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アリスプロジェクト:RE  作者: 黒衣エネ
第二章:拡散/白昼/自我
34/41

幾重

そして、時は重なる

夜を朱に染める炎、断続的に聞こえる破壊音、そして救急車のサイレン。


俺の住む街は一瞬で戦場のような有様になった。



一体、何が起こっている?


家の外に出た俺の眼に飛び込んで来たのが、この現実を疑うような光景だ。あちこちから火の手が上がり、まだ断続的に爆発音が鳴っている。


それだけじゃない、俺のレーダーとセンサーが感知しているこれは…


「この反応はあの時の。」


人型でありながら人間じゃないもの、あの時俺に襲撃を仕掛けて来たアンドロイド兵器だ。位置はばらけているが、その数は8体。


しかも、その反応の中にはアンドロイドと行動を共にする生体反応もある。パターンからして、こちらも人型に間違い無い。



「いや、今俺が気にすべきことはそうじゃない!」


気にはなるが、今の俺にとってそれは最優先事項ではない。今俺がやらないといけない事は、真と高橋教授の安全確保だ。


スマホは繋がらない。当然だ、今頃多くの人々が救急や警察に助けを求める電話をしているだろう。もしくは大切な人の安否確認の為に電話を続けているだろう。

それなら今頃回線はパンク状態だ。



「一番確実なのは、研究室だな。」


高橋教授は研究室で寝泊まりする事も珍しくないし、今事件が起こっているここからは離れている。実質高橋教授の助手でもある真もまだ研究室にいるかもしれないし、何なら真も高橋教授を心配して向かっているかもしれない。


やるべきことは決まった、一刻も早く教授の研究室がある大学に向かわねば。




***********************



「ああ、まさに地獄のような光景だね、悪意で身体を弄ばれたヒト同志が傷つけ合う。」


夜を朱く染める炎、人間の悪意が生んだ悪性、文字通り『悪夢のような』光景。しかもその『舞台』に上がるのが傷付けられた者同士となれば、これを人間の業が生んだ災禍と呼ばずにいられるだろうか。



外套マントで手術痕だらけの醜い身体を隠し、見られたくない顔を隠す為にフードを目深に被り、ボクはビルから地上を見回す。



逃げ惑う人々が居た、ボクはそれを助けることが出来るだろうが、手を差し伸べたりしない。

これがヒトの悪性が生んだ災害ならば、それは人間のみで『乗り越えるべき』問題だ。


絡繰りの兵を率いて戦う者が居たが、ボクはそれを止める事はしない。

それは『彼女の戦い』だ、その誇りある戦いにボクに入り込む余地など無い。


立ち向かう少女たちが居たが、ボクは手助けしたりしない。

ボクのような穢れが、彼女たちと共に居るなど、烏滸がましい。



ボクがやる事は変わらない。


今この瞬間、この悪夢の中でも居る人間あく



肥やした私腹を手放すまいと他人を犠牲に財を守ることばかり考える富豪もの


地位ある人間にも関わらず、我先に逃げる役人もの


災害に乗じて悪事を働こうとする犯罪者もの


この悲劇に乗じてその心に付け込もうとする詐欺師もの


この状況にほくそ笑む、全ての元凶である科学者もの



誰一人、悪夢ここから出しはしない、お前達の悪意が生んだ悪夢を自分達で清算するまでは。その発端がヒトの悪意だと解するまでは。





「彼女は…」


また一人、眼下を駆けて行く少女が居た。


その真剣な眼差しは、大切な人を守る為に征く者の眼。



声をかけたりはしない、ボクなんかに気を取られて、その歩みを遅らせる訳にはいかない。



走るがいい、その先に幸ある事を願う。



***********************




「ん?」


今、誰か居たか?


前にもこんな事が有ったような気がする。何者かの気配を感じたが、その時は見た方には誰も居なかった。


気配がした方角、マンションの屋上を見たがそこに人影は無い。


気のせいだったのか、既に立ち去ったのかはわからないが、今は後回しで良いだろう。




「ここまでは流石に被害は無いか。」


到着した大学には、既に非難して来た人々がちらほら見える。


確かにここなら、設備は揃ってるし、水や食料もある。敷地も広いし、万が一の避難先には適しているだろう。



大学の敷地の奥へと進み、教授の研究室がある建物の中へと入り、階段を上る。


流石にエレベーターは停止していたが、建物内には明かりが灯っており、人の姿も幾らかある。成程、俺と似たような考えの人々はそれなりに居たようだ


これなら…




「教授、真、無事か?」


「ああ、やはりこっちに来てくれたか。」


研究室に入ると、やはり高橋教授も真も居た。教授はコーヒーを片手にパソコンを弄り情報収集の途中で、俺が来ることを疑っていなかったようだ。


「ツー、怪我は無かった?」


「俺よりお前は大丈夫だったのか?」


真が俺にそんな心配をするが、どちらかと言えばその心配をしていたのは俺の方だ。俺と違って真は生身の人間なんだからな。



「大丈夫だよ、でもこの騒ぎは一体何なんだろう…」


「それに関してはツー、君の方が察しはついているんじゃないかな?」


高橋教授の言う通りだな、これは普通の事件じゃないことは確実だ。何せ俺はアンドロイドの存在をレーダーとセンサーで確認している。



「ああ、何者かが複数のアンドロイド兵器を率いてこの事件を引き起こしたみたいだな。目的は不明だが、どうやらターゲットは俺ではないらしい。」


「ほう、君を回収しに強硬策に出た訳ではないんだね?」


「ああ、俺に追っ手はかからなかった。と言うより、レーダーで動きを見る限り俺は眼中に無かった。恐らく例のサイボーグ『アリス』を追っていたんじゃないか?」


直接アンドロイドの姿を目視した訳では無いが、レーダーに映るアンドロイドの行動は、明らかに何者かを追いかけている感じがした。そして、追われている生体反応も確認している。


俺にも追手が来なかった辺り、出せる戦力に限界があったのか、はたまた俺は大して優先度が高くない案件なのか。



「まぁ、どの道今夜はここから動かない方が良いだろうね。私は今日も研究室に泊まる予定だったが、ツーも真もここで待機するといい。」


「だな、俺が警戒を続けておくから二人は仮眠をとっても構わない。」


俺は別に睡眠の必要は薄いしな。



「そうだね、僕は少し仮眠を取らせてもらうよ。騒ぎで跳び起きて来たから、少し安心したら眠気が…」


「奥の私の仮眠用の折り畳みベットを使っても良いぞ?」


「いえ、そこのソファーで良いです。」


流石に異性のベットをそう軽々とは使わないだろう。教授の性格からして茶化した訳ではなく、素で言ってそうだがな。


真も真でこの状況で眠気を感じる辺り、割と神経が図太いのか。それとも、ある意味俺と言う非日常に触れ過ぎたせいで慣れてしまったのか。


その感覚はあまり良いとは言えないな、非日常に慣れ切ってしまうのは良くない。




「ツー、君はこの件でサイボーグやアンドロイドの件が露見すると思うかい?」


真が仮眠に向かったのを見届けてから、高橋教授が言う。そうだな…


「まず無いな、最初の爆発音や放火は周囲の人々を驚かせ逃げさせることで人払いをしたかったんだろう、目撃者を無くす為にな。何者かの襲撃が成功したにせよ失敗したにせよ、もみ消すつもりだろう。」


そして、それが出来ると言う事はバックには国かそれに比肩する組織が付いていると見て良い。


「だが、俺は騒ぎが収束したら現場に行って調査をしてみようと思う。」


「つまり、君は決着は夜明けまでに着くと思っているのだね?」


「ああ、時間をかける程、事態の詳細が露見するリスクが増える。特に夜が明けるとな。」






しかし、俺の警戒とは裏腹にこちらに来るような外敵の姿は無かった。遠方で散発的な騒音と小さな振動が時折伝わって来るだけだ。


微かに発砲音も聞こえた以上、ロクでもない事が起こっていたのは間違いなさそうだけどな。

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