第十話 VS ゴリラ【中編】
GWに浮かれて更新が滞ってしまい申し訳ありません!
本日から再び平常運転で頑張ります!
絢愛とユデゴリラの熾烈な戦湯は続く。
もとよりユデゴリラはその名が示す通り腕っ節は温泉拳本流の使い手たちの中でも上位に位置する。
加えて凶化体となり、負の力が全身に行き渡った彼の実力は並みの泉士では到達不可能な域に達していた。
しかし。
「温泉拳獄楽浄化……多蹴ヶ原ッ!」
逸脱したパワーを持つのは絢愛も同じだ。
無数の蹴りがユデゴリラの掌底を捉える。
勝負はすっかり彼が防戦一方となっていた。
ユデゴリラは伸縮自在に肥大化した両腕を振るって相手の移動範囲を制限しつつ、執拗に腕をしならせ襲いかかる戦法を得意としている。
彼が猛威を振るい、大会を連覇できたのはその巨大な両手を弾くほどの威力を持つ温泉拳の使い手がいなかったからだ。
だが絢愛は違う。
射程を捨て、機動力と攻撃力のみをひたむきに鍛え上げた生粋のインファイターである彼女は握り潰さんと迫る彼の手を払うだけの力がある。
加えて焦熱温戦の能力で触れた物すべてを燃やし尽くす彼女の攻撃はユデゴリラを寄せ付けない。
「ジャマダァ……ドケェ、コムスメッ!!」
ユデゴリラはギリギリ言語として成立する唸り声をあげた。
「どうせアンタの目的はイノ様でしょ? 行かせてたまるかってのッ!」
半身で両腕の奇襲に警戒しつつ、絢愛はロープの上を走り、彼に肉薄しようとする。
「トォマレェェェエッ!!」
だがその足は彼の雄叫びによって止めざるをえなかった。
絢愛は何かに気付いたのか目を見開いて固まる。
ユデゴリラは上りのケーブルカーに腕を伸ばしていた。眼下から近づく車内には。
「まさか、誰か乗っていますのッ!?」
祈璃も気付いようで、どこから取り出したのか長い取手のついた簡易的な双眼鏡を覗く。
中空に吊るされたケーブルカー。
その内部にはもの珍しそうに伸ばされた腕を見上げる子どもたちと彼等を守ろうと腕と子どもたちの間に割り入る保育士の姿があった。
「実は今日、秀湯幼稚園の園児達が遠足で学園のある山へ来る予定だったんです。嗚呼、なんてこと……確かに下のロープウェイ駅には運行を停止するよう連絡を入れたのに!」
クラス担任は嘆き、膝から崩れ落ちた。
園児達を人質に取られている以上、さしもの絢愛でも手を出す事はできない。
下手に刺激すれば今のユデゴリラならロープを引きちぎるなりケーブルカーの車輪を外すなりして呆気なく彼等の命を奪うだろう。
「ウホホイアホホイ〜!」
ユデゴリラはケーブルカーの真上に座り込む。
そして挑発するように自身の頭上でその長大な腕を叩き合わせた。
軽快な音とは裏腹にさすがの園児達も恐怖と戦慄に包まれたのだろう、金切り声のような悲鳴や鳴き声が絢愛の耳朶を打つ。
保育士も震えた様子で耳を塞いでいた。
「コイツ……ッ!」
手も足も出ない。
歯痒さに目を細め、目の前のユデゴリラを睨みつける。
ユデゴリラは卑しくも口角をこれでもかと上げて彼女へ指を振った。
そしてもう片方の手でロープを握るとゆっくりと上下に動かす。
「きゃああああああッ!!!」
ケーブルカーの車内はそれだけで激しく揺らされて窓ガラス越しでも耳を劈くような悲鳴が聞こえる。
それは上のロープウェイ駅にいる祈璃達にも届いてしまった。
「お前……ッ!何が望みなんだッ!」
激昂した絢愛がユデゴリラへ問いかける。
彼はわざとらしく顎を手で擦るとその手をロープウェイの頂上、駅内の祈璃へ向けた。
「アヤマレ。オレニ。ドゲザシロ」
聞くに耐えない狂笑をあげてユデゴリラは言う。
「ふざけるなッ! 逆恨みもいいところじゃないかッ! いい加減に……ッ!」
「やめなさい、絢愛ッ!!」
怒りに打ち震え、動き出そうとする絢愛。
しかし、祈璃は彼女を制してユデゴリラへと目を向ける。
「ダメだ……ダメだよ、祈璃ッ!」
絢愛は振り返り、必死に祈璃へ呼びかける。
しかし、祈璃は彼女を見ない。
膝を折り、その場に正座すると手を床に着けてそのまま床へ頭を伏せた。
「この度は、大変、申し訳ありませんでした。どうか彼等を見逃してあげてください。お願いします」
「コエガ!キコエナァイ!!」
「この度は! 大変! 申し訳ありませんッ!!」
絢愛は泣いていた。自身よりも遥かに格下の、言語さえまともに発せなくなった男に頭を下げる祈璃を視たからだ。
プライドを踏み躙られ、思ってもないことを口にする……だというのに悔しさに、悲しみに言葉を震わせることもない。
自身の、否、観海寺の誇りを捨て去ってでも目の前の子ども達の命を救いたいという想いを、確かに絢愛は見た。
「オイ、オマエ」
しかし、ユデゴリラの関心は、そんな彼女を踏み躙るように絢愛へと向けられる。
「……なんだ」
絢愛は怒りを押し殺す。
本当は今すぐにでも目の前の男を叩き落としたいのだろう。
けれど今動けば祈璃の想いを無駄にすることになる。
歯を食いしばり、握りしめた拳からは火花が飛び散る。
「ウゴクナヨ」
「何を言って……」
絢愛が言葉を返す前に彼女の体は二つの肉塊に勢いよく挟まれた。
それはユデゴリラの肥大化した両手。
重ね合わされた彼の両手は、先ほど叩いてたような軽快は音ではなく、本気だと誰もが悟る衝撃音で閉じられた。
「絢愛ッ!!」
顔を上げた祈璃は目を見開き、叫ぶように彼女の名前を呼んだ。
「……ぁ」
ユデゴリラが手を広げる。
彼の攻撃をまともに食らったものの、絢愛にはまだ意識が残っていた。
しかし、そのダメージは相当だったのだろう。
覚束ない足取りで息も絶え絶えにロープの上を辛うじて立っていた。
「オマエ、シンドケ」
ユデゴリラはそんな彼女を無慈悲にも右手で払い、振り落す。
「いやああああああッ! 絢愛ぇぇぇぇぇッ!!」
祈璃の叫びは絢愛と共に遥か下の山林へと吸い込まれていった。
第十話いかがでしたでしょうか。
コメント、評価、お気に召して頂けたらブクマしていただけると嬉しいです。
実はいいねが一件ついてて嬉しかったりします。
PVというのでしょうか、そちらでも一日に何人かの方が覗いてくださっているようで、
嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な心境になっています。
嬉しい方が勝っているのでこれからもぼちぼち更新していくつもりです!




