明星
迷わざる者は既に自らの進むべき道を定めている、その方法と手段さえも。時に人すらも惹かれ導く明星と成りて。
「ねぇ、あんたの友達ってなんでこんなぶっ飛んでるの?一歩間違えば変人か狂人よ?」
驚きと呆れと僅かな照れが混じったような顔をしながらイグニスが言う。
そしてそのイグニスは夏美の膝の上に座らせられ、抱きしめられてる。夏美の表情が妙に満足そうなのもポイントが高い。
「夏美なら大丈夫だと思ってたけど、僕でも流石にこれは想定外かな。」
俺たちはイグニスから色々聞いた後、直ぐに夏美を呼び、全ての真実を包み隠さず話した。
有栖とイグニスがサイボーグであること、国がそんな非人道的な実験をやってること、俺が命を狙われてる事、そしてなにより夏美も狙われる可能性があることを。
しかし、それを聞いて夏美がとった行動は、無言でイグニスを抱っこして頭を撫でたと言う事だ。意味不明過ぎる。
「いやぁー、あーしってばこういうカワイイ妹分がずっと欲しかったわけよ。」
「いや、割とどころかかなり真面目な話をしてるんだがそこは分かってるのか?」
今注目すべきはそこではないと思う。
もっとこう、危機感を持つべきだというか、何なら怖がったりするのが普通の反応だと思うんだが。
「そうよ、こんな怪物じみた機械の塊を『可愛い』なんていうのは正気じゃないわ。それにもしかしたら貴女にも危害が及ぶかもしれないのに。それを齎すのもサイボーグかもしれないのに。」
「そんなことないよ。」
イグニスの言に夏美は直ぐに、そしてハッキリと否定を告げた。
何時ものように軽いノリでもなければ、先程まで浮かべていた満足げなドヤ顔ではない。真剣な表情、そしてその目は逸らすこと無くイグニスを見つめている。
「あたしってばさ、しげちーみたいに頭の回転早くないからそういうの言われても良く分からないんだわ。でもサイボーグだっけ?有栖ちゃんがサイボーグだからってあたしと有栖ちゃんが友達なのには変わらないんよ。で、イグニスちゃん…ううん『篠火 祭』ちゃんがあーちゃんやしげちーの友達なら、あたしだって友達になりたいし。」
夏美はイグニスをわざわざ『本当の名前』で呼び直した。
「本気で言ってるの?背中からこんなのが生えてる人外に?」
「人外なんかじゃない、まつりちゃんは可愛い女の子だし、仲良くなりたい。これから色んなことがあるんだろうけど、それでもあたしの想いは変わらない。」
そうだったな、こいつはそう言うヤツだ。
昔から言い出したら聞かないヤツだし、一度決めたらテコでも考えを変えたりしない。
「あたしに出来ることなら協力するよ、だって二人とももうあたしの友達なんだから。そして二人やしげちーと遊びに行くんだ。」
そしてそれは情けや親切心からの言葉では無くて、本当に『自分がそうしたいから』そうするんだ。
「驚いたわね、本気よこの子。」
「僕からは夏美は凄いね、としか言えないよ。」
俺もそう思う。
そして同時に嬉しかったし、安堵した。結果的に夏美を巻き込むことになってしまったが、真実を知っても有栖とイグニスを拒絶しないどころか好いてくれているしな。
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「さてと、そろそろ話を進めよっか。」
「えー、まつりちゃんもう降りちゃうの?」
「それはまた後ででもいいでしょ、ちょっと本題に入りたいから。」
イグニスは夏美の膝から降りて立ち上がると腕を組んで思案顔になる。進めるべき話とは何だろうか。
「問題は次の目的と敵に回るであろうサイボーグの存在ね。この街にはまだ幾らかの研究施設や関係する場所はあるから、情報収集の為には行く必要があると思うの。」
「そうだね、君がいたあそこは半ば罠だったんじゃないかな?」
「そうね、もう大半の資料や成果は他の場所に移して、来るであろうアリスを捕獲する為の釣り餌に使ったと言うべきね。」
成程、俺たちはまんまと罠に引っかかった訳だ。おそらく有栖がそういった資料を求めて来ることを予測していたのだろう。
そしてもう一つは『敵に回るサイボーグ』か。
イグニスのように、これからはサイボーグと戦う機会が増える、そう意味だろう。
「戦い、かぁ…」
どこか物悲しそうに言う夏美。
ある意味同じサイボーグ同士で戦い合う(そして破壊し合う)事に思う事があるのだろう。
「中でも危険なのは、あたしが聞いたことがある中ではトップの戦闘力で近接格闘特化型の『IG-15:クレイス』ね。恐らくあたしでは搦め手を使ってもまず勝てないわ。加えて『自分から志願してサイボーグになった』タイプの軍人あがり。戦いに慣れてるし迷いは無いわ。」
イグニスが中には自ら進んでサイボーグになった人も居ると言っていたが、そのクレイスと言う人物がそうらしい。
加えて軍人なら、実戦経験もあるだろう。
「今どれ程の数のサイボーグが分からない以上、あまり相手にするべきではない相手だね。もし遭遇した場合は可能な限り逃げるべきだと思う。」
俺も有栖の考えに賛成だ。必要な時以外は、積極的にこちらから戦う必要も無いだろう。
「アリスの研究施設に潜入する方針自体に反対する気は無いから、あたしの持ってる施設情報をアリスと共有して、次の目的場所に目星を付けるわ。」
これは近いうちにまた行動を起こす事になりそうだな。
俺にどれくらいの事が出来るかはわからないが(もしくは足手纏いになるかもしれないが)、精一杯の協力はしよう。
「よし、じゃあ次はあーしから重要な話があるよ。」
一旦話に区切りがついたのを見計らい、夏美がやや大きめの声で言う。重要な話って何だろうか?
「もちろん、みんなで遊ぶ予定を組むってワケよ!まつりちゃんが外出できるようにするにはどうしたらいいかも考えなきゃだし。室内系が手堅いとは思うけどねあたしちゃん的には。」
ホントこいつはブレねぇな。