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アリスプロジェクト:RE  作者: 黒衣エネ
第一章:起動/黎明/標
23/41

アリス・セッション:終

人間の歴史は戦いの歴史。人は本来、戦う為のデザインとプログラムをされている。我らサイボーグは、その果てに過ぎない。



「2人とも!建物の陰に隠れてて!」


イグニスの鋭い声と同じタイミングで垂直離着陸機『テンペスト』の機関砲が火を噴く。


アスファルトを容易く破砕し、地面を抉る弾丸を、有栖とイグニスは左右に分かれて走り、路地裏へと逃げ込む。2人が狙われている間に俺と夏美も建物裏へと隠れる。

多少でも安全確保の為、夏美を奥へと行かせて、俺だけ少し身を出し、大通りを覗き込む。


垂直離着陸機でも、流石に狭い路地裏には侵入は出来ない。



と思いながら浮遊する『テンペスト』を眺めていたが、その後部が変形を始めた事で、相手が引っ張り出してきた秘密兵器を甘く見ていた事を思い知らされた。


そこに現れたのは四角い箱のような物が左右に2つ。その一面には小さな穴が複数開いている。


そしてその穴から上空に向かって次々に超小型ミサイルが射出され、こちらに目掛けてすっ飛んできた。

小型の追尾ミサイルだ。


こちらを炙り出す為に、次々に小型ミサイルが有栖とイグニスが隠れて行った路地へと着弾し爆発する。建物にも着弾し直ぐに発火し炎上、脆い部分から崩れ始める。



煙が立ち上り視界の悪くなった路地から有栖が飛び出し、大型拳銃を『テンペスト』に向かって連射する。

強固な装甲のアンドロイドにも通用する桁外れの威力を持つ有栖の大型拳銃だが『テンペスト』に数発命中しても乾いた音と共に僅かな傷が付いただけでさしたダメージにはならない。


「やっぱりこれじゃダメか、直接飛びついて近接攻撃を仕掛けないと、今の遠距離武装ではアレにダメージが通らない。」


反撃に撃ち返された機関砲を横に連続ステップしながら回避しながら言う。



「アリス!これを!」


その時、炎上し崩れかけた建物の陰から、イグニスが飛び出す。背中のアームで持っているのは、先程シクススが投げ捨てた軽機関銃だ。


イグニスから投げ渡されたそれを片手でキャッチすると、有栖は再び『テンペスト』と対峙する。拳銃よりも威力の高い機関銃なら、なんとかこの距離でもダメージが通るかもしれない。


それは相手も分かっているのだろうか、『テンペスト』に乗るシクススは対峙する有栖に再び機関砲を斉射する。

アスファルトを容易く破砕する弾丸だ、幾ら有栖でも直撃は避けた方が良さそうだ。


有栖は右に細かくステップするように弾丸を避け、片腕で軽機関銃を連射する。距離の問題もあり、数十撃って命中したのは数発だが、拳銃とは違って貫通こそしなかったものの命中箇所の装甲が剥げ、少し窪む。

ダメージが通った。


これなら…



「駄目だ。」


しかし有栖は首を振りながら言う。一体どうして…


「これの残り弾数は約50発程度だ。今の命中精度とダメージを見れば、これだけじゃ足りない。」


シクススが放棄した時にはもう残りの弾が少なかったらしい。或いは放棄したのはそれを(利用されても大した脅威にならないのを)見越してだったのだろうか。



「気は確か!?あんたは『サイボーグ』でしょ!」


「まつりちゃん!?」


どうすれば、となっていた俺達の(或いは有栖もか)思考に喝を入れるように叫ぶのはイグニスだ。


『サイボーグ』がどうしたって?



「…成程ね、馬鹿正直に『撃つ』必要は無いってことか。」


反撃の小型ミサイルを軽機関銃で撃ち落とすと有栖はポツリと言う。軽機関銃は銃口から煙を吐きながら沈黙、弾切れだ。追撃の機関砲による斉射を、2人は別の建物の裏へと退避する事でやり過ごす。


ここから有栖とイグニスは一体何をしようとしているのだろうか。



「そういうことよ。あたしが隙を作るから、お願いね。」


「わかってる。坂本君も夏美も、必ず護る。」


「そうね。あたしにはもしかしたらここまでする義理は無いのかもしれないけどさ『こんなあたしの事を好いてくれる』子がいたんじゃさ、やんないとカッコが付かないじゃん。」


そう言ってイグニスは夏美を見て微笑んだ。


「まつりちゃん…」



複雑な表情の夏美を尻目に、イグニスはシクススが先程放棄した盾を手に建物裏から飛び出す。明らかに囮になるような動きだ。


当然シクススはイグニスの動きを読んでいたかのように既に小型追尾ミサイルを射出していた。

マズい、イグニスは手にした盾で攻撃を防ごうとしてるんだろうけど、流石にあの数(しかも爆発を伴う)ミサイルは防ぎきれない。


「舐めないで。」


イグニスはクローアームを伸ばし、周囲の車のボンネットやガードレールやマンホールの蓋を強引に引き抜き、それを盾のように構え、ミサイルによる攻撃を迎え撃つ。


断続的に炸裂音が響き、煙が立ち上るが、その中にはやや煤で汚れ、ボディスーツは更にダメージが入って所々裂けてはいるものの、健在なイグニスが立っている。

シクススの盾を含む防御に使った物は大破したようだが、なんとか防ぎ切ったようだ。



『では次の武装であります。』


しかし、それを防がれてもシクススは動じない。


その根拠を示すように、今度は機体下部のハッチが開き、短めの筒が外へとせり出す。その中にあるのは、今まで放っていた物より、明らかに大きなミサイル。


こっちが本命のミサイルランチャーって訳か…!



「っ!?」


射出されたソレを見てイグニスの顔に緊張が走る。それと同時にイグニスは4本のクローアームで道路に放棄されていたバスを掴むと、それをミサイルからの遮蔽にするように目の前に置くと、2本のアームでバスを支え、残る2本のアームを地面に噛ませ、自分の身体も固定する。


もう逃げる暇は無いと見て、耐えるつもりだ。それでももう近くに車両は無い(攻防で使い切ってしまった)。2回は同じ防御方法も使えない。一体イグニスを囮に、さっきから姿を見せない有栖は何をしようとしているのだろうか。



「まつりちゃん!」


夏美の叫びと共にミサイルは着弾し、先程とは比べ物にならない爆音と爆炎が巻き起こる。バスは完全に大破し、炎に包まれる。


イグニスはどうなった?




「かはっ…」


やや遅れて、吹き飛ばされたイグニスが何度も地面に叩きつけられながら、夏美の近くに転がる。


スーツの損傷が激しい上に全身から血が流れている。特に左胸のダメージが大きく、何か金属の破片が刺さり、胸元を濡らす。

左のこめかみからの出血もやや多く、普通の人間なら死んでいるような重傷だ。


「まつりちゃん!」


夏美は危険を顧みず、イグニスの元へ駆け寄ると、満身創痍のイグニスを抱き上げる。


やや遅れて来た俺は、着ていたベストを脱ぎイグニスの頭に当て、何とか止血しようとする。

だが、サイボーグの彼女へのこの止血方法が正しいのかはわからない。


イグニスは呼吸が荒いが意識はあるようだ。だがダメージは大きく夏美の腕の中で、その身体はぐったりしている。

幸い、アームも含めて欠損する程の怪我は無い。防御を固めたのが、功を奏したようだ。



『これでイグニスは行動不能でありますか、あとはアリスは一体イグニスを囮に何をしているんでしょう…』


シクススの言う通り、イグニスはもう行動不能だ。



「…心配ないわ、生きてる。この破片さえ抜けば、この程度の損傷は時間をかければ人工血液内のナノマシンが修復するわ。」


イグニスは震える手で胸の破片を引き抜く。ぴしゃっと血が飛び散り周囲を濡らすが、流れる血はどんどん収まっていく。

どんな機能かよくわからないが、自動修復を行っているようだ。




「それにね、あたし達の勝ちよ。そんなに爆炎だの爆発音だの振動だのを撒き散らしてたら、センサーの反応も鈍るでしょう?ましてやあんたはあたしとの戦闘中だった…細かく状況を確認する暇なんて有った?」


苦しそうだが、それでも笑みを見せるイグニス。


『っ!?』


そして、戦闘開始から今までで、始めて動揺を見せるシクスス。


見れば『テンペスト』の胴体右上に、機関部を貫通するように軽機関銃が突き刺さっていた。勿論それはシクススが使っていたもので、それは近くのビルの屋上から有栖のよって槍投げのように投げられたものだ。


恐らくサイボーグ用に作られた銃本体は頑丈で、更に有栖の怪力を乗せて射出されたソレは、装甲で弾かれたり破損する事無く、機関部を見事に貫通している。

弾が無くなっても、それ自体が滅茶苦茶頑丈なら、本体ごと射出してしまえばいい、それがイグニスのやり方だったみたいだ。



致命的な損傷を受けてふらつく『テンペスト』に、有栖は剣を手に跳躍する。


そのまま落下による重さを乗せて垂直に振り下ろされた刃は『テンペスト』の右翼を両断し、地面に着地する。



そのままフラフラと成す術無く『テンペスト』は墜落し、爆発した。




****************



有栖はイグニスが囮として飛び出した直後、シクススの目線が外れた僅かな瞬間に路地裏へと走り、死角から『テンペスト』に近い位置にあるビルの屋上へと上り待機していたのだ。


イグニスが回避行動ではなく防御を選んだのはシクススの目線を釘付けにする為だ。イグニスの姿を見失えば、シクススが周囲を索敵した際に有栖が見つかるかもしれない。


だからイグニスはあえて不動で迎え撃った。


自分の負傷を顧みず、それが『合理的』だからと言う理由で。



彼女もやはり、サイボーグだったのだ。



****************




「まだです!まだ終わりじゃない!」


炎上する『テンペストの』コクピットのドアを蹴り飛ばし、中からシクススが飛び出る。


纏っていた装甲はほぼ大破し、左腕は肘から先が潰れ、人工筋肉がはみ出ている上に、全身から火花が上がっているが、それでもシクススの戦意は衰えない。頭部に装着していたバイザーも半分破損し、その目元も明らかになる。


その小柄な体躯通りの少女の顔だった。



大破した『テンペスト』から強引に引き抜いた機関砲を片手に持ち、その銃口を倒れるイグニスや、その前に庇うように立つ有栖に向ける。

幾らサイボーグとは言え、今のボロボロの身体で戦闘機用の機関砲を撃てば反動でどうなるか、わからない筈は無い。


それでもシクススは、機関砲を手に一歩また一歩と詰め寄る。


「自分の任務を遂行する…我が意地を見よ!」




そして、突然空中から落ちてきた、巨大な二足歩行ロボットが、シクススを踏み潰した。

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