第四話 VS 友達
「ごきげんよう」
「どうも」
ロープウェイに入ると既に二人の先客がいた。
「祈璃、ごきげんようだな」
男性らしい口調をするが着ている制服はスカートである。
彼女は竜胆香織。
祈璃の幼馴染みであり、生徒会副会長だ。
彼女の父親は祈璃の父親の秘書をしており、小さい頃から家族ぐるみの付き合いなのである。
肩にかからない程度のショートヘアを軽く払い、切れ長の瞳は絢愛へと向けられる。
「絢愛君もおはよう。決勝は手に汗握る接戦だったな。私の祈璃があんな表情を見せたのは初めてだ」
「そうだね君に勝ったボクだからこそイノ様にあの顔をさせたといっても過言じゃないよというかイノ様は君のものじゃない」
したり顔でニヒルに口角を上げる香織と早口で言葉を返す絢愛。
香織は何かにつけて絢愛にマウントを取りたがる。主に祈璃のことで。
そして絢愛もまた彼女に負けじと売り言葉を買い叩いてしまう。主に祈璃のことで。
言うなれば恋敵である……というわけでもない。
「お二人とも喧嘩はやめてくださいませ? 芭蕉さんが怖がっていますわ」
「あ、いえ……アタシのことはお気になさらず……なんで朝からテメェらのイチャコラやら泥沼三角関係見せられないといけないんだって反吐を出し尽くすためにエチケット袋持ってるだけだから」
ロープウェイの隅でレジ袋を手に持っているのは芭蕉勝月。
可憐で垢抜けない顔立ちは、青ざめた顔色と上目遣いに睨みつける三白眼で台無しだ。
赤いメッシュの入った黒い髪を上の方で二つにまとめ、校則で制限されてないとはいえ耳にはピアスを、爪にはゴテゴテのネイルを施している。
スカート丈も短く、タイツを履いていることで尚の事視線のやり場に困る。
しかし男である。
ちなみに絢愛の幼馴染みである。
「相変わらず口が悪いね、勝月は。そんなんでどうやって昨日このオサコンとデートできたんだよ。どうせ終始ボクへの不平不満垂れ流しだったんでしょ?」
香織と勝月は横掛けの座席に並んで着いている。
その対面の座席に絢愛と祈璃も腰を下ろした。
ちなみにオサコンとは幼馴染みコンプレックスの略である。
小さい頃から家族ぐるみで親交のあった祈璃を香織は姉のように慕い、結果幼馴染み離れできていないのである。
「普段完璧なコイツがそんな可愛いことしてたら永遠に眺めていられるし、事実そうだった楽しかったよワリィか?」
元々彼の声は男性の中でも高い方らしく、男であろうとそれはハスキーな女性の声とも聞こえる。
けれど最後の方はドスの利いた低い声で完全に漢だ。
香織と勝月は恋仲だ。
故に香織は絢愛の恋敵とは言い難いのだ。
「いや、悪くないよ。悪くないけどさ」
何か言いたげな絢愛を制するように祈璃が体を彼女に寄り添わせる。
それだけで絢愛は動揺し、祈璃へと視線を移した。
「絢愛、恋愛関係というのは一朝一夕に語ることのできるものではありませんわ。香織と芭蕉さんにはお二人の付き合い方が、あなたと私にも二人の付き合い方があるでしょう?」
「う、うん……って納得しかけたけどボク達付き合ってないよね!?」
祈璃の雰囲気に流されそうになる絢愛だったが慌てて我を取り戻す。
「そんな! 先ほどあれだけの方々を前に私への愛を語ってくださったのに……」
「誘導尋問を愛の語らいとは言わない!」
「全く。いい加減付き合えばいいものを。やはり君に祈璃は手に余るか。ならば私が祈璃を……」
「おいアタシを捨てる気かスケコマシィ……?」
呆れた様子で首を振る香織。
そして彼女の失言を聞き逃すことなく首根っこを掴み、勝月が迫る。
「じょ、冗談だよ勝月……私が君を捨てられるわけないじゃないか。こんなにも私の話を利いてくれて、私のことを受け入れてくれたのは、君だけなんだ」
「香織……! アタシも、アタシのことキモがらずに話しかけてくれて、可愛いって言ってくれて……ごめんね、そんな香織に捨てられたらって思ったら……!」
「勝月!」
「香織!」
二人は熱い抱擁を交わす。
それはさながら別府温泉の源泉よりも熱々だ。
「なんだこれ」
絢愛がツッコミを諦め、ため息をついた。
第四話いかがでしたでしょうか。今回は少し短くて申し訳ございません。
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