第十三話 VS 三バカ?
「おっはよー!祈璃!」
翌朝。
まるで今まで不登校だったとは思えないほどに快活な様子で絢愛は車から降りる祈璃を迎える。
「おはようございます、絢愛。ふふ、ちゃんと言いつけは守っていますね」
「や、やめてよ……考えないようにしてたのに」
イタズラっぽく微笑む祈璃に絢愛は唇を尖らせる。
音沙汰なく、学園も休み続けていた絢愛に祈璃は「一週間名前で呼ぶこと」を罰として設けた。
罰ともいえない罰だが、絢愛には効果覿面だったらしい。
「ごきげんよう」
「お、おはよう……」
ロープウェイに乗り込むといつものように香織と勝月がいた。
祈璃はいつも通り、絢愛はどこか気まずそうに挨拶する。
「おや、これはこれは。バカのくせに頭を回した灰色の単細胞君じゃないか。君のいない間祈璃は独占させてもらったよ。もっと休んでくれても私は構わなかったのにねぇ」
「祈璃コイツ突き落としていいかな」
「バカの一つ覚えみたいに祈璃祈璃と彼女に聞いて彼女の指示に従って恥ずかしくないのかな? あ、そうだった。君は単細胞だから一人では何も考えられないんだね」
「火力高いね、香織……。まあでも絢愛がマジで元気そうで何よりだわ。二人の口げんか聞いてると安心するね」
勝月はそんな二人を眺めて言う。
「このバカと口論だなんてとんでもない。会話が成り立ってるだけで奇跡なんだからさ」
「バカバカうるさいよ! フン、お互いがいなきゃビービー泣き喚くメンヘラ地雷カップルのくせに!」
「それアタシにも刺さるんだけどォ!?」
思わぬ方向で流れ弾を食う見た目は地雷系女子中身は男の勝月。
普段通りの風景に、祈璃は口元に手を当てて微笑んでいた。
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放課後。夕陽の傾く別府の街にまたしても闇泉士が現れる。
「硫黄閃ッ!」
金色を纏う石人形。
それは腕を振り子のように回して街路樹を、建物を破壊する。
「今日の蟹座は一位デェェェェェスッ!」
巨大な鋏を両手に持つ男。
人の背丈ほどもある刃の切っ先は逃げ惑う人々へと向けられていた。
「紅葉の錦……神のまにまに」
まるで千手観音のように背中から真っ白な紅葉を咲かせる女。
尼のような格好で、紅葉は巨大化し、人の手のように物を掴んだり叩いたりしていた。
「祈璃、ボクは紅葉の方を倒す!」
「では私はあの二人ですわね!」
二人は眼鏡をかけて変身した。
祈璃は赤いアンダーリム、対して祈璃は青縁で長方形のフレームをした眼鏡だ。
「焦熱温戦ッ!」
「等活温戦ッ!」
絢愛と祈璃はそれぞれ赤い和風、青いドレスのような戦闘服を身に纏い、三人の闇泉士へと相対する。
「紅葉振り分け鳴く鹿の……」
尼は幾重もの紅葉を絢愛へ放つ。
五つに分かれる紅葉の葉先はそのいずれもが剣山のように鋭くなっていた。
「明礬流の紅葉使い……妙泉尼かッ!」
紅葉を避け、避けきれないものは叩き燃やして彼女は尼を見る。
瀟洒で嫋やかな彼女をここまで変容させるとは、等と物思いに耽る余裕は絢愛にはない。
「山川に風のかけたるしらがみは……」
紅葉は尼の前に集まり、一斉に回りだす。
数を増し、回転は上がり、やがてそれは竜巻のようになった。
「温泉拳獄楽浄化……」
彼女もまた竜巻を見据えて体を回転させる。
両者の吹き荒ぶ風は轟音を旋律へと変えて共鳴していた。
「流れもあへぬ紅葉なりけり……ッ!」
「怒雷也ッ!」
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一方で二人を相手する祈璃は表情を歪ませることなく、淡々とした様子で戦っていた。
「硫黄閃ッ! 硫黄閃ッ!」
バカの一つ覚えのように飛んでくる石人形の拳は温泉拳で強化された手で何なく受け止められる。
「ラッキーカラーは青ォ!!!」
彼女を切断しようと迫る二つの刃は白刃の剣によって阻まれる。
「力はありますが手数は少ないですね。それでは一度見切られたら何もできませんよ?」
二人を受け止めたところで祈璃は地面を踏みつける。
刹那、二人の体は灰色の巨大な両手によって跳ね上げられた。
石人形は指を揃えた掌で、鋏使いは天を衝くように伸ばされた拳で。
鉄輪流は無機質なものであり、自身が武器と認識したものに温泉のエネルギーを注ぎ込んで威力や強度を高めたり、遠隔操作を可能とする。
彼女はその究極。
足に触れる地面そのものをも武器と定義したのだ。
中空に投げ出された二人は陽光より何かがこちらへ向かうのが見えた。
それは先ほど鋏を受け止めた明礬流の湯ノ華……それは空中で十振りに分かれて二人へ刺し穿たれる。
「温泉拳楽園流獄落浄化……久十落天地」
そのまま剣の威力と自由落下の為すがまま二人は地面へと激突した。
「きゅぅ……」
「今日の蟹座……アンラッキー……」
彼等が気絶し、負の力が消えたことを確認した祈璃は絢愛の方へと目を向ける。
「あら。こちらももうじき終わりそうですわね」
白い竜巻と赤い竜巻を眺めて祈璃は呟いた。
「嵐吹く……三室の山の紅葉葉は……」
まさしく二つの嵐が風吹き合う。
「これは……我慢比べかなッ!」
尼と絢愛は嵐の只中にいた。
激しい熱風に耐える尼、無数の刃に苦戦を強いられる絢愛。
膠着する中、真っ先に動いたのは尼だった。
「竜田の川の……錦なりけりッ!」
尼が扇子を払う。
すると絢愛へ向かって無数の紅葉の刃が地面から無数に現れる。
地面を伝い、動けないでいる絢愛を狙ったようだ。
絢愛は大きく地を蹴り、跳び上がる。
「わわ、ちょっとぉ!?」
しかし、それは悪手だ。
中空は二つの嵐で風向きが滅茶苦茶だ。
熱と紅葉の彩る死の世界。
そこに投げ出された絢愛は思うように身動きが取れないようだった。
「このたびは、幣もとりあえず手向山……」
自滅した絢愛を尼は扇子で口元を隠して笑う。
しかし。
その笑みは真っ二つに切断、炎上した扇子と共に消える。
「温泉拳獄楽浄化……」
絢愛だ。
吹き飛んでくる紅葉の刃を足場に、そしてサッカーボールのように尼に向けて蹴っていたのだ。
「死葉蹟ッ!」
尼の制御も効かぬまま、燃えながら降り刺す燃葉の前に彼女は無力であった。
「ご苦労様ね、絢愛」
祈璃が微笑みながら彼女の方へと近づく。
「大したことないよ。祈璃こそ二人も相手にして大丈夫だった?」
「問題ありませんでしたわ。この力にも大分馴染んできた気がするもの」
祈璃は長い髪をかき上げて余裕を見せる。
二人の談笑は直後、高速で飛来した何かによって終わりを迎えた。
「なに……ッ!?」
幸いにも絢愛も祈璃も変身を解いていなかった。
体は高速の飛翔体に素早く反応して二人の身を守る。
「こんなものか、温戦少女?」
二人のいた地面に突き刺さっていたのは赤錆色の塊だった。血のように赤黒い染みが、巻き付くように螺旋状の模様を描いている。
かつては白かったのだろう、欠けた内側は白みがかった箇所が残されている。
「新手……ッ!」
「気をつけなさい、絢愛。……今までと違います!」
彼女達の前に降り立ったのは翡翠のような色合いを持つ和服のような戦闘服を、紅く赤く染めたように不規則なグラデーションを描く模様をあしらえた少女だった。
十三話いかがでしたでしょうか。
コメント、評価、お気に召して頂けたらブクマしていただけると嬉しいです。
先日、ブックマーク登録をしてくだっさっている方が居て驚きました。
この作品を気に入って下さったのでしょうか。
本当にうれしい限りです。
拙作ですがどうぞ最後までお付き合いください。




