アリス・セッション:転
退路は既に断たれた。この先はお互いの正義を否定し合い、お互いを破壊し合う冷たい機械の戦いがあるだけ
グレネードランチャーの砲撃を、有栖とイグニスがそれぞれ俺と夏美を抱きかかえて跳躍し回避する。
「アリス、左はお願い。あたしは右を制圧する。」
「わかった。」
俺たちを地面に降ろすと、有栖は左側のアンドロイド部隊、イグニスは右の部隊に向かって駆け出す。
イグニスは腰のホルスターから拳銃を2丁抜き、アーム2つに装備させる。
対するアンドロイド部隊もその動きに反応し、グレネードランチャーを持つ左右2組の『US-06』のうち1組がグレネードランチャーを背中にマウントし、マチェットを抜くと前に出て、グレネードランチャー持ちは後方に下がる。
更にアサルトライフル持ちが前に出たマチェット持ちの『US-06』を遮蔽にするようにそのすぐ後ろに移動する。
明らかに集団戦に対応した行動だ。
これまでみたいに一応集団で来るものの、ただ手にした武器等で各自攻撃を仕掛けては各個撃破されていたアンドロイド兵器『US-06』だが、今回の個体は前後衛に瞬時に分かれたり、ゲリラ戦を行ってきたりと、ただの脳筋じゃないのは確かだ。
恐らく『そう言うプログラムを施された』機体が、指揮官に率いられているのは間違い無い。
そして、その指揮官がこの騒動を起こした張本人だろう。
「集団戦術プログラムね、アリス!強引だけど強行突破で行くわよ!」
「勿論、あっちのやり方に付き合ってたらこっちが不利なだけだ。」
二人はそんな相手の戦術に付き合う気は(当然とは言え)全く無い様だ。
有栖は前衛のマチェット持ちの『US-06』と対峙すると、相手がマチェットを振るう前に手にした剣を斬り上げる。
重く鋭い一撃は、そのマチェットを持った腕ごと斬り飛ばし、追撃の回し蹴りで胴体を横に真っ二つに引き裂いた。
相変わらず恐ろしい怪力だ。
その隙に、すぐ後方のアサルトライフル持ちが有栖に狙いを付けるが、直後にその銃身を銃弾が数発貫き、使用不能になるまで破壊する。
見れば反対側からイグニスがアームに装備したハンドガンで『US-06』のライフルを狙い、破壊したようだ。
『US-06』はアサルトライフルを失い、補助武装のマチェットに持ち替えようとするが、そんな暇を有栖は与えない。
瞬時に間合いを詰め、上段から振り下ろされた刃に、たまらず潰されながら二つになって大破した。
残るグレネードランチャー持ちはそれでも有栖に砲撃するが、有栖は再び大きく跳躍してその爆風を回避すると、上空から残る『US-06』の頭部を蹴り潰し首を破壊し、そのままの勢いで剣を袈裟斬りに振るうと首の潰れた『US-06』は斜めに両断され、完全に沈黙した。
「あーちゃんって…こんなに強かったの?」
「言ってる場合か。」
まぁ初めて見たから仕方無いが、夏美が唖然としながらそんなことを言う。
と言うかこいつは、目の前でドンパチやってる事には大して突っ込まないのか?
これで有栖側のアンドロイド部隊は片付いた、残るはイグニスの方だ。
見ればイグニスは2つのアームに装備されたハンドガンでアサルトライフル持ちの『US-06』を攻撃しながら足止めし、正面のマチェット持ちには残る2つのアームを巻きつけて動きを封じている。
残るグレネードランチャー持ちに対しては、動きを封じたマチェット持ちを盾にするように遮蔽にしている。
「ぶっ壊れろ」
そのままイグニスはアームのクロー部分で『US-06』の頭と腕を掴むと、もがくそれを捩じ切ってしまった。
大破したその胴体からアームを素早くほどくと、乱暴にその残骸を蹴り飛ばした。
遮蔽を無くしたイグニスにグレネードランチャー持ちの『US-06』が砲撃をしかけるが、イグニスは4本のアームを同時に操作して、アサルトライフル持ちを瞬時に捕獲すると、放たれた榴弾からの盾にしてしまう。
榴弾の直撃を受けて、炸裂する榴弾にたまらずアサルトライフル持ち『US-06』のボディはひしゃげ、表面は黒焦げになって大破する。
イグニスはそのまま、まるでゴミを捨てるように大破した『US-06』をグレネードランチャー持ちにぶん投げる。
残骸とはいえ重量のあるアンドロイドのボディに押されてバランスを崩し転倒する『US-06』。
それでもすぐに立ち上がろうとするが、その正面には奪い取ったアサルトライフルを手にしたイグニスが仁王立ちしていた。
「おらっ!ぶっ壊れろ!この鉄クズ!死んじゃえ!ゴミカスが!」
イグニスは手にしたアサルトライフルを撃つのではなく、ありったけの罵声と共に鈍器のように振り下ろし『US-06』の胴体をボコボコにぶん殴っていく。
火花を散らしながら白煙を吐く『US-06』、手にしたアサルトライフルがボロボロになって使い物にならなくなると、今度はその頭部を何度も何度も思いっ切り踏みつけ、跡形も無くなる程に粉砕した。
「あー、ちょっとはスッキリしたわ。」
最後に原型を留めないレベルでボコボコになったそのボディを乱暴に蹴り飛ばし、ビルの壁に叩きつけながら、イグニスは悪びれもせず言った。
思いっ切り私怨絡んでるじゃないか。
「意外とまつりちゃんアグレッシブなのね…」
いや夏美、その感想は的外れだ。
「まぁね、こんな化物見てさ、少しは怖くなった?」
「それは全くないね、めっちゃ強くてカッコイイじゃん。」
「…ま、貴女はそー言うと思ったわ。」
イグニスは呆れつつもどこか嬉しそうに微笑んでいた。
これでここに居た敵アンドロイド部隊は全て撃破したことになる。
だが、作戦行動を行っていたアンドロイドがこれだけとは思えない。何より、まだこの戦闘をする指揮官が姿を現していない。
そして、指揮官には護衛が付いているのが普通だ。
「『US-06』6機同時攻撃程度では、やはり誘導と足止めが限界でありますか。」
背後からそんな声がした。見れば有栖とイグニスは、レーダーでその動きを感知していたのか、既に声のした方を見ている。
そこには5つの人型が見える。
そのうち2機はアサルトライフルを装備した『US-06』だ。先程まで有栖とイグニスが戦っていた個体と差異は見られない。
そして2機は今まで見たことの無いアンドロイドだ。黒いボディは『US-06』より2回りは大きく、よりマッシブなプロポーションで、明らかに重装甲であるが武器の類は装備していない。
そして残る『1人』が、先程の言葉を発した本人のようだ。
身長は160cm程で、焦げ茶色の髪をショートボブにした少女。その身体をアリスが今着ているものによく似た黒いボディスーツに包み、その上に胸・肩・股・脛・前腕を覆うように鎧のようなカーキ色の装甲を身に着けている。
頭にはヘッドセットを付け、目元はバイザーで隠れている為見えないが、その口元や鼻筋から、整った顔立ちだというのがわかる。
手にはその体躯で扱うにしては大きすぎるように見える軽機関銃と、機動隊員が持つような盾を装備しており、背中にはマチェットを、腰には拳銃を装備している。
「自分は国際連合軍・陸軍中尉『MR-06:シクスス』、本作戦の司令官にして第3世代サイボーグであります。」
少女は自分の名と、自身がサイボーグであることを告げた。そして、軍属だという事も。
「第3世代サイボーグ、僕は勿論、イグニスより後に生産された世代だね。イグニスが言うには正式量産型らしい。」
有栖の言ったことが正しいなら、彼女こそある意味『サイボーグ兵器』という『製品』としては完成を見た存在なのだろう。
「あんただったのね、シクスス。まぁこういうふうに相手の選択肢を狭め手詰まりさせることで、相手を意図したように誘導と足止めさせるのは、あんたの得意な戦術だったわね。」
「イグニス、貴女は其方についたのでありますか。」
イグニスと『シクスス』と名乗る少女のサイボーグがそんな会話をする。2人は知り合いか。
「まぁね、あんたにとっては裏切り者、ってとこかしら。」
「裏切るも何も、貴女はそもそも軍人の自分と違い、民間人です。サイボーグ手術の適性から研究に有用な素体の保存を名目に、技術中佐殿に命を握られて従っていたに過ぎない。選択が可能になったならば、貴女が自由に選ぶべきだったのです。」
「…相も変わらず真面目ね。」
会話から、2人の関係は険悪なモノでなく、その会話からシクススの性格もなんとなく掴めた。
この子はかなり生真面目な子なのだろう。
「ねぇ、シクススちゃんだっけ?まつりちゃんと友達なんでしょ。しかも今の言い方的に、まつりちゃんの考えも尊重してくれてる。どうしてこんなふうに戦うの?」
その時、夏美がシクススに問いかけた。
「貴女は『相沢 夏美』殿ですね。民間人である貴女を巻き込んだ事はまず謝罪致します、自分の力量不足に他ならないでしょう。そしてその答えは至極単純であります。」
シクススは夏美を巻き込んだ事を謝罪し、夏美の問いに答えた。
「自分にも、譲れぬものがあるのであります。自分はこのサイボーグ手術で命を救われたのです。あるテロ事件で列車が爆破された時、そこに居合わせた自分は瀕死の重傷を負いました。そこを自分のサイボーグ手術の適性を見抜いた今亡きジャクソン中将によって本来死ぬはずだった自分はサイボーグに改造される事で命を救われたのであります。」
成程、そう言う事もあるのか。
シクススは瀕死の重傷をサイボーグになることで回復させる事が出来た。彼女の上官(言い方的に既に故人であるようだ)が彼女の素質を見抜いたからサイボーグ手術を施させたと言う目的はあるにせよ、一命を取り留めたのは事実。ならば
「自分はジャクソン中将、そして今の上官でありかつてジャクソン中将の副官であったクレイス准将への恩を返さねばなりません。確かに元々は自分のサイボーグ手術の適性を見てそうしたのかもしれません。それでも自分はこうして生きている。」
それに、と言いシクススは続ける。
「ジャクソン中将はサイボーグの齎す戦闘の優位性から、テロや紛争を速やかに鎮圧し新しい世界秩序の鍵になると仰っていました。それを我々サイボーグ兵士が担うのだと。この先は司令官とサイボーグのみが痛みを背負い戦い、無辜の人々から痛みを取り除くのだと。その思想に共感し、自分は軍人になったのであります。」
そこまで言うと、シクススは軽機関銃を片手で構える。重さを感じさせず、軽々と持ち上げている辺り、やはり怪力だ。
「敢えて言えば『恩返しと』『信念』。例えそれが一時の破壊と犠牲を齎しても、自分達は歩みを止める事は出来ないのであります。ここで投げ出せば中将閣下を含む今までの犠牲は全て無駄になる、もう既に後悔は通り過ぎたのでありますよ。」
「そんな…」
シクススが告げると、うめく夏美を尻目に新型も含むアンドロイド4体も布陣を替えて戦闘態勢に入る。
ここに至り、再びサイボーグ同士の戦いが始まろうとしていた。




