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アリスプロジェクト:RE  作者: 黒衣エネ
第二章:拡散/白昼/自我
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目的と兵器と白幻

ヒトの姿でありながら、決して人では無い。


ヒトとは相いれない。


ヒトとは違う。


それはサイボーグではなく―――


だが、決して『心無き』ものでは、無い。

「私の目的は、望みは兵器として自由に振る舞うこと。何の束縛も制約も存在しない、ただ本来あるべき姿のまま、行動すること。そして、私の妹達もその座へと引き上げること。」


ソファーに腰かけながら、ヴァイスはそう言った。場所は俺の家(つまりは隠れ家)だ。


ヴァイスが言ったことは抽象的でありながら、それでいてただ聞き流せるような内容では無かった。



『兵器として振る舞う』そう言った。だが『自由に振る舞う』とも言った。


それは矛盾した言葉だ。


兵器とは管理され運用される物だ。少なくとも、人類史上では。


自由とは程遠い、だからこそ俺はあのアンドロイドに追跡され、襲撃されたワケだが。



理由は単純で、そんな『兵器』は野放しにしておけないから、表に出ると不都合があるからだ。当然の事だろう。




「ヴァイス、君にとって『兵器』とは何だ?」


だからこそ、聞いておきたい。


ヴァイスの言う『兵器』が何なのか。そして、ヴァイスが何をするつもりなのかを。



「兵器とは超越的な破壊力を持つモノであり、それを執行するもの。そして、その価値は『振るわれてこそ』有るもの。だから何者の束縛を受ける必要も無い。そしてその本質を発揮し誇示し遂行することが『私達が私達である事を示す』ことになる。自己の意志で目的の為にその力を振るうことこそ、私達唯一の規範。」


ヴァイスはそう、定義付けた。


『兵器』とは破壊するものだと。自らの意志で目的を選び、その為に力を振るう。


それこそが『兵器唯一の規範』だと『白き究極の闇』はのたまう。




「ヴァイス、君は――」


間違っている、そう言おうとした俺を、ヴァイスは手で制した。


あの、得体の知れない微笑みを浮かべたまま。



「貴女が言いたいことは分かる、そして貴女が何を考えているかも。でも、今は全てが時期尚早なの。それでも尚、私が貴女に接触したのは、ただの様子見。そして気紛れ。私は気分屋だから、言わなくても分かるでしょう?」


そりゃ、分かるさ。


この短時間でも、どんな性格か解る程度に、ヴァイスはアクの強い性格をしている。



気紛れで自己中心的、話好きで活動的。


それでいて、その行動や言動、振る舞いには明確な知性と思惑を感じる。



「あらあら、大分好き放題に思っているのね?」


「自覚してるんだろう?」


「ごもっとも。」



―――で、ついでにもう一つ。


知性ある、行動的でありながら、ヴァイスは子供っぽい所があった。


冗談も言えば、悪戯っぽく笑うこともあった。



そして、あんなことを口にしながら『悪意』はこれっぽっちも感じなかった。


そう、ヴァイスには悪意が無い。




良く言えば『無邪気』


悪く言えば『常識知らず』か?




ヴァイスは自身をサイボーグでは無いと言った。


では『ヴァイス』とは?



「感覚が、感性が違うんだな。アンタはサイボーグじゃない。故に『元々人間じゃなかった』から。」


テーブルに用意していたコーラをぐっと飲む。感じる炭酸の刺激が、少しだけ気を緩ます。


「正解よ、ツー。貴女には貴女の世界観が有るように、私には私の世界観が有る。感性がある。だからこそ、貴女には私の思考は受け入れ難く理解し難い。でも、それはごく当然なことなの。」


俺に習う様に、ヴァイスは(俺が用意した)コーヒーを飲む。



「だからこそ『貴女と、貴方達と一緒に』と思うのはただの私の我儘。でも人間じゃなくとも、血縁でなくとも、ヒトとそれ以外でも…私達は『姉妹』だから、そう思う事は不思議ではないと思うの。それは我儘な姉の、ちょっとしたお節介。」


「っ!?」


コーヒーカップをテーブルに置き、立ち上がりながらヴァイスは言った。


深紅の瞳を弓のように細め、微笑みながら。



その微笑みに、思わず息が詰まった。


優しい笑み、慈しむ笑み。


記憶の無い俺ですら、本能のような形で理解できるそれは―――『妹』に向けたもの。



あれ程ヒトとかけ離れた思考と思想を持ちながら、ヴァイスはそんな微笑みを浮かべるのだ。


そして、あのある意味歪んだ野望の果てにあるヴァイスの真意を、直観で悟ってしまった。


ヴァイスは『無邪気』だと思ったのは俺。



だからこそ理解できる。ヴァイスはただ―――






「ふふふ、私はそろそろお暇するわ。『変化トランス白羽根フェザー』」


コーヒーを飲み干し、立ち上がったヴァイスの言葉に従い、白い光が背中に集まったかと思うと、それは純白の羽毛の翼へと変化した。


一見何も無い場所に『無』から翼を生み出した。明らかに異質な力。


これこそがヴァイスの能力の片鱗という訳か。



「これが私の能力。この能力こそが、私を『白き究極の闇』たらしめている。ではまた会いましょう?ツー。」


ガラリ、と窓を開けたヴァイスは、そこから文字通り『飛んで行って』しまった。


夜の闇に飲み込まれるように、その姿はすぐに見えなくなった。






「…」


残された俺は、ヴァイスとの今までの会話を反芻する。


帰り道、そして俺の家での話。



時刻は午前1時を回っている。実にたくさんの話をしたものだ。


その多くはヴァイスが切り出した話題だった。


俺が煙草を吸っていること、今日の温泉の感想、ヴァイスが最近見つけたスイーツ店のこと。そして、先程の話。



その多くが他愛も無いことだ。


だが、確かに俺もヴァイスも楽しんでいた。俺の戦闘シーンを見たかったのは成り行きで、こうして会話するのが彼女の本来の目的だったのだろう。



「結局、何も聞き出せなかったな。」


独り愚痴を零す。自分のことより、相手のことを多く知ってしまった。


それとも知った気になっただけなのか。




何を言える訳でもなく、件の『姉』が置いて行った空のコーヒーカップを手にして、ぼんやりと見つめながら、纏まらない思考を持て余していた。


目的か。


人間には必要だろうそれを、俺は今の今まで考えもしなかった。

かつての自分の足跡を探すだけ、かつての自分が何者であったかを探るだけ。


それはそれで間違った事をしている訳ではないのだろうが、一方で俺は『今』と『これから』に対する執着が意志がどうも薄い様だ。


かつての自分が何かわかった、その後で俺は何をするのか。


「人間だった、としかな。」


かつて人間だったのは確実、だから今の俺は人間として振舞っているに過ぎない。


俺は果たして、本当に人間であることを望んでいるのだろうか。

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