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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

だれが、あく、なの?

作者: Moi

誤字脱字、ご都合展開等は生暖かい目でご覧ください。

好みは分かれると思います。

「この場を借りて僕は宣言する!この女、ダーヤモンド・フォン・セイギョクとの婚約を破棄し、断罪する!」

わたくし、ダーヤモンド・フォン・セイギョクはこの国の王太子、アンハイドライト・フォン・コウセッコウの婚約者ですの。

そして、今は卒業パーティーの真っ最中。

外国からの客人や国の要人も多くいる場。

にも関わらず、王太子様(アンハイド様)がエスコートしているのは婚約者(わたくし)以外の少女。

その少女を護るように王太子様(アンハイド様)の側近たちがいる。

その少女は確か、シトリン・キスイショウ男爵令嬢と今は名乗っているはず。

多くの者たちが息を飲んで見守る中、わたくしは王太子様(アンハイド様)にすがるように言った。

王太子様(アンハイド様)なぜ、婚約破棄などなされるのですか……わたくしが何か貴方様のお気にさわるような言動をいたしましたでしょうか。それならばどうか、御理由をお教えくださいませ。どうか、もう一度、わたくしの家族を殺しになされたように、わたくし付きの侍女や騎士、友人を殺さないでくださいませ。どうか、お願いいたします……」

最後の方の言葉は瞳に涙を浮かべていた。

わたくしは周りから見れば“哀れな女”だ。

そんなわたくしの言葉に秘められた王太子様(アンハイド様)の過去の罪に気がついたものは王太子様(アンハイド様)を恐ろしいものを見るような目でみている。

あぁ、断罪の時(愚かな茶番)が始まる。








わたくしは本来ただの子爵家の次女だった。

だが、あの日の出来事によってわたくしの運命は変わった。

王太子(アンハイド様)は王妃にとって義理の弟、王太子(アンハイド様)にとって義理の叔父であるセイギョク公爵に会いにいかれる道中で子爵家の領地に立ち寄った。その時、わたくしと王子は共に10歳。王太子(アンハイド様)は当時からこの辺りで最も美しいと評判だったわたくしに一目惚れしたらしい。

そして、その場で求婚してきた。

わたくし達、コンゴウセキ子爵家はその申し出をやんわり断った。

なぜなら、当時のわたくしには既に婚約者がいた上に子爵家を将来継ぐ予定だったから。

本来は兄が子爵家を継ぐ予定だった。だが、兄がわたくしが四つの頃に亡くなり、状況が変わった。わたくしは四人兄妹でわたくしは三番目。一番下が妹で、わたくしの三つ下。一番上の兄とは十、二番目の姉とは八離れている。姉は兄が亡くなった時点で既に婚約者がおり、お相手は伯爵家の嫡男。姉の婚約者に婿入りをしてもらうのは不可能な上に、姉は嫡子としての教育を一切受けいていない。そのため、婚約者も教育も始まっていなかったわたくしが嫡子となった。

わたくしが万が一嫡子でなくなれば、まだ幼い妹に全ての皺寄せがいく。それは嫌だった。わたくしも勉強は嫌いではなかったが、嫡子教育は大変だ。妹はこの時七つ。嫡子教育を始めるには少し遅い年齢である。その上、妹には婚約を結ぼうとしている相手がおり、そちらの方は婿入りを願うのは不可能である。

そういう、裏事情もあるが、一番の理由は身分の問題である。

当然、王族、特に王位継承権の高い者の婚約者は公爵、侯爵、伯爵の上の三つの階級からしか出さないという暗黙の了解がある。

それを無視して子爵家の出であるわたくしが婚約者になれば波乱しか無い。そんな面倒なのはお断りだ。

わたくしが望むのは平穏だけである。

それにわたくし、婚約者()のことだけを愛しているの。

だから、断った。

なのに、王太子(アンハイド様)は!

子爵家の屋敷に火を放ったのだ。

わたくしを晩餐に無理矢理誘い、来なければ婚約者()を殺すと脅した上で。仕方がないから、わたくしはその晩餐に行った。その日、わたくしは晩餐に出るために朝から王城に登城していたため、わたくしは巻き込まれなかった。

だが、その火事により、父上、母上、姉上、妹そして使用人達が亡くなった。

さらに、結婚式の打ち合わせ来ておられた姉上の婚約者もこの火事で大怪我を負われた。姉上が亡くなったことを知り、絶望なされ自害なされたと後になって聞いた。

婚約者()は火事には幸運にも巻き込まれなかった。

だが、この惨状を作り出した王太子(アンハイド様)の瞳には罪悪感の欠片すらなく、幼子の様に楽しそうにこう言ったのだ。

「次は領民にしようか、それとも、君の婚約者にしようか。君の婚約者はナイフで刺した方がいいかな?それとも、事故がいいかい?うーん、領民は火事を起こせばいい。領民なんて、変えのきく道具だし。……もし、君が僕の婚約者になるならやらないけど、どうする?」

嫌だった。家族を殺したこの王太子(アンハイド様)の元に行くのは。

だが、仕方がなかった。

領地と領民を守る、それが領主の最も大切な仕事。

そう、父上に婚約者()とともに教えられた。以来、わたくしにとって大切な指針だ。

それに、愛しい婚約者()に死んでほしくなかった。

だから、この男と結婚するしかなかった。

領民を守るために。婚約者()を護るために。

自分の気持ちに蓋をして、涙を呑んで王太子(アンハイド様)に平伏して告げた。

「かしこまりました。貴方様と結婚いたします。ですから、どうか、どうか、領民とわたくしの婚約者()には手を出さないでください。お願い申し上げます」

「わかってくれたんだね、ダーヤ!さあ、王城に行こう」

やっと欲しいおもちゃが手に入ったような王太子(アンハイド様)は上機嫌で、わたくしを王城に連れて行った。

わたくしは心に誓ったの。

領民たちを守るため、婚約者()を守るため、王太子(アンハイド様)の隣に立つと。

そのために、心に本当の気持ちを固く、固く鍵をかけて漏れない様にして全てを隠そうと。

だから、わたくしは王妃教育を頑張ろうと決めた。

そうして、王太子(アンハイド様)の元に嫁ぐべく、王妃殿下の実家であるセイギョク公爵家に養子となった。

その後、王妃に未来の王妃としての教育を受けた。

サファイア公爵家の屋敷で生活ではなく、王城に一室与えられ、そこで生活していた。

教育は苛烈で、筆舌し難い程凄まじいものだった。

ムチで叩かれるのは毎日のこと。

王妃や王妃付きの侍女たちから陰口暴言は当然。

侍女や騎士が言うことを聞いてくれなくて当たり前。

下男、下女からさげずまれるのもよくあること。

そのくせ、わたくしがやってもないことをしたと、王妃に報告し、わたくしが説教を受ける。説教に言い返せば叱られ、殴られる。

わたくしの家族を奪ってまで手に入れたかったはずの王太子(アンハイド様)は城のもの所業に見て見ぬ振り。

そのくせ、毎日毎日茶会やら、散歩などを誘いにわたくしの部屋を訪ねてくる。

それはまるで幼子がお気に入りの人形で遊ぶようだった。

そのような扱いが侍女や騎士達の所業を悪化させる。

わたくしはこの終わりの見えぬ円環のなか、一度たりとも逃げなかった。否、逃げられなかった。

だって、常に見張られているもの。

朝から夜まで、いや一日中、一秒たりとも、側近という名前の侍女と騎士たちが離れることはなかった。これは最早見張りとしか言いようがないだろう。

毎日精神的にも肉体的にもボロボロになっていた。

更に、わたくしが逃げれば大切な元領民が、元婚約者()が、殺される。

そんな状況で逃げられるだろうか。

そんなわたくしの生活(地獄)でわたくしにとって学園に二年間通うことが逃げ場(希望)だった。

監視の目が緩むから。

侍女たちの嫌がらせを受けずにすむから。

いや、一番は元婚約者()に会えると思っていたから。

とはいえ、学園という名の社交の場ではあるため、表立っては交流できないが、その姿をこの眼に焼き付ける、それだけが楽しみだった。

それなのに!

わたくしはただ、ただ、元気にしている元婚約者()を、一目、一目で良いから、見たかっただけだというのに!

わたくしは学園に入学後すぐに元婚約者()の腹違いの姉に会えた。

そして、聞いてしまった。

元婚約者()は既にこの世にいないと。

話によれば元婚約者()の家の領地に行く途中に盗賊に遭い、逃げている途中で崖から落ちて死んだそうだ。

その遺体は獣に喰われボロボロでかろうじて顔が判別つく程度だったらしい。

元婚約者()の姉は元婚約者()の片見のペンダントをわたくしに渡してそう教えてくれた。

ペンダントはわたくしと元婚約者()の婚約の証。

ペンダントにはお揃いで宝石をつけた。

その宝石の名は藍玉(ランギョク)


——————石言葉は、『あなたの過去も、今も、未来も________』と、『一途な___』なんだぜ。だから、大切にしてくれよ、ぼくの大切なモンド(婚約者)。ぼくの藍玉はおまえだからな!必ず、2人でこの子爵家を守っていこうな!約束!——————


彼が、幼い頃にそう言ってわたくしにくれたペンダント。

王城に来る前にわたくしのペンダントは元婚約者()の家に送り返した。

元婚約者()はペンダントを2つとも大切に保管していたようだ。


わたくしは元婚約者()の姉の話を聞いて少しした後、残酷な事実に気がついてしまった。

元婚約者()が亡くなったのは事故ではない。

元婚約者()が通った街道沿いに盗賊は出ない。

誰かが故意に殺した可能性がある。

それは王太子(アンハイド様)の可能性が最も高い。

それに気がついてしまったわたくしの光は、理性は、皹が入って大きく欠けてしまった。

その時はまだ一筋、ほんの小さな光が、理性が、残ってはいた。

だが、悪いことは続く。

わたくしの元領民は()()起きた、火事と盗賊で多くのものが命を落としたそうだ。

さらに、麻薬の取引が発覚し、残った元領民たち全員は狂っていたそうだ。

これは本当に偶然だったのだろうか。

いや、そんなはずがないだろう。

ほぼ間違いなく、王太子(アンハイド様)がやったことだろう。

その可能性に辿り着いた瞬間わたくしの希望は、心は

砕けて、壊れた。

それからのわたくしは光が消えた眼で、人形のように何も考えずアンハイド様(王太子様)ただただ従って学園生活を送っていた。




どうして、はわたくしを置いていったのだろう。

どこに、領民たちが死ぬ必要はあったのだろう。

……あぁ、何故(なぜ)わたくしはアンハイド様(王太子様)と結婚するの?

何故(なにゆえ)アンハイド様(王太子様)と結婚する元婚約者()ために生きていなければならぬ?

何故(なにゆえ)元婚約者()を殺したアンハイド様(王太子様)は許される?


終わりのない問いを続けながら。

砕けて壊れた光と理性の狭間で。

惰性でただ、生き続けていた。





そんな中、わたくしは不可思議な話を教えてもらった。

それを聞いたわたくしは闇の中に一筋の光を見た気がした。

それは、『時折、身分を忘れて、恋愛に走る高位貴族と王族(愚か者と馬鹿ども)が公の場で婚約破棄をする』というもの。

公の場で婚約破棄をすれば、相手側が何かしらの咎がない限り、した者が廃嫡、平民落ち、修道院行き、など重い処罰を例外なくうける。

それでも、その高位貴族と王族(愚か者と馬鹿ども)やるらしい。相手に咎があると責め立てて。


それが今代のこの国の王太子様(アンハイド様)とその側近どもになったわけである。








そして、冒頭に話は戻る。






「何を言ってる?僕が君の家族を殺した?ふん、その証拠は?それがないのに事実のように言うのはやめて欲しいな!」

王太子は嘲笑(わらい)ながら、言う。

それに勢いづけられたか、愚かな側近たちが口々に罵る。

「証拠もなく、王太子殿下を疑うとは……底の浅さを知らしめたようなもの。貴女は王妃にふさわしくない!」

「そんな言い訳しようと、貴様がシトリンを虐めた事実は変わらないんだ!さっさと罪を認めて、シトリンに謝れ!」

「貴女、頭が良いことしか取り柄がないのですから、言い訳などなさらず、早く自白なされてはいかがですか。貴女がシトリンを虐めたという揺るぎない証拠はこちら側は出せるのですよ」

あぁ、愚かだ。王太子やその側近達は恋に盲目のあまり、ここ最近のモンド 様の予定を把握していないのだろうか。

ここ最近、モンド 様はほとんどの時間を王城で過ごし、周りには王太子や王妃の配下のものではなく、セイギョク公爵家の手の者が1秒足りとも離れずにいたと言うのに。そんな状況でどうして、男爵令嬢ごときに嫌がらせや虐めを行えるのだろうか。どうやって、罪を着せる気なのだろうか。あぁ、愚かになったからそんなことにも気がついていないのか。まぁ、気が付かないように立ち回っていたんだろうけど。

とはいえ、突然の宣言に取り乱しているように見えるモンド 様は碌な反論を行わない。まあ、それも周囲の者たちからすれば一種の異様な光景とも言えるが。

「アンハイド様、わたくしはシトリン様を虐めてなどおりません!これは何かの間違いでございます!どうか、弁明の機会を、お与えくださいませ。どうか、どうか、お許しください……」

ここで、引き返す、そんな選択肢は取らないのだろうか。

まあ、取れないだろうけど。

「ハイド様ぁ、シーのことダーヤモンド様が虐めたの!ほんとだよ?シーはぁいちども嘘ついたことないでしょう?信じて欲しいのぉ」

「あぁ、勿論信じるさ。君が嘘をつくはずないからね」

王太子は目の前に婚約者がいると言うのに、男爵令嬢ごときに甘い声音で、甘い顔で、言う。本当に、この王太子は愚かで、人の心が無い。

あぁ、モンド 様が壊れたように許しを乞いている。

モンド 様の家族、大切な人達を殺してまで欲しがったくせに簡単に捨てる。

周囲はどう思うのか、そんなこともわからないのだろうか。どちらが、正しく見えるか。

そんなこともこの王太子はわからなくなっているのかもしれない。


——————領民がいるからぼく達は生活出来る。いいか、ぼく達は領民の上で生きているんだ。領民を蔑ろにすればぼく達は死ぬことになるかもしれないんだからな。だからこそ領民を大切にしろよ——————


今亡き兄が藍色の宝石のついたアクセサリーを握りながら、婚約者と共に婚約者の父君から教えてもらったと嬉しそうに教えてくれたことが昨日のことのように思い出される。

領民を、民を蔑ろにするものには未来は無い。

目の前の男(王太子)は民を、臣下を、躊躇いもなく殺した。

そんな奴に未来は必要ない。

私は“___の女”だから。

だから、躊躇わず、この結末へと私達は導く。




わたくしは“___の女”。

周囲から見れば“哀れな女”だ。

だから、王太子様(アンハイド様)の突然の宣言に泣きながら、許しを乞う。

壊れたように。

ずっと。ずっと。

そうこうしている間にこの国の王がお出ましになられた。

国王陛下は開口一番に

「王太子、余の息子よ。婚約破棄を行うその理由を説明せよ。ダーヤモンド嬢のどこに瑕疵があったのだ」

そう、王太子様(アンハイド様)に向かってお言いになられた。

「父上、ダーヤはこのシトリン男爵令嬢を、虐めたのです。これは未来の王妃に相応しい行動ではありません。故に僕はダーヤとの婚約破棄を宣言し、断罪しているのです!」

王太子様(アンハイド様)は愚かにも陛下に向かって嬉々と宣言なされた。

陛下は王太子様(アンハイド様)のその宣言をお聞きになり、呆れたように仰せになられた。

「ダーヤモンド嬢が男爵令嬢を虐めただと?そのような証拠はあるのか?第一、ここ暫く、学園にも行かず政務の手伝い王城でしていたのにも関わらず虐める暇があったと、そう言いたいのか」

これを聞いた王太子様(アンハイド様)は突然、慌てたように言った。

「そんなはずありません、父上!ダーヤが学校を休んでいた?そんなこと僕は聞いていません!」

「言っておらぬ。余がそうすべきと判断したからな」

この言葉に王太子様(アンハイド様)は撃沈した。

「証拠は全て偽物だったと、父上は仰せになられるのですか……」

それでも、反論する気力は多少残っていたらしい。

「そうだ」

だが、陛下は無情にも肯定する。

「ねぇ、どういうことぉ?シーはダーヤモンド様に虐められたの!それを成敗してくれるってハイド様はぁいったよねぇ!どうしたのぉ?」

この空気の中、シトリンは怖いもの知らずに王太子様(アンハイド様)に問う。

王太子様(アンハイド様)はその先を言われるとまずいことでもあるのか、それまでは甘い声と顔で返答なされていたのにも関わらず突然厳しい声で言う。

「そんなこと、僕は言った記憶は無い。証拠を偽り、僕達の品位を貶めようとした愚か者め!僕のそばに近づかないでくれ!」

あまりにも正反対な行動をする王太子様(アンハイド様)

それに戸惑ったようにシトリンは言う、

「どぉして?どぉして、そんなに突然シーに冷たくするのぉ?どぉして?だってぇ、言ってくれたのにぃ、ハイド様。言ってくれたよねぇ?ほらぁ、証拠ならここにぃあるよぉ?」

シトリンはそう言って、ドレスから録音機を出す。

そこから流れる声。それは王太子様(アンハイド様)達が交わした会話のようだ。

『あぁ、夜会で断罪しよう』

『賛成です!』

『あの女を懲らしめましょう!』

『これで、シトリンの身は安全になりますね!』

『あぁ、ダーヤには修道院に追放でもして後でこっそり暗殺すれば良い。僕が命令すれば大人しく従うはずだから』

『シーに何かぁして欲しいことぉ、あるぅ?』

『あぁ、ダーヤのことを告発してほしい』

『わかったぁ。ハイド様がダーヤモンド様のことぉ、断罪するのぉ?』

『勿論。だから、これからは安心してほしい。必ずあの女を殺して君の視界から消すから。そのあとは父上に天へ行っていただこう。そうすれば君は王妃だ』

『国王陛下を殺すのぉ?』

『そうだ。そうすれば誰も僕達を断罪できなくなるからな。安心しろ、シトリン。もう計画はできている。必要なモノも準備済みだ。あとは実行するの待つだけだ』

『そんなのぉ、ダメだよぉ。シーは人を殺したくないよぉ』

『シトリン、この計画に乗らないのなら、君は家族とお別れすることになるよ?良いのかい?』

『家族と、お別れはいやぁ。言うこと聞くよぉ、シーがダーヤモンド様告発するぅ』

音声の再生をシトリンは止める。

これは決定打だ。

物証も王太子様(アンハイド様)の私室を探せば出てくるだろう。

これではもはや、言い逃れはできない。

それでも、王太子様(アンハイド様)は罪を逃れようと、わたくしに同意を求めるように言う。

「これは、偽りだ!僕がこんなこと言うはず無い。そうだな、ダーヤ?」

でも、わたくしは人形では無い。だから、王太子様(アンハイド様)の思い通りの言葉を吐く必要は無い。

王太子様(アンハイド様)、わたくしが全て悪いのでございます。だから、どうかわたくしの周りにいる者を殺さないで下さいませ。どうか、どうか、お許しくださいませ。お許しくださいませ……」

「……ダーヤモンド嬢を壊したのはお前だろう。その上、その録音の声はアンハイド、お前のものに間違えない。ゆえに余がお前を断罪する。……近衛、アンハイドを地下の牢へ。側近たちも同様にな。それと、アンハイドの私室も探せ」

近衛が王太子様(アンハイド様)の元へ行き、捕らえる。

その側近達も同様に。

だが、シトリンだけは別のようだ。

「シトリン男爵令嬢。そなたはその録音を提出したこと、脅されていたことを踏まえひとまず、拘束はしない。ひとまず、王城にて話を聞かせてもらう」

「かしこまりましたぁ」

「ダーヤモンド嬢も一旦、王城に来てもらおう。話を聞かせてほしい。聞けるかわからぬが」

こうして、わたくしとシトリンは一旦王城に行った。

わたくしは王城に着く頃には落ち着いて話ができる程度には回復した。

そして、翌日の朝から、今までの王太子様(アンハイド様)の所業やここ最近のことなど出来るだけ話した。

なぜか、事情聴取をしていた側の人たちの顔が青くなっていたが。

なぜでしょう?

わたくしは素直に話しただけだと言うのに。

王太子様(アンハイド様)の言うことは絶対なの。

逆らったから、わたくしの父上は、母上は、姉上は、妹は、使用人たちは、元婚約者()は殺されたの。死んだの。処罰されたの。わたくしを置いていったの。

だから、王太子様(アンハイド様)に絶対に逆らってはならないの。貴方方もお気をつけてくださいませ。

あぁ、侍女達にも逆らってはなりませんの。わたくしをいつも見張っておりますの。だから、わたくしが王太子様(アンハイド様)の意向に外れた行動とってしまった時は教えて下さいますの。いつも、罰としてお外に1時間放置や、お部屋に出るのを禁止されたり、コルセットを限界以上まで縛られたりするの。騎士達も、見張りなの。わたくしが王太子様(アンハイド様)にとって危ないことをしてしまったときに注意して下さるの。その時は罰として、暗い部屋に1人で放置されたり、殴られたりしたの。わたくしは愚か者だから、何度も注意されてしまうの。その度に気をつけているのに。わたくしが愚かだから。仕方がないことなの」

こんなことを話していた気がする。

どこにも狂気的な内容も無かったと思うのに、どうして皆さまは顔を青くさせていたのかしら?

話し終えたのは夕方だった。

わたくしはその日も王城に泊まることになった。

王城で1番高い部屋に来ることができるなんてわたくしは幸せだわ。













「ありがとう、この茶番に付き合ってくれて」

「いいえ、私の方こそ復讐に付き合っていただいたことへの感謝の気持ちでいっぱいです」

「そう。元婚約者()と死んだと聞いてから歓べる気がするわ。元婚約者()の妹の貴女があの話を教えてくれたおかげよ。……でも、貴女とはここでお別れね。本当にありがとう、シトリン」

「ええ、こちらこそありがとうございました。モンド義姉様。そして、さようなら」

わたくし達はそこで別れた。

今も過去も未来もずっと彼だけを愛している。一途に、愚かなほど愛してる。

元婚約者()の姉からその死を伝えられ、

元婚約者の妹(シトリン)から計画を持ちかけられ、

わたくしは“さいご”決めたの。

だから、

王城で最も高い部屋から、

彼との婚約の証を握りしめて、

わたくしは復讐を完遂させた歓びで心を満たし、

わたくしはその身を






(そら)に舞わせた。


















「令嬢達は自殺した。……遺書にお前の助命を願うと書かれていた。故に減刑し、お前を塔に幽閉するだけにする。これは最大限の慈悲のつもりだ」

嘘だ

嘘だ嘘だ

嘘だ嘘だ嘘だ

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

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彼女が彼女が彼女が自殺するなんて嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ



狂気の中で生き続ければいい

私たちはあなたのせいで 藍玉 を失ったの

あなたがいなければ 彼 は生きてた


だから


罰を永遠に受けて下さいな

わたくし達の望みはただそれだけなのですわ

愚かな愚かな元王太子様

















モンド、シトリン。

貴女達の復讐相手は一生苦しみ狂って生きていくわ。

これで満足でしょう。

モンドは

『彼がいない世界で生きている意味は無いのです』

シトリンは

『兄様と愛しい人がいないのに生きる必要はある?』

そう言っていたわね。

あの子も

『モンドと共に生きること、それがぼくの生きる理由なんだ。モンドがいないなら、生きる理由は無い』

そう言っていたわ。

あの子がそう言ったからかしら、うっかり伝言を伝え忘れたの。

『いつかモンドを取り戻す。もし、ぼくが道半ばで果てたら、モンドとシトリンの2人に伝えてくれ。ぼくは復讐を望まないって。シトリンはきっとモンドの復讐に協力しそうだからな。信頼してるんだから託すからな。頼んだぜ』

うっかり忘れていたのよ?

この言葉を伝えたとき貴女達はどうしたかしら?

全てに絶望して自殺したかしら?

それともこの伝言に反してまで復讐したかしら?

復讐をしないと言われると困るから2人にはうっかり言い忘れたのよね。

モンド、シトリンはね、貴女が飛び降り自殺した日の朝に自殺した姿で見つかったの。

ナイフで首を刺して死んでいたそうよ。朝、一番最初に見つけることになった侍女はその凄惨な現場を見てしまったことで心を病ませて辞めてしまうほど、酷い死に様だったのよ?

シトリンは婚約者と同じような死を願ったのかしら?

遺書には

『愛する人がいない世界で生きている意味がない』

とだけ書かれていたそうよ?

“愛する人”はあの子かしら?それともあの茶番の日より1年前に元王太子の悪事の証拠(あの子を殺した事実)を見つけて訴えるのに失敗して事故死(暗殺)なされた婚約者の方かしら?

貴女も、シトリンも本当によく似ていたわ。

婚約者の、元婚約者の復讐を決めた理由。

そして、その後選んだ、“さいご”(幕引き)

2人とも、亡くなった婚約者と同じようなやり方で逝くだなんて。

本当に貴女達はそっくりだったわ。

あれからもうすぐ半年。

明日、結婚するの。

だから、わたしはこの結末を選ぶわ。

お父様には3度もこどもを見送らせて申し訳なく思うわ。

お父様、お兄様、お元気で。

さようなら。



ダーヤモンドに元婚約者の死を教えた元婚約者の腹違いの姉は結婚式の朝に静かに息を引きとった。

その枕元には古びた一枚のメモと藍色の宝石が置かれたそうだ。

そこには

『藍玉の石言葉

 過去も今も未来も貴女を愛する

 一途な愛』


後から誰かが付け足したのかその裏にこう書かれていた。

『2人の少女に婚約の証として贈られた宝石

 美しく素敵な石言葉

 そこに宿るは狂気か重い愛か』


















さあ、【悪】はどこにある?




何が【悪】なのかな?




誰が【悪】だった?










朝日は上る

今日も何処かで

                  絶望の声が

喜悦の声が

              怨嗟の声が

       悲哀の声が


          響いている


         響き続けている











お読みいただきありがとうございました!

ここから下は設定的なものについての補足を載せておきます。





○視点について

ダーヤモンド視点→ダーヤモンドの過去を追体験→シトリン視点→ダーヤモンド視点→王太子→シトリンとダーヤモンドの声→婚約者(彼)の姉視点  です。


○登場人物たちの名前などの由来。

名前は全て宝石から。【】は和名

・ダイヤモンド【金剛石こんごうせき

 石言葉 変わらぬ愛、永遠の絆 など。

・アンハイドライト【硬石膏こうせっこう

 石言葉 愛、積極性 など。

・シトリン【黄水晶きすいしょう

 石言葉 初恋、甘い思い出、友情 など。

・サファイア【蒼玉せいぎょく青玉せいぎょく

 石言葉 忠実、真実 など。

・パパラチアサファイア【藍玉(らんぎょく)

 石言葉 あなたの過去も、今も、未来も愛している

 一途な愛、運命的な恋 など。

名前のある登場人物たちは石言葉を性格の土台としているつもりです。また、名字が和名、名前が宝石のカタカナの方の名前になっています。





拙い小説、補足を最後までお読みいただきありがとうございました!

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