プロローグ
それは柔らかな夢の髄を引き摺り出し、その夢を白昼へと晒す
人の身体は未だに多くの謎を抱えている。
特に脳髄はブラックボックスだ、未だにその機能の全容は解明されていない。
分かっているのは極めて大雑把な機能と『それが凡そ、どの辺りで働いているか』だけだ。
故に『不用意に脳、特に大脳に触れる』のは、ある種のタブーとなっている。
理由は簡単だ、そこが最も取り返しがつかない場所だからだ。もしくは一度弄れば元に戻すことが非常に難しいからか。
人の身体に張り巡らされた『神経』も厄介だ。意図した意図しなかったに関わらず、不意に触れば脳を含めた人体に、どのように作用するか分かったものではない。
人の身体にメスを入れる時、それが目的の場合を除けば、やはり選り分けて避ける部分だろうよ。
では目的とする場合とは?
大半は2つの目的に分けられる。
一つは『それでしか命を救えない場合』、外科手術の最終手段だ。脳腫瘍を含めた神経系の病は、時に踏み入れる事がタブーな領域に触れなければ治すことは出来ない。あるいはそれでも難しい。
ではもう一つは?
もう一つは対極にある。その誰かの身体を拘束し、培養液に浸して機械に繋ぎ、脳髄をまさぐり様々な情報を吸い出して、それでも飽き足らずに弄び、結果を見る…要は実験だ。
命を救うのではなく、命を『使う』。そんなものは理解の及ばない無法だ。
そして禁忌に触れたモノの末路は、言うまでも無かろう。
…問題は『ソレ』がそこで止まってくれるかどうかだ。