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ファンタジー系

とある斥候の困惑

作者:

リハビリに短編


初めて見たときの印象は普通の子だった。


何事もなく平凡平穏に暮らしていたハズの、まだ子供といえる年齢の男の子。


聖女様が聴いた託宣の下、探され選ばれた世界を救う可能性を与えられたただ一人の勇者。


魔王軍に見つかりにくいよう、少数精鋭で旅をして世界に魔物を蔓延らせ、魔族の力の源である魔王を討つ。


そういう設定。


だけど真実は違う。


託宣で選ばれた本当の勇者はやんごとなき身分を持った方で、政争の真只中で劣勢の立ち位置にいた。


故にそこから離れる事はできず、離れるとしたらただ勇者として出るよりも大きな見返りを。


その為に用意された生贄があの子。


託宣に合うというだけで犠牲となる事を前提に選ばれたあの子には、また訳ありの仲間がつけられる。


真に力を持ち飾り物では収まらない聖女、英雄とも謳われた先の王妃の忘れ形見でその才能を受け継いだ姫騎士、女でありながら同年代の男よりも圧倒的な才覚を示した魔法使い、冒険者上がりの平民で貴族の軍人の立場を揺るがしかねなかった歴戦の戦士、そして死んでも替えが効く駒の一つである私。


他のみんな有能ではありながら、多くの人に犠牲となるのを望まれた人たち。


私達が魔王軍にやられた後に、その意思を次いで立ち上がり魔王を撃った勇者を超える英雄、っていう茶番劇のために用意された前座。


まったく、酷いパーティだ。


そんな酷いパーティの中で一番の貧乏籤を押し付けられた勇者は見てるだけでも散々なモノだった。


何せ本当は只の一般人。


勇者としての力や才覚を期待されても、元々持っていないのだから。


それを知っている仲間は私一人、いやもしかしたら戦士は途中で気づいたかもしれないけども。


そんな訳で、才能と力に満ち溢れる姫騎士、魔法使いは何も出来なかったあの子に厳しかった。


聖女は優しくはあったが、どれだけ訓練と経験を積んでも中々成果があがらないあの子によくため息をついていた。


そんなあの子に辛抱強く寄り添い教え込んだのは戦士。


手探りであの子にあった動き方、戦い方などを探し、自分の知識と経験を伝えていた。


その成果が出始めたのは二年ほど旅を続けた頃。


幼さを残していたあの子もきちんと青年になり、身体がしっかりと出来上がった。


力も体力も相応のものになり、一端の戦士として通じる実力を持った。


そもそもまだ子供よりの年齢の子に過剰な成果を求めていたのが間違いだったとも言える。


そんな訳で、段々とみんなからも認められていったあの子だけど、途方もない壁にぶち当たってしまう。


勇者の為に天が授けた武具を納める神殿での試練。


そう、只の一般人であるあの子が天が下す試練を受けるのだ。


当然ながら、失敗した。


だけどあの子は諦めずに何度も試練に立ち向かった。


仲間たちも、神殿の人ももう駄目だ、別の方策を考えた方がいいと言っても、立ち向かった。


その間に、あの子は本当に託宣で選ばれた勇者なのかという疑問が投げつけられる。


そういう事になっているが、自信を持って彼は勇者だと言える仲間は居なかった。


不信が渦巻き息苦しい最中、試練の間から神々しい光が漏れたのを見て、みんなが集まった。


そこには天の試練に打ち勝ったあの子の姿。


諦めなかったあの子を、王都で下らない政争に明け暮れるアレよりも勇者に相応しいと天が認めた瞬間だった。


この事実は王都の方でも衝撃だったらしく、こちらが秘密裏に出してた定期報告を送る前に何か知らないかと連絡がきたぐらい。


アレ程に痛快だった事は私の人生の中ではなかった。


実に気分が良い。


それからは誰もあの子を勇者かどうかを疑う人はいないし、仲間たちも完全にあの子のことを認め、旅は苦難は絶えずあっても順調に進んでいた。




「またソレ書いてるのか」


私が木の陰でこっそり暗号文で報告書を書いていたら横からそう言葉がかけられる。


目線をずらせばあの子、勇者の姿。


「決戦が近くてもお仕事ですから~。あ、送る前に確認してみる?」


「毎度毎度、対象に中身をチェックさせる監視報告書ってどうなの」


そう言いつつ、勇者は報告書を受け取って斜め読みする。


旅の合間に色々と教えた成果もあって、暗号文もすんなりと読めるまでに成長したのは教師役冥利に尽きるというもの。


「別に見せるなとは命令されたないからね~」


「常識の問題なんだよなぁ」


勇者は私の隣に腰を下ろす。


「こんな所に居ていいの?聖女様達が探してるんじゃない」


「何処に居ても俺の勝手だし」


「困るのは私なんだけど」


本命が使えなくなったからこそ、私達の重要度は逆転している。


失敗したら次の勇者が現れるのに何年かかるかわからない。


そうなると人類滅亡も笑い事じゃなくなるため、絶対に失敗できない傍ら。その後の事も重要視されている。


勇者を如何に国に引き留めて利用するか、その為にも元々高位の仲間たちの誰かと結ばれるのがてっとり早い。


今は勇者の気が誰かに向くよう色々とするのもお仕事の内にある。


正直なところ、勇者にはもっと気立ての良い娘を宛がいたいけど、言われたらしないといけないのが宮仕えの悲しいところ。


「それよりも、あの約束覚えてる?」


「どの約束?」


無駄遣いをしないことか、姫騎士達に愉快な無駄知識を教えないことか、町に寄る度に酔っ払いから賭け事で有り金を毟り取らないことか、他にも色々とあってマジでわからない。


「旅にでる前のこと。俺が勇者じゃないっていきなりぶっちゃけた時にしただろ」


「あれか」


生贄に選ばれた勇者を可哀そうに思ったのと、そういう事をする連中にむしゃくしゃしたから勇者にぶっちゃけて約束をした。


逃げたくなったら逃がしてあげること、死にたくなったら殺してあげること


逃げ道があった方が追い詰められた時、気が楽だから。


すぐに心が折れて逃がしてと言うと思ってた。


その時には一緒に逃げて、追っ手に殺されてあげるのもいいかとも思ったものだけど、今では押しても押されぬ立派な勇者になってるんだから、私の眼も当てにならない。


今となっては意味のない約束だけど。


「あれがどうしたの?」


「頼んだ時に忘れてたら困るだろ」


「え?頼む予定があるの?」


あの理不尽試練に打ち勝った勇者がそう言うとは思わなった。


けど、勇者も人の子。


何が切欠で心が折れるか他人にはわからない。


「まぁ構わないけど、逃げるにしても殺るにしても今よりもどこか大きな町に立ち寄った時のほうが――」


「今じゃないし、死ぬ気もないから」


「でも魔族の本拠地まであと少しだよ?今じゃなかったら私の手助けなんて役にたたないよ」


「魔王は斃すよ。魔族や魔物がうろついてたら邪魔だし」


あの弱かった子が今では魔族や魔物をこの扱いですよ。


でも、それじゃあ意味が通らない。


「死ぬ気もなければ逃げる気もないなら、あの約束自体いらないでしょ」


勇者が残念なモノを見る目でこっちを見てくる。


年上への礼儀が足りないな、おい。


「魔王討伐した後の話だよ」


「いや、逃げる必要はないでしょ。それともちやほやされたり王族や貴族に政治利用されるのが嫌なの?まぁ、面倒臭いだろうけど、美味しい物は食べれるし、可愛い女の子や美しい美女とかからもモテモテになれるから悪いことばっかりじゃないよ」


代わりに仲間たちが魔王との決戦以外で争うことになるかもしれないけども、それは勇者が思い悩むことでもないだろう。


頑張れと密かに仲間たちに声援を送っておくことにした。


「でも、逃げる。その時には、一緒に逃げてくれるんだよな?」


「んー、約束だしそこまで嫌なら手伝ってあげるよ。魔王のとこからなら帰り道の途中まではそのまま進んで、船で他の大陸に行っちゃうのがいいかな。通達速度次第では高速船で先回りされてるかもだけど、こっちの大陸でほど好きには出来ないから勇者なら逃げきれるよ。後はあっちで目立たない程度に冒険者家業をして馴染んだ数年後辺りに現地の人と結婚でもしたらいいよ」


「……なんか途中で俺一人になる感じじゃないかそれ」


「二人で逃げたっていう情報が回るだろうから船まで行けば別れた方がいいよ。ほんとは面相も変えたほうがいいけど、安全に出来る薬を手に入れるのはちょっと無理があるし。適当な相手を見繕って私が囮になっておくから、その間に勇者は―――」


言い終わる前に地面に倒され、勇者の顔が真上にある。


倒れた私の上に手足で踏ん張りながら勇者が覆いかぶさる形。


「別に囮にならなくても、追ってなんて全員倒せば問題ないだろ」


「いや、でもそっちの方が、確実……」


勇者の目力に言葉が途切れる。


何が不満なのかこの子は。


「……はっきり言わないと分からないようだから言うが、俺はお前と一緒に居たい」


「…………………んん?」


待って、流れがおかしい。


魔王を斃して逃亡する話だったよね。


で、私が囮になるのを反対して、一緒にいたいと。


あー、あー、あー。


いや成程。


体は大人になってると思ったけど、勇者も年下の男の子というわけか。


まあ、行ったことの無い別の大陸だしね。


私も無いけど、色々と心配だから保護者が―――


「一応念押ししとくけど、一人が嫌とか保護者が欲しいとか思ってるんだったら間違いだぞ」


何なんこの子。


じゃあ一体全体何だって










「これで分かった?」


「え?はえ?」


「俺はさ、諦めが悪いよ。斥候だけが俺を勇者だって言ってくれた時の様に、何度でも、絶対に」


そう言い残して去っていくあの子。


顔が熱い、思考がまともにまとまらない。


あの子の話を思い返してみて、両手で顔を覆ってうおーって唸り声をあげながらごろごろと左右を転がる。


碌に女の子への接し方も知らないかった癖に何処であんな事を覚えた―――――昔、姫騎士達への接し方を教えるついでに、そういうのが流行ってるんだよってからかい混りに教えた気がするな。


でも、実践するか普通!


ああ、ほんとっ


「…………なまいき」



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