふふふ、あはっ、あははははははは」


ヒトを殺しても何とも思わない。文字通り、身も心もバケモノになったみたいだ。そう思うと身の内を這うような感触が体中を駆け巡り、金属が擦れる音のような笑いが零れた。



脳内に埋め込まれたコンピューターは如何にその男を無残に『解体』するか、その方法を直ぐに示した。ボクは男が悲鳴を上げてのたうち回っても、僅かにも動揺しなかった。


…ただの女子高生だったはずのボクの身体は、容易く人間を引き裂ける異常なモノになっていた。



じわりと、主に金属で造られた紛い物の臓腑を詰め込まれた胸に灼熱感を覚える。実際に熱を帯びている訳ではない。そんなものはただの幻痛だ。


その熱の正体はボクの『強い怒り』『恨み』『苦痛』、そして『憎悪』。


こんな身体にされた事への底知れない憎悪がこの胸を焼き続け、残った心のようなものを蝕み続ける。


憎い、憎い、こんな醜い身体にされたことが、改造されてもう普通の高校生で居られなくされたことが、そして友人にそれを隠して今でも接している自分自身も全てが憎い。



『絵美』なんて名前は、ボクだったものの名前だ。ボクは『それ』が憎悪で燃え、そしてその欠片が燃えカスとして僅かに残った残骸に過ぎない。




我は復讐者アヴェンジャー


この苦痛と怨嗟を吐き出す場所を求めて走り続けるもの、恩讐の彼方へと征くもの。


憎悪の果てに一切を焼き尽くし、やがて自身すらも燃やし尽くし灰になるもの、その果てに自滅するまで駆け続けるもの。




自分をこんな姿にした原因に復讐し、殺しても構わないような恨みを買ってる者を殺し、壊れた心から湧き続ける憎悪を吐き出す。


それでも、幾ら殺しても復讐しても、憎悪は無くならない。



いや、もう消えることは無い。


ボクが死ぬまで、この憎悪は消えない。抑えられない。このまま自分まで燃やし尽くして自滅するまで死ぬまで煉獄を歩み続けなければならない。



…許さない。


絶対に許さない。ボクをこんなバケモノにした奴ら、そしてそれに関わったもの全てを。


ボクが死ぬまで、報復してやる。




「ねぇ夏美、こんな汚れたボクを君が見たら何て言うのかな?隣に居たのは『絵美の残骸』だって、知ったら君は…」


跳躍してビルの屋上へと飛び乗り、地上を見下ろす。程無く、悲鳴を聞きつけた警察が男の死体を発見し、遠くから警察車両のサイレンの音が聞こえ始める。


そろそろここも騒がしくなるだろう。



そんな騒ぎすらもどうでもよく、ボクは屋上の壁に背を預けあの時一緒に遊んだ夏美の事を想う。


夏美と居た少しの間だけ、ボクは普通に戻れた気がした。少しの間だけボクは憎悪から離れる事が出来た。だからあの時誘ってくれたのが嬉しかった。



でも、いずれはそんな関係は終わる。本来ならもうこんな姿になったボクは夏美と関わるべきじゃない。


それが出来ないのは、ボクの未練に他ならない。友達と、離れたくない。



夏美の友達は化物ぼくじゃなくて絵美かのじょなのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ