エピローグ
忘れてはならない事がある。
海のよく見える丘、シクススの亡骸はこの場所に埋葬した、シクススが好きだった場所だ、よくここで鳥たちと戯れていたものだ。
「あの子は存分に戦ったのね、クレイス。」
背後から私の名を呼ぶ声。
そこにはアルビノの容姿の少女(の姿をした何か)、ヴァイスが立っていた。
「この結末が正しかったのかは私にもわからぬ。シクススの意志を無視してでも助けるべきだったのかもしれんし、あの時躊躇無くイグニス達を始末すべきだったのかもしれん。」
「でも貴女はそれを選ばなかった、合理的手段を取らなかった。」
「ああ、シクススがそれを望まないだろうからな。それに、本来イグニスやアリスやその乗り手達と敵対するというのは、不本意ではある。」
「立場故に、かしら。兵器が立場を、ねぇ?」
「ジャクソンの想いを遂げるためには今の地位は利用価値があるからな。」
くすくすと笑うヴァイスに言う。そう、あの大馬鹿者の想いの為にな。
「ええ、ええ。貴女のそういう思いが良いモノだわ。クレイス、貴女は今『自分が思うがままにその力を振るおうと』している。それこそが、我ら兵器があるべき姿。我々の唯一の規範。」
「軍人としては失格であろうよ。」
そうさな、あの男の想いの為。平和を願い、無辜の民を戦いから遠ざけ、痛みは戦う者と指揮官だけが背負えば良いと言う思想。その為に戦える『我らサイボーグ』。ジャクソンは我ら兵器がそうあれることを信じ願った。
我らにも生み出された意味があるとするならば、そうでありたい。
「例え人の歴史が戦いの歴史でも?」
「形が変わるだけだ、これより先は我らが代わりにその歴史を紡ごう。」
人が戦いを避けれぬ生き物ならば、我らがそれを引き受けよう。それが我々に出来る事ならば。
されど我らは『人であったこと』までは否定しない、手放しはしない。それさえ捨て去ってしまえば我らはただの機械だ、殺す為だけのな。
ジャクソンの想いも無く、己が信念も無く、人として抱く当然の感情さえ捨てた先に何がある?生身を捨て日常を捨てた我らには『それしか』無いと言うのに。
だから私は、あそこで『敢えて間違いを選んだ』。
間違いとは正しくない道を選ぶ事だ。私の行いは目的から我らを遠ざけよう。
それでも、忘れてはならない事がある。そうだろう?
なあジャクソンよ、かつての私が愛した大馬鹿者よ。
『わたしの乗り手よ』
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街は一瞬で被災地さながらの状態になった。復興には時間がかかるだろう。
幸い、俺の家や夏美の家はほぼ被害を受けて無い。住む場所には困らないだろう。
学校は早めの夏休みに突入した。まぁ学校は被害を受けたからな、夏休み中に修復が終わる程度ではあるだろうが、まぁこの状況で授業なんてやってる場合ではないだろう。
「もうこんな無茶はしないで!いい!?」
夏美はベッドで横になるイグニスに説教をしていた。
まだ本調子ではないようだが、表面の傷は割と塞がっている。これがイグニスが行っていた体内のナノマシンの効力なのだろうか。
「…やれやれ、サイボーグの感覚で戦ってたらずっと怒られそうね。わかったわ、こういうことは自重するから。」
イグニスは苦笑しながらそう答えた。
「だって…あたし、心配したんだから…!」
イグニスを抱きしめて涙を流す夏美。あの状態のイグニスを見ていた以上、夏美の性格なら本心から心配しただろう。
「会ってそんな経ってない奴にここまでね。ごめんって…『あたしの乗り手』。」
「え…?」
今イグニスは夏美を『乗り手』って。
その意味を、俺は『あの白い少女の姿をした何か』から聞いている。その話を、勿論俺は夏美や有栖にもしている。
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兵器とは究極の破壊を齎すものであり、その意義とはその力を思うがままに振るうことにある。でも最強の兵器たる私に最も近いアリス達サイボーグは、兵器としてはあまりに無垢で幼かった。まだ何も知らないし、何もわからない。だからこそ、そんな彼女たちを導く『乗り手』が彼女達には必要。本能的に、彼女たちもそれを欲してる。
―――――――――
驚く夏美にイグニスは悪戯っぽく笑いかける。
「当然よ、あたしにそう言う文句付けるならね。これからもあたしを『導いて』ね?」
「…うん!」
「これで二人とも『乗り手』を見つけられたようだね。」
「俺は有栖のか?」
「そこは当然だと思うよ。まぁ、問題はこれからだけどね。」
一時の危機は去った。
だが、だが!
新たな謎、ジャクソン中将の意志とは。そしてヴァイスの意図とは。
新たなサイボーグ、クレイスやあの時見たタンクトップの少女の正体は。
そして、あのクリストフってヤツの背後に居るだろう、俺達の本当の敵は。
まだ、終わっていない。これからが始まりだろう。
次なる死闘への。




