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アリスプロジェクト:RE  作者: 黒衣エネ
第一章:起動/黎明/標
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紫電

戦う為の機能、最高の兵器。ある意味純粋なその製造理由もくてきが、彼女に力を与える。そしてその度に、彼女は人間から離れていく。

イグニスのアームが手にした3つの拳銃が同時に連射され、更に上からは剣が有栖に容赦無く振り下ろされた。


「何で?」


しかし紫色の残光を残しながら、有栖はその全てを避けた。

思わずイグニスも困惑した声を上げる。イグニスの攻撃は早かったし、アームは有栖を4点で同時攻撃した。


それにも拘らず、その攻撃は掠りもしなかった。


部屋中を跳び回るように、今までとは桁違いの瞬発力で有栖が着地と跳躍を繰り返したことで床や壁はあちこちがボコボコへこんでいる。


そして再び有栖は俺の目の前に着地した。手には予備武装の大型ナイフを持っている。


その眼に灯る『紫色』の光。

有栖の眼は青色に光るのを見たことが何度かあるが、紫色は初めてだった。



「発展型戦闘プログラム『Zero System』。瞬間的・部分的に内蔵リミッターを解除して出力と身体性能を高める制御システム。エネルギー消費の多さと関節部分の負荷の高さから、基本は使わないものだ。」


それが有栖固有の『能力』とでも言った所だろうか。

有栖の説明を聞く限り、先程の場合は跳躍の瞬間に脚部のリミッターを瞬間だけ解除するといった動作を繰り返したのだろうか。



「あまり長引かせる訳にもいかない、速攻で行くよ。」


「させないわ!」


再び連射される拳銃。有栖はそれを今度は逆にイグニスへと突っ込むように全速力で突進することで回避する。射手がイグニス自身である以上、その銃口はイグニスに向いている訳は無い。


「っ!?」


有栖の突進を横に跳躍してイグニスは回避するが、振るわれた有栖の拳の衝撃で髪が僅かだけ切れ落ちた。恐ろしい速度だ。


当の有栖はその勢いでイグニスの背後の壁を破壊した。中の鉄筋がへし折れてコンクリート壁がボロボロと剥がれ落ちるような威力だ。あのアンドロイド兵器『US-06』が壁を壊した時とは次元が違う。



「このっ!」


最早銃弾は通用しないとみたイグニスは拳銃を放棄するとアーム本体を有栖に殺到させる。うち一つには、有栖の剣が握られたままだ。


金属同士がぶつかり合ったような激しい音がして、アームが手にしていた剣が弾け飛ぶ。

アームの攻撃を身を捻って回避した後、剣を持ったアームに後ろ回し蹴りを放って剣を弾き飛ばしたようだ。イグニスのアームは壊れはしなかったものの、装甲が大きくへこんでいる。


有栖の頬からも、一筋血が流れる。完全には避けられず、アームの爪が浅く有栖の右頬を切ったようだ。


「『AR-01:アリス』がここまで強いなんて、幾ら超高性能な試作型第1世代とは言え…」


イグニスは明らかに己の不利を悟っていた。

純粋な性能面では元々有栖が上だったようだが、有栖が『Zero System』を起動して以降は、4つのアームも有栖を捉え切れていない。


「でも、任務は任務だから…!」


それでもイグニスは今度は敢えて引っ掻けるような動作で有栖の胴や頭ではなく手足を狙いアームを振るう。直撃が厳しいと見て、手足を狙ってダメージの蓄積と消耗を狙っているようだ。



「そこ」


「えっ?きゃぁっ!?」


しかし有栖は最初に振るわれた1本のアームの胴を掴むと、それを力任せに引っ張り、アームごとイグニスを投げ飛ばしてしまった。

小柄なイグニスは堪らず投げ飛ばされ、地面に転がる。


「これで終わりだ」


起き上がろうとするイグニスの背後には既に自分の剣を拾った有栖が、その首に向かって刃を振り下ろそうとしていた。


「…終わりね、あたしの負け。まぁ最後は多少マシな人生だったわよ。」


そして、火花を走らせながら刃が振り下ろされた。



*************



「『システム通常モードへ移行』、終わったよ坂本君。」


納刀しながら、有栖が言う。その足元には気絶したイグニスが倒れている。



そう、有栖はその刃でイグニスの首を斬り落とした訳じゃなかった。

その替わりに、イグニスの首輪が両断され、火花を散らしながら転がっている。


有栖はあの一瞬で刃を正確にイグニスの首輪のロック部分に振り下ろし、イグニスの首を傷付けないように寸分にも狂わない軌道で首輪を切り落としたのだ。


帰す刃でイグニスの首に当身を入れ、抵抗されないように気絶させたと言うのが現状だ。



「ここでイグニスを破壊したら、ダメなような気がしたんだ。兵器と兵器の戦闘なのにね。」


「…俺はそれで間違ってないと思うぞ。」


俺が何か言った訳でも無く、有栖は自分でこの行動をした。

倫理観を抜きで考えたら、普通はそのまま隙だらけになった首を斬り飛ばしてイグニスを殺害した方が反撃の可能性も無く安全で手っ取り早かったはずだろう。


だが、有栖はそれをしなかった。自分で気絶させ、首輪の拘束からイグニスを解放した。



「それをしたら坂本君が、そして夏美が悲しむだろうと思ったんだ。」


それは『ヒト』としては持ってて当然の倫理観・道徳だ。

元から残っていたのか、それとも再学習したのかはわからないが、いずれにせよそれを持ち合わせている有栖はやはり『人間』だと俺は思う。


有栖は倒れているイグニスを担ぎ上げると俺の方を見る。


この後、有栖が何を言わんとするか、俺にはよく分かる。



「彼女を、イグニスを連れて行っても良いかな?」


「ああ。」


確かに彼女を連れ帰れば色々な面倒事が起きそうだ。

だが、彼女の扱いを見るに敗北したイグニスを放置して帰ってしまえば、その末路は何となく想像出来る。それを見越しながら何もしないのは流石に良心が痛む。


それに、同じサイボーグであるイグニスを『そうした方が良い』と有栖が判断したのなら、俺にとやかく言う権利など、ある筈も無い。



「それじゃあ撤収だ。得られたものは少ないけど、あとはイグニスからおいおい聞こうか。」

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