第十六話 VS赤城【後編】
有言不実行な作者で本当に申し訳ありません……。
一か月以上も更新が滞ってしまいました。
どうかこれからも長い目で見守っていただけたら幸いです……。
「絢……愛……?」
絢愛の絶叫を聞いたのは、祈璃が最後の軍魔兵を切り伏せた直後だった。
そこにはいつもより背の低い絢愛がいた。
太腿から先を血溜まりへと変えた彼女の、絶望と恐怖に染まった顔が見える。
「五月蝿いな。これだから犬は嫌いなんだ」
赤城は無造作に絢愛の髪を掴み上げる。
目線を合わせると、軽く鼻で笑って放り投げた。
「ァ……ッ!」
空気を押し出される。
絢愛は地面を二転してやがて動かなくなってしまった。
戦湯服は解かれ、制服を赤黒い血だまりが染めていく。
「あ……アア……アアアアアアァァァァァッ!!!!!!」
祈璃は我を忘れて赤城へ突進する。
血走り、瞳孔の開いた目で赤城を睨みつけながら彼女らしくもない力任せに剣を振るうだけの攻撃を繰り返した。
「ハッ! 怒り心頭だなぁ。犬が犬なら飼い主も飼い主か?」
「よくも……よくも絢愛をッ!!」
「やれやれヒステリーか? 面倒だな」
赤城は迫る刃を淡々と受け流し、弾く。
それだけで剣は氷り、砕け散ってしまった。
「私も鬼じゃない。あの犬コロがあまりに無様過ぎて流石の私も不憫に思うんだ。だから犬コロに免じて飼い主くらいは痛み無く殺してやろうと思う。地獄めぐりは一人じゃ退屈だろう?」
赤城は嗤う。
祈璃は激昂し、力を大きく消耗したのだろう。
既に肩で息をしているような状態だ、限界は近い。
対照的にまだ余裕を見せる赤城は棒を彼女へと向ける。
「……そうね。あの子のいない世界よりも、あの子と同じ地獄にいたいわ」
祈璃は動きを止めた。
頭を下げて荒い呼吸を繰り返していたがやがて体を反らして顔を上げ、再び湯ノ華を出す。
光彩を失ったように濁った瞳で不気味に口角を吊り上げた。
「なのに抗うのか?」
赤城が気だるげに聞く。
「だって、足りないもの……あなたの首が」
ドーム型の展望、その半径ほどはある大剣に、九つの剣が逆さに刺さる。
大剣の刀身から枝分かれしたように突き出した刃、それはさながら七支刀、否、十支刀だ。
「何度やっても同じだ。その心ごと砕いてやろう」
赤城が棒を居合のように構える。
「温泉拳楽園流獄落浄化……鬼刃魔光剣≪ARC≫」
十支刀から九つの剣が射出される。
「何度やっても同じことだ」
赤城は煩わしそうに振り払おうとする。
けれども刃は彼女から軌道を逸らし、その周りを囲うように浮遊した。
「ふふふふ……」
祈璃が笑う。
怒りと哀しみが彼女の許容量を超え、感情の制御が出来なくなったようだ。
九つの刃は激しく回転を繰り返し、刃と刃の間で電撃を、プラズマの檻を生み出す。
「私を閉じ込めたところで……いや違うな。これは……ッ!」
電撃は祈璃の持つ大剣に集約される。
青白い雷電をまとう刀身はさながら雷そのものだ。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああッ!!!!!!!!!」
祈璃が大剣を振り下ろす。
天井を突き破り、轟音の雷鳴と共に赤城へ迫った。
「卍堕凍紅ッ!!!!!!!!!!!」
赤城は棒を大剣に向けて振り上げた。
電撃と凍結。
二つの性質がぶつかり合い、爆発したような衝撃と爆風がドーム型の強化ガラスを破壊した。
舞い上がった煙が視界を埋め尽くす。
それが晴れると尚もその場に両者は立っていた。
祈璃の剣は灰となり、消えていく。
赤城もまた棒を支えに立っている状態であった。
「未だそれだけの余力を残しているとはな……驚いたぞ?」
赤城が笑う。
「その余裕、いつまで持つかしら。私はまだ戦える……あなたの首をはねるくらい造作もありませんわ」
祈璃は冷静さを取り戻したのか、僅かにふらつきながらも湯ノ華から剣を作り、構える。
「面白い……ならばこちらも全力を以て応えよう。ここからが本番――」
「何をてこずっているんです?」
赤城の言葉を遮るように疑問符を口にしたのは高崎だ。
ドームの端で彼女は何かを掴んでいた。
「高崎……水を差すな。これは私と彼女の戦湯だ」
「赤城さん。我々の目的は別府の制圧です。温戦少女なんかに構っている暇はありませんよ」
高崎が持っているのは絢愛だった。
虫の息たる彼女の首を掴み、ドームの外へ向けていた。
「絢愛ッ!」
祈璃は高崎の方へ向かう。
何をするかは明白だ。
「さようなら」
高崎が手を放すと絢愛の体は宙を舞う。
地面へ向けて百メートルの自由落下を始めたのだ。
「絢愛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」
祈璃は迷うことなく絢愛を追って空中へ飛び出してしまった。
かつて絢愛がはるか上空から落下しても生還していたが既に彼女は瀕死で戦湯服も解けている。
祈璃もまた先ほどの大技で力を使い切ったのだろう、戦湯服が解かれ為す術なく落下していく。
空中で絢愛の体を祈璃が掴んだ。
彼女を守るように祈璃が抱き締め、自身の胸元に顔を埋めさせた。
「……」
絢愛は何も話さない。
焦点を失い半開きの目、赤城の技で冷え切った体は体温を取り戻さない。
控えめな双丘の奥から何の音も鳴ることはない。
それでも祈璃は彼女の耳元で囁くのだ。
「……絢愛のことが好きです。愛して――」
ダンッ!!!
衝撃音がアスファルトの地面を僅かに響かせる。
いかがでしたでしょうか。
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