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アリスプロジェクト:RE  作者: 黒衣エネ
第一章:起動/黎明/標
12/41

誘引

知りたければ行くしかない。何が行く手を阻もうとも、それが望んだ答え出なくとも


「そんな存在が君に接触してきたなんてね。」


あの白い少女のような見た目をしたナニかと接触した次の日の昼休み、俺は昨日の出来事を有栖に全て話した。


これは共有すべき内容だと思った。

少なくとも相手は俺たちの事を既に知っているし、有栖の事、つまり『サイボーグ』についても良く知っていると見て間違いないだろう。


「やはり既に次のサイボーグが製造されていたようだね。」


「ああ、ヴァイスとか言うヤツは『第2世代』とか言っていたな。」


ヴァイスが語った中でも重要なのがこれだ。


『第2世代サイボーグ』


それらは有栖の改造によって得られたデータを元に製造されたサイボーグ達だという。

同時に、それは改造された『被害者』が既に複数出ていると言うことでもある。


ちなみにヴァイスのような兵器は有栖も自分の持つデータには無かったと言っていた。ヴァイス自身が言っていたことがどこまで本当かも分からないし、彼女に関する情報はこれ以上は追えず、手詰まりと言った所か。




「…そうだね、その事についてもそろそろ本格的に調べないといけないと思っていたんだ、丁度いい。」


「有栖?」


調べるだって?サイボーグの事についてか?



「ああ、既にいくつか目星を付けている。この街に隠された、サイボーグ研究を行っていた施設に、僕は侵入して情報を得ようと思っているんだ。」




**********************



放課後、俺は有栖の家に来ていた。


俺は有栖が危険な所に行こうとしているのを知って反対したが、それでも有栖は『知りたい』と言った。

自分が何者なのかを、そして今から何が起ころうとしているかの。それは有栖のメモリーに残された指示でもあり、それに何者かが残したメッセージ(『兵器にならず、束縛されるな』)の件もある


有栖がそう言っている以上、俺に止める事は出来ない。


俺がその旨を伝えると、有栖は『坂本君も一緒に来て欲しい』と言った。

普通に考えれば何かあった時、俺は足手まといにしかならないと思うが有栖曰く、幾つか理由があるらしい。


一つは『俺を守るため』と言った。

有栖が俺の近くから離れ、直ぐに来れない状況になったのを見計らって、例のアンドロイドが襲撃しにくる可能性は十分あり得る。

だからこそ、敢えて同行することでその方面での不安要素は潰しておくという事だ。


そしてもう一つ、純粋に眼の数を増やす事で見逃し無く捜索すること。


更に一般人である俺の意見を聞きながら、普通の人間の観点からの感想を踏まえながら捜索を進めたいとのことだった。俺にはそれがどれ程重要な事かは分からないが。



そして当の有栖は奥の部屋に行って何らかの準備をしているらしく、まだ出てこない。


その奥の部屋は、俺も入ったことが無かったな。有栖の自宅の外見的に、あと一部屋くらいはあるとは思っていたが。



「お待たせ、坂本君。」


「有栖…って、その恰好は一体?」


「これが『兵器としての僕』の『兵装』さ。」


ややあって出て来た有栖は、何時もの制服姿でも、あの時見せた動きやすそうな部屋着姿でもなかった。


ラバースーツのように有栖のつま先から首までを覆う黒いボディスーツは、胸や股、上腕や脛と言った重要な部分のみ金属の装甲で補強されている。

腰に装備されたベルトにはポーチと、ホルスターに収まった変な形状の明らかに大きい拳銃と、厚みのある刃が特徴的なナイフが収まっている。

そして背中にはやたら機械的な鞘に収まった長大な剣を背負っている。

頭には片耳だけを覆うヘッドホンを装備している。通信機器だろうか。


そんなSFに出てくるような有栖の姿に、俺は言葉を失う。何だこの装備は。


「僕と同時開発されていた、僕専用に作られた基本武装だよ。サイボーグと言っても素手で戦う訳じゃ無い。」


有栖が背負っている剣の鞘に付いているボタンのうち一つを押すと、剣の柄を黒いカバーが覆い、まるで楽器ケースのような形に変化する。そして、ボディスーツの上に薄茶色のロングコートを着て、頭には軽く帽子を被る。


こうなると少し違和感はあるものの、スーツや装備類は全部隠れるので、怪しい風体には見えないだろう。



「じゃあ行こうか。既にルートも選択してある。人通りが出来るだけ少ない道を抜けていくつもりだ。」




******************



「もう少しで目的地だよ。」


前を歩く有栖から、スマホを通して右耳にだけ付けたイヤホンに通話が入る。有栖が自分のヘッドセットを介して俺のスマホと通信してるみたいだが、思いっ切り通話回線乗っ取ってるじゃないか。相も変わらず想像を超える技術だ。


場所は地元のアーケード街。かつては商店が立ち並ぶ賑わった場所だが、今では閉業しシャッターの閉まった店舗が多く、残る店舗もチェーン店の方が多い。

夜なのもあるが、もう寂れた場所だけあって人通りは少ない。


有栖は更にその中でも所謂『裏通り』へとどんどん進んでいくので、猶更人の気は少ない。



「ここだ。」


暫く歩き、有栖はチェーンで施錠された、錆だらけの大きなドアの前で立ち止まった。

周囲に開いてる店も無く、静かだ。


「閉まっているようだが?」


俺がそう言うと有栖はあっさりと鎖を引き千切った。


「開いたよ。」


…前から思っていたが、有栖はあまりにも即断即決過ぎやしないか?


「あまり時間は無いだろうからね、行こうか。」


有栖は入り口でコートを脱ぎ捨てると、ドアを開けて建物の中へと入って行った。

俺も慌てて中へと入る。



ドアの中は薄暗く照明も点いていないが、下へと向かう階段があることはわかる。


「成程、地下へ行くわけか。」


ありがちと言うか、ベタだな。

言っちゃあなんだが、所謂『悪い事』をしてる奴らって言うのは地下に潜りたがるもんなんだな。


「気を付けて、Wi-Fiは動いてるし、施設内では電子機器は動いてるみたい。僕のセンサーに幾らか反応があった。」


階段を下りながら、有栖は腰からあのデカい拳銃を抜く。一体何口径なんだろう。


それにしてもそういうのが動いてるなら、ここが使われているのは間違いなさそうだ。表向きは鎖で施錠されてるにも関わらず。

これはもう確実に『当たり』だろう。



階段を一番下まで降りると、またしても分厚い金属製のドアが行く手を塞いでいる。

有栖が軽くノブを捻ってみるが、やはり鍵がかかっている。


すると有栖は今度はドアを思いっきり蹴飛ばし、ブチ破ってしまった。

幾らなんでも今日は乱暴すぎるような気がする。


「相手がそう言う手合いなら、自重する必要も無いと思ってね。」


「いや、あんまり音立てると警報かなんかに引っかかるだろ?」


「もうこの施設の警備システムに妨害は入れてある。Wi-Fiを飛ばしてたのが間違いだったね。」


そんなことまで出来るのか、有栖の機能は。一体どれだけ機能を積んでいるのだろうか。



「とは言え、流石に来るか。」


有栖が蹴飛ばした部屋の中、薬品の匂いがするそこは広い空間で、まるでエントランスのようだった。そして他の部屋に繋がるであろうドアが幾つもある。


そして、その部屋の中心には白いボディアーマーに身を包みのっぺりとしたヘルメットを被った人型のシルエットが3つ。

間違いなく廃工場で遭遇したアンドロイド兵器『US-06』だ。


「重久君、後ろに隠れてて。」


言うと有栖は拳銃をホルスターに戻し、背中の剣を抜いた。

長さは90cm程で、形状は軍用鉈マチェットに近い。しかしそれはバチバチと青白い火花が散発的に上がっていた。



「対人、対人型戦では近距離格闘の方が早い。」


その瞬間、有栖は『US-06』達が銃を撃つ間も無く、その内1体の胸部をその刃が貫く。

それだけでは機械が致命傷になる筈無いが、アンドロイドは煙を吐いて爆発音を鳴らしながら倒れた。リアクション的にショートしたような感じだ。


「汎用近接戦闘武装『BA-02:キャバルリー』、高電圧の電流を直撃した相手に流すから、機械相手には特攻武器だ。」


残る2体も反撃しようとライフルを構えるが、1体は袈裟斬りに胴体を裂かれて大破、もう1体は有栖の前蹴りが胴体を貫通して完全に機関部を破壊されて沈黙。


廃工場での戦闘と比較しても、全く相手にならなかった。と言うか、蹴りで胴体貫通はヤバい。

これが武装したサイボーグの本来の戦闘力なのか。



「まだ来るね。」


俺にも聞こえた。複数あるドアのうち、奥の一番大きなドアから重たい足音が複数聞こえる。間違い無く増援だろう。


「突破しながら先に進むよ。」


有栖の眼に青い光が灯った。



**************



「これで最後か。」


有栖が剣を頭部に突き刺すと、そのアンドロイドは完全に機能停止した。

有栖の眼の青い光が消え、剣を鞘に納刀する。


奥の部屋に進みながら有栖が倒したアンドロイド『US-06』は最初の3体を含めて12体。3体が1つの部隊として行動しているようだった。


有栖はそれらを一切ダメージを受けること無く倒しながら先へと進み、今は廊下のような場所に居る。


これまで途中にあった部屋に何回か入って中にあった机に放置された書類等を調べたが、何かの報告書や請求書と言ったものが主だった。察するに、この辺りの区画でそう言う経理系の事務作業を行っていたのだろうか。



「今の所、これと言って重要な情報は無いかな。」


怪しげな薬品名の記載された書類や、とんでもなく高額な請求書や有名な製薬会社や重機製造メーカーへの書類があったが、どれもまだサイボークに繋がりそうな物は無い。


「先に進もうか。」


「そうだな、ちょっとこの先は薬品の匂いも強くなってるし、もしかしたらここからが本番かもな。」


言った通り、この先は鼻を突く薬品の匂いがキツイ。


有栖はまた乱暴に扉を蹴飛ばして、中へ入る。あれだけアンドロイドが来たという事は、もう俺たちが居る場所はバレてるだろう。ならもう騒音を気にしても仕方がない。



その中はその強烈な薬品臭に見合う怪しい空間だった。いくつもの薬品が壁の棚に並び、無数にある水槽には何か生々しい肉塊や、どう見ても脳髄のような物が培養されている。


そして、それ以上に異様な存在が居た。

ある意味俺が最も見たくなかったモノが。





「あれれ、やっぱり『AR-01:アリス』に安物のアンドロイドなんて幾らけしかけてもダメかぁ。」


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