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湯けむり♨温戦少女  作者: ひよこめんたる
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第十二話 VS 等活温戦

今回いつもより少し長いです。

何が救う、だ。


絢愛は自室のベッドにうつ伏せて枕に顔を埋めていた。


彼女は学園近くのアパートで一人暮らしをしている。


ワンルームの一角で、思い出すのはロープウェイ駅。


初めてユデゴリラを前にした時のことだ。


『それでも、ボクが助けてあげないといけない人だからね』


そう言ったのに。


結果としてボクは助けてあげなくちゃいけない人を手にかけた。


ユデゴリラを宇宙へ放り出す直前のことを思い出す。


『お前を救う価値は、ない』


「ボクにだって……別府を救う価値は、資格はない……」


あれから二週間。


絢愛は意気消沈していた。


彼女が温戦少女であること、そもそもの温戦少女という存在、それらを祈璃は秘匿するように動いた。


幸いにも動転していた子ども達は『絢愛ちゃんが助けてくれた』のが分かるだけで彼女が温戦少女となったことを知らない。


クラス担任、彼女の事情を知る香織と勝月には誰にも言わないように頼み、彼女が宇宙空間から落下した件も小型の隕石が衝突したという形で収まった。


闇泉士に関しても原因不明の泉士達の暴走であり、絢愛が彼等を止めるために派遣されていることになっている。


元々正義感に厚く、コロシアムでも優勝した実力者だ。


疑う者はそうそう現れないだろう。


「絢愛よ、生きているか?」


部屋の壁をすり抜けて入ってくるのはクマハッチだ。


「また闇泉士……? いいよ、いつでも行けるから」


彼女が落ち込んでいても闇泉士は待ってくれない。


幸いにも絢愛に大きな怪我はなかった。


搬送された翌日には退院し、自室に戻ったのである。


絢愛は戦い、闇泉士達を退けるがそれでも胸の裡の罪悪感が消えることは無かった。


「違うぜ、嬢ちゃん。無理はするな、ゆっくり休め。しっかり悩め。ワシにはこれくらいしか言えねェが、まあ人生飛び込んだ先に何があるか分からん。だから引き返すのも進むのも、嬢ちゃんの自由だ」


おじさんというのは説教は長いし言いたいことが分かりづらい。


つまるところは嫌なら止めてもいい、ということなのだろう。


「……」


絢愛は何も答えない。沈黙は数分ほど続いた。


「じゃあ、ワシは行くからな。無理だけはするなよ?」


そう言ってクマハッチが部屋を出る。


「……イノ様」


彼女は愛しき親友のことを思い出し、寂しさと虚しさに胸を締め付けられるようだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「そう……すっかり塞ぎ込んでいるんですね、あの子」


学園のカフェテリア。


祈璃はクマハッチから絢愛のことを聞いていた。


ここしばらくの間、彼女は欠席している。


原因は明白だが、祈璃にはどうしていいか分からない。


本当なら今すぐ彼女の部屋を訪れて抱き締めたいのだろう。


だが固く閉ざされたその部屋はまるで自分を拒絶しているようにも思える。


事実祈璃は毎日のように絢愛のスマートフォンにメッセージを送っているが返信どころか既読された形跡も見られない。


そっと静観するべきか、無理矢理にでも彼女と対話する機会を設けるべきか。


「隣、いいかな?」


悩む祈璃のもとへ香織が現れた。


祈璃が促すまでもなく香織は彼女の対面へと座り、向かい合わせとなる。


「香織、私どうしたらいいのかしら。あの子に何ができるでしょうか……」


祈璃にとって香織は絢愛とは違った意味で親友だ。


幼い頃から共に育ってきた彼女は、祈璃にとって家族にも等しい。


だからこそ胸の裡を明かすのだろう。


「どうするって、君達ならいつものようにすればいいじゃないか」


香織が心底驚いたように目を見開く。


何故そんなことにも気づいてないのか、そう言いたげな様子だ。


「い、いつもの……?」


「温泉拳の使い手同士、語り合うなら裸の付き合い……いや、拳の突き合いだろう」


そこで祈璃も何かに気付いたのだろう、クマハッチの方を向く。


「……良いのだな?」


彼もその意図を察したようで、祈璃を真っ直ぐに見つめる。


「もちろんですわ。絢愛にできて私に出来ないことなど、少ししかありません」


そして二人は揃ってカフェテリアを去ろうとする。


席を立つ直前、祈璃は満面の笑みで香織を見た。


「ありがとうございます、香織。でも私その例えは控えめに言って二度としない方がいいと思いますわ!」


二人のいなくなったカフェテリア。香織は目を伏せ微笑んだ。


「勝月なら、笑ってくれるんだけどなぁ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ケケケ……オレは男湯覗きで捕まり温泉拳の資格を無くした泉士、紺田詩依(こんだしよ)だッ! 変態上等ッ!」


小学校前で闇泉士が暴れている。


無数のカメラを全身に装備した、特攻服を着る一昔前の女ヤンキーだ。


「わざわざ説明口調気味に自己紹介ありがとうじゃあ大人しく刑務所に戻ろうかッ!」


絢愛は温戦少女となり、彼女と相対する。


「女に興味はねぇんだよォ! オレはただ少年共のあられもない姿を収められればそれでグボァ!?」


荒々しい呼吸で喋る闇泉士は突如として短い断末魔をあげると空高く吹き飛ばされた。


彼女がいた地面からは白く伸びる湯ノ華が咲き誇る。


「温泉拳()()()()()()()……久十光剣(ジャッジメント)


中空に飛ばされた闇泉士は上下左右から十本の湯ノ華によって串刺しにされる。


肉体へ直接的なダメージはないように思えるが闇泉士だった女は白目を剥いて気絶した。


それを抱えて降りるのは湯ノ華を用いた温戦少女、観海寺祈璃だった。


「イノ様!?」


絢愛は何が起きたか理解できない様子で祈璃を見つめる。


地上へ降りた彼女は女を地面に降ろすと絢愛の方へ向かった。


「絢愛」


祈璃はドレスのような青い戦闘服をたなびかせる。


猫のように大きく、鋭い目に見下ろされた絢愛はその威圧感に思わず後方へ跳躍し、距離を取ってしまった。


「イノ様……」


絢愛はバツが悪そうに目線を逸らす。


しかしそれが合図だと言わんばかりに祈璃は先ほどの光剣を絢愛めがけて放った。


遠隔操作が可能なのだろう。


半分は祈璃は守るように中空を漂い、半分は絢愛を討ち取ろうと刃を向ける。


「絢愛、私と勝負です」


絢愛は光剣を避けつつ、困惑した様子で彼女を見ていた。


「ど、どういうことなのイノ様!? あ、メッセージのことかな? 無視してごめん、でもボクは……」


その言葉を遮るように地面から巨大は湯ノ華が伸び上がる。


「しまった……ッ!」


絢愛は油断していた。


空中に投げ出される。


先程の光剣だろうか、いや彼女ならば落天地を使うはずだ。


数瞬で絢愛はそう考えて全身を火球で包む。


これで祈璃は自身を掴むことはできないだろうと踏んで。


だが迫る祈璃は両足を絢愛に向けていた。


「温泉拳()()獄落浄化……多蹴ヶ原ッ!」


「な……ッ!?」


雨霰のように降り落ちる祈璃の蹴りは火球のガードを貫く。


虚を突かれた絢愛は驚愕した様子でガードしようと腕を交差させるが超速の蹴撃を受け止めきれず地面へ叩きつけられる。


「な……んで?」


地面に穴を空け、仰向けに倒れた絢愛は疑問符を浮かべて祈璃を見上げる。


「私は等活温戦(とうかつおんせん)……その力は、温泉拳三つの流派全てを統括し、使いこなすことができるようになります」


確かに祈璃は明礬流の湯ノ華、そして温泉拳本流で身体強化し、多蹴ヶ原を使いこなしてみせた。


温泉拳の流派全てを覚えること、それは不可能ではない。


しかし、それぞれの流派で温泉のエネルギーを注ぐ方法が違うのだ。


いわば一つの蛇口に複数の出口があるホースのようなもの。


各々の出口から放出される水の量は分散されてしまう。


習熟に時間を要するにも関わらず器用貧乏となる、ならば一つの流派を極めた方が強い。


それが温泉拳全般の基本的な共通認識だ。


しかし、彼女は違う。


地の底たる地獄から溢れ出るエネルギーを直接得ることができる祈璃はいわばダムなのだ。


複数の出口があろうとも注がれる水の量が桁違いなのである。


「なんで……なんでこんなことをするの……ボク……そんなにイノ様に嫌われちゃった……?」


祈璃は答えない。


湯ノ華を武器と見立て、鉄輪流で更に強化された十振りの白く輝く剣を全て絢愛に向けた。


「温泉拳<統括>獄落浄化……久十大光剣(パニッシュメント)


振り下ろされる剣。


着弾、いや着剣した箇所はアスファルトを大きく抉り、爆ぜる。


それだけで先程とは桁違いの威力を持つことは明白だ。


しかし、絢愛は自身に迫る剣を拳で真正面から迎え撃つ。


剣は先端を砕かれ、燃やし尽くされ、灰燼に帰す。


「イノ様、加減はしないからねッ!」


絢愛は地面を殴った。


アスファルトは彼女が触れただけで溶け、地面を伝う衝撃と高熱は祈璃の下まで響き渡る。


アスファルトが溶けていくのを見た祈璃は、しかし顔色を変えることなく温泉拳本流で強化した脚力を用いて跳び上がる。


だがそれは絢愛の狙い通りだ。


跳び上がる祈璃を追いかけるように絢愛も跳躍した。


温泉拳に特化する絢愛の方が速度も高度も祈璃を上回る。


どの道上を取られれば祈璃の思う壺だ。接近戦に重きを置く絢愛にとって範囲外からの遠距離攻撃は厄介である。


彼女を見下ろした絢愛は空中で身動きの取れないであろう祈璃へ向けて落下し、踵を彼女の頭部へ向けて振り下ろした。


「温泉拳獄楽浄化……別府落天地(オリジンフォール)ッ!」


それは祈璃の落天地を独自解釈し温泉拳と変えた絢愛の新技だ。


激しい衝撃音は周囲に猛烈な風圧を巻き起こす。だが。


「ああああああッ!!」


悲鳴を上げたのは絢愛の方だった。


踵落としを決めたはずの彼女の足首には白銀に輝く太刀が刺さっていた。


「私の剣は、両手で数えられぬと知りなさい」


「そん、な……ッ!


祈璃は太刀を払う。


刀身を離れ、自由落下する絢愛へ向けて祈璃は刀を向けた。


「温泉拳<統括>獄落浄化……鬼刃魔光剣(エクスキューショナー)ッ!」


刀身はレーザーのように伸びると真っ直ぐ絢愛に向かい、彼女の胸元へと突き刺さり、貫通した。


「あ……ッ!」


獄楽浄化と同じく肉体へダメージはない。


しかし擬似的でも心臓を貫かれた絢愛の変身は解け、アスファルトに全身を打ち付けられる。


「絢愛」


祈璃もまた変身を解いて倒れ伏す彼女の元へ歩く。


「……痛い。痛いんだ」


絢愛の視界が揺らぐ。


とめどなく溢れる涙はえぐれた地面に落ち、露出した土を濡らす。


「君を見てると胸が痛くなる。ボクが何もできなかったばかりに君を汚してしまった。ボクが弱いから君を守ってあげられなかった。ボクがバカだから……君の隣にいる資格を失ってしまったんだ……ッ!」


絢愛は怖かった。


何も出来ず、人を手にかけた己を祈璃はどう思っているのか。


表面上は心配し、笑いかけてくれたとしてもその本心は自身を忌避しているのではないか、拒絶しているのではないか。


悩めば悩むほど想像は悪い方向へ向かい、顔を合わせるのが怖くなった。


どんな顔をしていいか分からなくなってしまった。


子供のように泣きじゃくる絢愛を、祈璃はそっと抱えて頭を撫でる。


泣く子をあやす母親のように。


「絢愛、あなたの罪は私が裁きましたわ」


「……どういう、こと?」


絢愛は困惑した面持ちで祈璃を見つめる。


「等活地獄は殺人、盗み等を行った者達が落ちる地獄ですわ。私は等活温戦……そんな地獄の化身よ。だから私があなたを裁きました」


「イノ様……」


「あなたはもう人殺しの神村絢愛ではありません。罪に向き合い、償う心を持った只の……どこにでもいる神村絢愛(おんなのこ)ですわ」


分かっている。


互いに、これが気休めでしかないことを。


絢愛が人を殺したという事実は変わらない。


裁かれた、償われたというのも利己的な解釈に過ぎない。


「……」


絢愛は押し黙ってしまう。


涙で腫れた目元に負けないくらい頬を赤く上気させ、しどろもどろに言葉を探していた。


「私にだって責任はありますわ。私が無力だったばかりに、あなたへ全てを押し付けてしまったもの」


「それは、違うよ!」


否定する絢愛の唇を祈璃が人差し指を重ねて止める。


「間違えたなら、過ちを犯したなら、やり直しましょう? 今度こそ同じことが起きないように二人で、ね」


「うん……」


絢愛はコクリと小さく頷いた。


罪を犯したという点で止まってはならない。


生きている限り進まねばならない。


たとえ利己的な解釈であろうとも、やり直す理由が必要なのだ。


罪の意識に苦しみながらも二度と同じことを繰り返さないように生き続ける。


それこそが、彼女達の償いだ。


「それに、あなたに守られるお姫様だなんて、役不足もいいところよ。私が守られるだけの女でないこと、絢愛なら分かるでしょ?」


「でもボクが頑張らなきゃ……強くならなきゃ……またイノ様を悲しませてしまうかもしれない」


祈璃はひび割れたアスファルトの上に座り込むと膝の上に絢愛を置いて両手で彼女の頬を挟み込む。


そうして顔を強制的に自身と合わせた。


「私の幸せは絢愛の幸せよ。私の悲しみも絢愛の悲しみなの。だから、まずは貴女が笑顔でなくちゃ始まらないわ」


そう言って祈璃は、絢愛の額に唇を重ねた。


「イ……祈璃!?」


絢愛は慌てた様子でおでこに両手を当てる。


のぼせたように耳たぶまで真っ赤になる彼女を、祈璃はイタズラっぽく笑った。


つられて絢愛も笑ってしまうのだった。







「てぇてぇ……オレ、この二人と出会うために生まれたんだ……」


いつの間にか目を覚ましていた紺田がカメラを二人へ向ける。


ファインダーには、仲睦まじく笑いあう二人の姿が収められていた。


第十二話いかがでしたでしょうか。

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